QNAPのTurboNASシリーズのラインアップは非常に幅広い。ベイ数では1、2、4、5、8を取りそろえ、CPUもARM系のMarvell 800MHzやAtom、Core 2 Duo 2.8GHzと、まさにエントリーモデルからハイエンドモデルまでを網羅している。このうち、連載の第1回、第2回、第4回で取り上げた「TS-639Pro」はアッパーミドル、連載第3回の「TS-110」はエントリーモデルだ。今回は“最強NAS”の中でも最高峰に位置する「TS-809U-RP」を紹介していこう。データセンターや社内サーバルーム向けのラックマウント型ハイエンドモデルだ。
昨今のサーバ環境におけるキーワードは「HA(High Availability)」「仮想化」「クラウド」など、物理的なサーバに縛られない柔軟で高可用性を持ったサービスに関連するものが多い。サーバを二重化して1台が故障しても途切れないサービスを提供する、サーバを仮想化して1台の物理サーバ上で複数の仮想サーバを動作させる、さらに複数の物理サーバを連携し、その上で仮想サーバを動作させることでリソースの柔軟な割り当てと高可用性を両立させるなど、ハードウェアとサービス、ソフトウェアの結びつきは緩いものになりつつある。
そこで重要になってくるのがネットワークを経由したリソースの利用・共有だ。特にオンラインストレージに関しては単なる二重化からクラウドまで、すべてに渡って必要とされるキーコンポーネントと言える。ハードウェアの制限からサービスを切り離すためにはCPUリソースとストレージを分ける必要があるからだ。
QNAPのTurboNASシリーズ、特にx86系CPUを搭載したミドルレンジ以上のモデルはこのような用途にも十分対応できる。今回取り上げるTS-809U-RPは、すでに大手メーカー各社、大学などの教育機関で多くの実績があるが、ではなぜQNAPが選ばれるのか。まずはじめにその理由を見ていくことにしよう。
ネットワークストレージには、過去から現在に至るまでさまざまな方式が存在している。それぞれにメリット・デメリットがあるため、1方式に集約していくということはなさそうだ。TurboNASシリーズは多くのプロトコルに対応しているだけでなく、そのすべてを同時に利用できる。
例えば、使用するアプリケーションの仕様により1台だけWindowsサーバを導入する、あるいは逆に1台だけLinuxサーバを導入するケースは珍しくない。そのときに同じストレージ領域を共有できることは運用設計において大きなメリットとなる。対応しているプロトコルはUNIX/Linuxで広く利用されているNFS、Windowsファイル共有のCIFS(Samba)、MacのAppleファイルサービスのほか、httpを経由してファイル操作を行うWebDAV、複数からの同時利用はできないが高速なiSCSIとなっている。
この多彩な共有方式は仮想環境でも有用だ。x86系CPUを搭載しているTurboNASシリーズは、VMware vSphereの認証を取得しており、データベースなどのブロックI/Oを多用するアプリケーション向けにはiSCSIを、ファイル指向のアプリケーションやデータストアにはNFSを利用できる。特に仮想化環境でのストレージの本命とも言えるiSCSI機能は充実しており、クラスタ化に利用されるSPC-3 persistent reservation、フェイルオーバ、ロードバランシングに対応するMC/S(複数接続セッション)、MPIO(マルチパスI/O)、複数のLUNとiSCSIターゲットのマッピング機能、LUNマスキングなどを実装している。
QNAPのTurboNASシリーズは、4ベイモデル以上ではシングルボリューム/JBOD/RAID 0/RAID 1/RAID 5/RAID 6をサポートしている。さらにRAID 5+ホットスペア、5ベイモデル以上でRAID 6+ホットスペアという構成も可能だ。もちろん、搭載ベイすべてを使って1ボリュームを構成するだけでなく、異なるレベルのRAIDを混在させて複数ボリュームを構成することもできる。
公開サービス用のストレージとしては、無停止サービスはかなり大きなウェイトを占める要件である。障害時のリビルドだけでなく、HDD交換によるRAID容量の拡張や、RAIDレベルのマイグレーションがサービスを停止することなくオンラインで可能であることも大きなメリットだ。
TurboNASの基本システムは、ミドルクラスでIntel Atom 1.6GHz+1Gバイトメモリ、ハイエンドクラスではCore 2 Duo 2.8GHz+2Gバイトメモリを搭載する。マルチタスク環境やデータアクセスの集中に耐える高いパフォーマンスはQNAP製品の特徴の1つだ。また、幅広いラインアップをそろえながらも、ソフトウェアで実現される機能には大きな違いがないことも機種選定の一助となる。QNAPを選んだ時点で機能はほぼ確定するため、あとは用途にあわせて必要十分なベイ数とCPUスペックを選定するだけでいい。
幅広いラインアップを誇るTurboNASシリーズだが、エンタープライズ向けでラックマウントを検討しているのであれば最上位機種の「TS-809U-RP」が候補の筆頭となるだろう。Core 2 Duo 2.8GHz/2Gバイトメモリ(DDR2)を搭載したシリーズ中最強のスペック、それでいて20万円台という圧倒的なコストパフォーマンスは、例え8ベイ中4ベイしか使わないとしても十分検討の余地がある魅力的なモデルだ(なお、ラックマウントモデルの実売価格や納期については、QNAPの代理店であるユニスターに直接問い合わせてほしい→問い合わせフォームへ)。
元々TurboNASシリーズの信頼性は高い。エントリーモデルを除くすべての機種においてギガビットネットワークインタフェースを2つ搭載しており、公開領域・非公開領域など異なるネットワークで同時に使用することができるだけでなく、ロードバランシングとフェイルオーバを実現する7方式のポート・トランキングに対応している。また、OSはデュアル構成のDOMに書き込まれており、片方での起動に失敗した場合は他方に切り替わったうえで自動的にリカバリが行われる。そのほか、ディザスタリカバリ対策として有効なリモートレプリケーション機能も搭載している。
TS-809U-RPはシビアな性能要件を考慮したハイエンドモデルであるだけに、より信頼性の高い構成となっている。その1つが冗長電源だ。300ワットの電源を二系統備えており、片側だけでも通常運用が可能になっている。万が一電源ユニットが故障しても他系統側でサービスを継続したまま故障ユニットを交換することができる。また、コンパクトなシステムボードの採用によってケーブルがまったく干渉しないゆったりとした内部レイアウトが実現されており、HDDベイとシステムボードの間の3連ファンによってほぼストレートなエアフローが確保されている。
その一方で、ラックに収納しての運用では利用シーンが少ないと思われるUSBワンタッチコピー機能は削除されているが、スマートファンやスケジュール機能など、ほかの家庭向け機能は搭載している。これはほかのモデルとソフトウェアリソースを共通化しているためだろう。
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