iPadは本当に“安い”のか?――Appleスペシャルイベントを振り返るAppleイベント現地リポートまとめ(前編)(2/3 ページ)

» 2010年01月29日 21時49分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

初登場でアプリ資産はすでに14万以上、周辺サービスの魅力で攻める

 iPadの次の目玉がスペックと、その搭載ソフトウェア、そして新サービス「iBookstore」だ。スペックについては1GHz駆動のApple A4という謎のプロセッサを搭載しているとのことだが、iPhone OSやアプリがそのまま動作していることを考えて、中身的にはARMベースの最新プロセッサだとみられる。

 大型で高機能版iPhone/iPod touchという印象のiPadだが、注目すべきはマルチタッチに対応した9.7型IPS液晶ディスプレイと、10時間動作を可能にするバッテリー容量の大きさだ。事前に電子ブックリーダーとしてのiPadの話があった以上、ディスプレイでの文字の読みやすさとバッテリー駆動時間は重要なポイントとなる。その問題をクリアできるだけのスペックを実現した点は高く評価したい。

iPadで特徴的なのが9.7型IPS液晶ディスプレイと10時間連続使用が可能なバッテリーだ。電子書籍用途などを考えても、10時間のメリットは比較的大きい。E-Inkを採用した電子ブックリーダーと比べて画面が見づらいのではないかという心配も、実際のデモを見れば吹き飛ぶだろう

iPadの鍵を握るものの1つがApp Storeの豊富な資産。すでに14万以上登録されたアプリ群がそのままiPadで利用できるという

 iPadではiPhone OSがそのまま動作するが、これが意味するのはApp Storeのアプリ資産の継承だ。14万以上というアプリがそのまま使えれば、それだけでiPadは魅力的なプラットフォームになる。ただご存じのように、320×480ピクセルという比較的低解像度の固定サイズスクリーンで3世代にわたってiPhone/iPod touch製品がリリースされ続けてきたこともあり、多くのアプリはこの固定長サイズの画面を基準に作られている。

 そこでiPadでは既存アプリのピクセルを2倍に引き延ばすことで、比率や基本解像度そのままに画面の大型化を行っている。これはハードウェアとOS側で処理されるため、既存アプリはそのままの状態でiPadの大型スクリーン環境を利用できる。もちろん、XGA(768×1024ピクセル)というiPadの新しいスクリーンサイズを利用できたほうがいいわけだが、それは今後開発者側が2つのプラットフォーム向けに異なる表示方法を採用したアプリをリリースすることで対応していくだろう。

iPhone OSを搭載したiPad。画面の解像度がiPhone/iPod touchと違う以上、そのままでは既存アプリは写真で示したように表示されてしまう。そこで自動的にピクセル数を倍にすることで、既存アプリであってもiPadで利用できる。もっとも、iPad対応アプリであればこうした心配はないだろう

ソファに座ってiPadを操作してデモを行うのは、AppleのiPhoneソフトウェア担当シニアバイスプレジデントのスコット・フォーストール(Scott Forstall)氏。これがiPad操作の基本スタイルのようだ

 イベント同日、Appleは最新のiPhone OS 3.2 SDKを発表しており、このエミュレータを使って、実際にiPadがリリースされるまでの期間、さまざまな新アプリ開発や動作検証を進めていくことになる。

 だが、一部デベロッパーに対してはすでにiPadや新SDKを渡して対応アプリ開発を依頼しており、ステージ上のデモではゲームなどを中心に、iPadのフルスクリーンサイズや3点タッチなどの新機能を活用した例が見受けられた。iPad専用アプリという意味ではiWorkが面白い。MacユーザーにはおなじみのiWorkのiPad版だが、タッチ操作やバーチャルキーボード前提にかなり改良が加えられている。まず動きが非常にスムーズで“ぬるぬる”なこと、タッチ操作前提のUI、バーチャルキーボードの使い分けなど興味深いものだ。ここで登場したのがiLifeではなく、あえてiWorkという点でiPad用デモとしての特性を感じることができた。値段が1種類あたり9.99ドルと安価なのも好感度が高い。

発表日当日より最新のiPhone OS 3.2 SDKの配布が行われた。iPadアプリの検証が行えるエミュレータが目玉の1つ(写真=左)。フォーストール氏はiPhone/iPod touch向けアプリとApp Storeの関係について、ゴールドラッシュになぞらえて説明する。うまく砂金を掘り当てるのか、それともゴールドラッシュ目当てに集まった人々を相手に商売するのか……言い得て妙だ(写真=右)

iPad向けアプリの事例の1つ。iPad向けにリニューアルされたNew York Timesリーダーで、コンテンツの段組やレイアウト、フォントサイズの変更、記事中に埋め込まれたプレイヤーで動画再生などが可能。NYTがAdobeのAIR向けに作った専用リーダーと機能的には近い(写真=左)。iPadでマルチタッチを体験するのに最適だと思われるのがイラストレーション用ソフトウェア。Brushesでは、ペン先や色の変更、レタッチなど、タッチスクリーンを思う存分に使ってイラストを作成できる(写真=中央)。もう1つ興味深いのが米メジャーボールリーグ(MLB)の作ったMLB.comアプリ。試合のスコアや選手データ、経過の中継やリプレイ、ストリーミングなど、MLBをありとあらゆる角度から楽しめる。ある意味でリビングや生活密着型のiPad向きのアプリといえる(写真=右)

今回のイベントで、おそらく多くの来場者にとって意外だったのが、iWorkのアップデートだ。ほかの2人と同じポーズで紹介するのはApple製品マーケティング担当シニアバイスプレジデントのフィル・シラー(Phil Schiller)氏で、iPadならではのタッチ操作を使ったiWorkファイルの編集環境について説明した

Keynotesのアップデート内容は明快だ。ドラッグ&ドロップでオブジェクトの移動やサイズ変更を行ったり、スライドの順序を入れ替えたりできる。画面を切り替える際の複雑なトランジションもスムーズに再生できるあたりが、iPadのパフォーマンスの高さを示している

Pagesもなかなか興味深い。このソフトウェアは文字入力が主体となるが、バーチャルキーボードとタッチ操作による編集機能で、かなりサクサクと作業が行える

ページスキップもサムネイルが出てビジュアル的に分かりやすい。面白いのは切り抜きの行われた画像を挿入したときのテキストの送り込みで、画像をドラッグするとリアルタイムで文字の位置も移動する。まさに“ぬるぬる”だ

NumbersはiPad向けにうまくブラッシュアップされている印象だ。セルを選択すると、セルの属性に合わせて最適なキーボード(文字やテンキー、数式入力など)が出現する。数式がうまく入力できるのはソフトウェアキーボードならではの特徴だ。もちろん入力内容に応じて自動で数式が設定されることもある

グラフの種類や色も増え、作成した円グラフのパーツを切り離して強調できるなど、ちょっとした細工も可能。iWorkの各製品、これだけの機能を備えてソフトウェア1種類につき9.99ドル。かなりお手ごろだ

 そして最後の目玉が電子ブックアプリ「iBooks」と、その配信サービスである「iBookstore」だ。残念ながらハンズオンで用意されたデモ機ではiBookstoreが動作しなかったため、値段や配信方法、検索システムなどサービス概要については不明だが、iTunes StoreやApp Storeですでに好評を得ているAppleなので、ある程度以上期待できるものになるだろう。

 むしろ問題はコンテンツの充実度のほうで、リーク情報の段階でも多くの出版社や新聞社と交渉にあたるAppleの様子が散見できた。Amazon.comのレベルに最初から追いつくとは思わないが、評判を得て少しずつパートナーを増やしていく形態が理想的だ。ちなみにiBooksはiPadからも直接購入可能ということで、このあたりはiPhone/iPod touchのiTunes Music StoreやApp Storeと同じ位置付けだろう。

そしてiPad最大の目玉は、電子書籍サービスの「iBookstore」だ

電子ブック版App Storeといえる「iBookstore」では、提携各社のコンテンツを楽しめる。iTunesを使わずとも、iPadから直接iBooksを購入することも可能だ

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