「なんだ朝日新聞は読めないのか」――高齢者がiPadを使ったら?iPadリポート総集編(1)(1/2 ページ)

» 2010年04月23日 12時00分 公開
[鈴木淳也,ITmedia]

 iPadが発売されて3週間ほどが経過した。発売当初の熱気が落ち着きつつあり、改めてiPadについて振り返ってみるにはいい時期ではないだろうか。米国での3G版発売が5月7日と正式発表される一方で、日本を含む世界での販売は5月末に遅延と残念なニュースも出ているが、2週間ほどiPadを使い続けてきた感想と、これまでに出てきたiPad関連のニュースをまとめて、iPadリポート総集編という形でお届けしていく。


高齢層にとってのiPadの不満点

高齢者がiPadに挑戦

 以前に、Appleイベント現地リポートまとめの後編として「ぼくらは“未完成”の「iPad」に期待しすぎていたのだろうか」という記事を書いたが、ここで「iPadは高齢層や教育現場、PCとは縁のやや薄い一般層あたりに需要があるのではないか?」という言葉でまとめのコメントを締めてみた。

 iPadのような“PCの一歩手前”である機能限定型デバイスは、多くの一般層を対象に潜在的な需要があるのでは、とは常々考えているが、実際のデバイスを手にしたこともあり、早速ロードテストを兼ねて、実際に筆者の両親に使ってもらうことにした。

iPadは文字が小さい

 iPadを見た両親の第一声は「思ったより(本体が)小さい」だった。両親のプロフィールを簡単に紹介しておくと、どちらも70歳を越えており、老眼もかなり進んでいる。長年PCやワープロを使っており、この世代にしてはデジタル機器に親しんでいるほうだと思う。しかしそれでも複雑な作業は難しく、簡単な文書作成やデジカメからの写真取り込み、そして写真や挨拶状の印刷が主な用途で、たまにWebでニュースや筆者の執筆した記事を見たり(当然この記事も見られるだろう)、外出先の地図や周辺情報をチェックしたりする程度だ。

 2年前まで使っていたデスクトップPCが壊れたとき、両親向けのマシン環境を一新して、15インチのソニーVAIOノート、そしてエプソンの無線LAN印刷対応カラープリンタを購入した。現在はそのマシンを毎日開いて、普段は1日数分程度、多いときで写真整理や印刷がからむと1日数時間くらいは利用している。「思ったより小さい」という言葉はこのノートPCとの比較で、その文字の細かさに対する反応だと考えている。

 筆者が携帯にiPhoneを使っているため、すでにこの種のタッチスクリーン型デバイスには触れたことのある両親だが、「iPhoneもiPadもどちらも文字が小さい」とコメントしている。iPhoneの3.5インチからiPadの9.7インチと、単純比較で倍以上のスクリーンサイズにはなっているが、単位サイズあたりのドットピッチは変化ないため、全体に表示される文字が小さい。「眼鏡をかけてのぞき込まないといけない」というのが第1の不満のようだ。

両親のノートPC(15インチ)とiPad(9.7インチ)の比較。面積比でほぼ2倍の差がある。デフォルトのままだとiPadの画面では文字が見づらいが、“ピンチ”による拡大動作で見やすいサイズを調節できるのがいいところ

 ちなみに、両親に使うように渡した携帯電話は、すべて標準文字サイズを最大にしている。また前述のノートPCは15インチのスクリーンサイズで、これはiPadの9.7インチスクリーンの約2倍のサイズとなる。だがノートPCの解像度は1280×800ピクセルで、iPadの1024×768ピクセルより若干大きい程度だ。つまり、標準状態でiPadの1.5〜2倍ほど文字サイズが大きくなる。これは筆者が「少しでも文字が見やすいように」との配慮でノートPCを購入したこともあるのだが、そちらに慣れていると「iPadでも小さい」と感じるようだ。

高齢者にとってiPhone OSの操作性は?

 iPhoneやiPadの最大のメリットを挙げろといわれたら、まずはその操作性をプッシュするだろう。高齢者にはマウス操作やタッチパッド操作が難しいことは過去の経験で分かっており、まずダブルクリックが苦手(2回目のクリック前にカーソルが動いてしまうのでドラッグ扱いされる)というのは知っていた。だが両親にWindowsを使わせてまずびっくりしたのは「右クリックが理解できない」ということだった。右クリックでメニューを出し、それを(左クリックで)選択するだけなのだが、この手順がなかなか理解できない。Macの1ボタンマウスがよくバカにされることは多いが、この「右クリック」問題を知ってからは「ボタンが多ければ多いほどマウスは便利になる」という風潮に疑問を持つようになった。その点、iPhoneやiPadではこの手の複雑な操作はないし、ほとんどのアプリはある程度直感で操作が可能となっている。

 すでにiPhoneを触ったことのある両親で、テレビのニュース番組などで実機の動作の見ていたこともあって、簡単になじめたようだ。Webで目的のページを開いたり、Google Mapsで目的地検索なども簡単に行っていた。特に喜んでいたのは、いわゆる“ピンチ”動作での拡大縮小で、見えないところはすぐに画面を拡大して確認したりと、先ほどの文字サイズに対する不満がWebブラウジングではある程度解消されている。一応、iPadはアクセシビリティ対応で「3本指でダブルクリックやドラッグ操作を行うと画面が拡大できる」という機能を搭載しているが、全体の文字サイズを簡単に変更できる仕組みがあると、高齢者にとってはいいかもしれない。

この機械で何ができるの?

両親が日本でいつも見ているという朝日新聞のWebサイトをiPadで開く。ただ、これだとPCと変わらないうえ、「紙面で見たほうがいい」との声も

 iPhoneと日本の携帯電話を比較するとき、よく「ワンセグは見られるの?」というフレーズが出てくるが、両親がiPadのサイズについて言及した後の第一声が「テレビは見られるのか?」だった。

 iPadでテレビが見られないことは、ここを読んでいるような読者の方ならほとんどご存じだろうが、「この機械で何ができるの?」という疑問は一般ユーザーであればごく自然なことで、いまどきの“テレビ離れしている若者”ならいざ知らず、ほかの多くのユーザーが「画面ついてるんだからテレビ見られていいじゃん」と思うのも当然だ。

 できないよと返事をすると、「じゃあ何ができる? 朝日新聞は読めるのか?」と返された。iPadを取り上げたテレビ番組で「本をめくるシーン」を見ていたため、これを使って新聞の紙面が読めると思ったようだ。Safariを開いて朝日新聞のWebページを見せたところ、「これじゃPCと変わらない」と突っ込まれた。そこでiPadアプリではないが、iPhoneアプリの「産経新聞 NetView」を拡大画面で見せたところ、「なんだ朝日新聞は読めないのか」と返してくる。日本に住む両親は長年、朝日新聞を購読している。

 振り返って考えてみたが、現状のiPadには日本人向けのコンテンツはほとんどない。話題のiBooksも書籍はほぼ英語だし、日本のEPUB書籍で気軽に読めるメジャーコンテンツは思いつかない。筆者はiTunesの米国アカウントを持っているため、映画やテレビドラマ、音楽まで好きな最新コンテンツを楽しめるが、これらはすべて英語ベースで、日本語字幕もない。iPhoneもそうだったが、英語になじみのない高齢の日本人が楽しめるようなコンテンツはほぼ皆無に等しいのだ。

 苦し紛れに、かろうじて洋楽(しかもジャズやクラシックなど)が楽しめる程度のフォトフレーム兼音楽プレーヤーとしてダイニングに設置してみることにした。残念ながらこれではiPadの長所が何も生かせない。日本でのiTunes Storeでの展開を見る限り、Appleに近い将来でのコンテンツ充実を望むのは難しく、さらに日本での出版社やコンテンツホルダーの動きの遅さを見ていると、サードパーティからのコンテンツ充実も期待できそうもない。このあたりはいろいろ騒動がありながらも、動きのすばやい米国の状況をうらやましく思う。

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