iPadと電子出版は“若者の読書離れ”を止められるか?iPadリポート総集編(2)(1/2 ページ)

» 2010年04月27日 11時20分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

静的コンテンツからインタラクティブコンテンツへ、進化する電子書籍

 高齢者にとってのiPadの使い勝手を見てきた前回(「なんだ朝日新聞は読めないのか」――高齢者がiPadを使ったら?)に続いて、ここでは今後のiPadの可能性について考えてみる。iPadが米国で発売されてから約3週間が経過したが、その間に電子書籍関連で多くの新しい話題が登場してきた。その1つがEPUBの枠をはみ出た電子書籍の数々だ。


iPadの新サービス「iBooks」

 iPadのiBooksで利用される電子書籍の記述フォーマットは業界標準のEPUBに準じており、ほかのEPUB書籍との違いはFairPlayによるDRMがかけられたことにより、コンテンツの数々がiBooks内で閉じていることだけだ。EPUBでは、おおまかにいえば文章本文、簡単なレイアウト、写真の差し込みのみがサポートされている状態で、それ以外の装飾や動画/音声などのリッチコンテンツの差し込み、注釈、インタラクティブ対応など、さまざまな“しかけ”に相当する部分が欠けている。

 例えば、最近であれば動画によるニュース配信は一般的だし、新聞や雑誌ではお馴染みのクロスワードパズルなどもEPUBでは実現できない。視覚に制限のある人には音声朗読機能が必須だろう。また日本語の縦書きサポートが行えないという致命的な問題もある。EPUB自体に大きな制限があり、書籍以外のコンテンツに応用するのが難しいというのが実情だ。ゆえに、新聞社や雑誌出版社はiBooksとは少々異なるアプローチを採り始めている。

iPadスペシャルイベントで発表されたNew York Times Reader for iPad。だが原稿執筆時点ではいまだにApp Storeには登場していない

 代表的なものの1つが、iPad発表会でも登場したNew York Timesの「New York Times Reader」だ。残念ながらまだiPadアプリはリリースされていないが、開発バージョンから大きな変更がないのであれば、最新ニュースの数々を紙面と違わず、しかも動画ニュースのオマケつきで配信してくれる。もちろんクロスワードパズルもついてくる(なぜ米国人が異常にクロスワードパズルが好きなのか不明だが)。ニュースの適時更新や動画配信はEPUBでは実現できないもので、これら機能を実現するために書籍ではなく、あくまで専用リーダーの“アプリ”としてリリースしているのだ。

 また、まだApp Storeには登場していないが、Conde NastのVogueやWiredも、同様の趣向でリッチコンテンツ配信実現のためにEPUBではなく、アプリでの提供を選択している。iPad用アプリとしてすでにリリースされているもので興味深いのは、Conde Nastの「GQ Magazine」とTime Warnerの「Time Magazine」だ。それぞれ著名な月刊誌と週刊誌という位置付けだが、なんとそれぞれの最新号がアプリとして配信されている。アプリを実行すると、その号の誌面の内容がそのまま読めるようになっている。「バックナンバーはApp Storeで探せ」という、かなり割り切ったスタイルだ。

Times Magazineアプリ。最新号の全コンテンツが毎週新作アプリとしてリリースされるユニークな形態をとっている

 仕組みからいえば、GQとTimeアプリはAdobe SystemsのInDesignといったDTPツールで作られた誌面データをそのまま画像データに変換し、アプリとして落とし込むためのツールを使って各号の電子書籍版を制作している。作業ワークフローがシステム的に確立しているため、ほとんど手間がかかっていないのが特徴だ。

 NYTとConde Nastのほかのコンテンツ(Vogue、Vanity Fair、Wiredなど)も同様の作業手順を踏んでいるとみられるが、これらはもともとAdobe SystemsのAIRを使ってPC向けのリーダーアプリケーションとして開発されているようだ。NYT ReaderとWiredについてはすでにAIR版のアプリケーションが公開されており、これをAdobe Flash CS5に内蔵された「Packager for iPhone」というAIRやFlashアプリをiPhone用アプリに変換する機能を使って書き出しを行っているという。しかし、このPackager for iPhoneという機能は先日Appleが発表したiPhone OS 4の新規約では規約外として使えなくなっており、これに応じてAdobeもPackager for iPhoneの開発を終了した。Timeのケースでは、InDesign用のサードパーティ製プラグインを使ってアプリの書き出しを行っているようで、現時点で順調にアプリがリリースされているところを見る限り、この新規約には引っかかっていないように思える。

 電子出版の方法としてアプリを目指すのは新聞や雑誌だけではない。例えば、“動く書籍”というものも存在する。代表的なのは「Alice in Wonderland(不思議の国のアリス)」だ。AliceについてはiBooks用の書籍としてもリリースされているほか、iPad用に特別開発された絵本仕様の「Alice for iPad」(リンクをクリックするとiTunes Storeが開きます)も存在する。このアプリの特徴は、アニメーション機能が付与されていることで、画面上をトランプが舞ったり、ユーザーが画面を動かせば、それにつられて登場人物の首や装飾品も揺れたりと、さまざまな仕掛けがある点だ。とはいえ、これがインタラクティブという意味での対話性のある仕掛けかというと、筆者はそうでもないように感じる。

 例えばアドベンチャーブックのような書籍であれば、実際に読者が本の世界を移動できたり、選択肢が存在したりと、もっとゲーム的なものであってもいいように思う。こうした仕組みこそ、Kindleなどのモノクロ画面の電子書籍専用リーダーには実現できない、iPadならではのコンテンツだろう。

不思議の国のアリスのiPad絵本ともいえる「Alice for iPad」。アニメーションやユーザーの動きに応じて画面のオブジェクトが動く本だ

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