2万円を切る海外製AISレシーバーは本当に使える?勝手に連載!「海で使うIT」(1/3 ページ)

» 2010年05月07日 15時00分 公開
[長浜和也,ITmedia]

便利な機械も安くないと普及しない

 ヨットやパワーボートで使う航海機器のなかで、この十数年で急速に普及したものといえば、やはり、「GPS」をおいてほかにないだろう。GPSがなくても、街を走る車なら道路や建物といった目印で自分の場所をすぐ把握できるが、海を行く船で自分のいる場所を直感的に、かつ、瞬時に把握するのは困難だった。

 GPSが登場する以前、沿岸航海なら、灯台や灯標、山頂といった目標の方位をハンドコンパスで測り、その情報を基に海図の上で2枚の三角定規を使いながら作図してようやく自分の場所を確認していたが、GPSが登場したことで、自分のいる場所が「頭を使うことなく」分かるようになったのは、特にアマチュア船長にとって“革命的”な進化だった。事前に航海ルートを設定しておけば、目標(ウェイポイント)までの方位と距離、到着予想時間まで表示してくれる機能を実装したGPSレシーバーを使うことで、ハンドコンパスによる方位測定と海図における作図をしなくても「技術的に」航海ができてしまう(とはいえ、これはお勧めしがたい。GPSレシーバーに障害が発生したときのバックアップのために、海図へのプロット作業は定期的に行っておきたい)。さらに、電子海図と連動したGPSプロッターを使えば、GPSで取得した自船の位置を電子海図に表示することで、自分の場所を「目で見て」把握することも可能だ。

 このように“革命的に”便利なGPSだが、登場した当初はGPS受信機そのものが100万円台と高価だったこともあって、貨物船や客船、フェリーといった本船とごく一部のレジャーボードでのみ使われていただけだった。いまのように、ほとんどのヨットやパワーボートでGPSを使うようになったのは、マップ機能を持たないハンディタイプのモデルが3万円を切るようになった十年前あたりからだ。最近では、PCで電子海図と航海ソフトを組み合わせてGPSプロッターとして使うユーザーも増えているが、こちらも安くなったPCと海外で販売されている低価格の航海ソフトのおかげといえる。

最近何かと話題のAISも安くなってきた

低価格で実現するAIS対応航海システム。Netbook「MSI Wind Netbook U115」とBluetooth GPS、そして、2万円を切るAISレシーバー「Smart Radio 161」(SR161)で構成した

 最近になって、見聞きする機会が増えてきた航海機器の1つに「AIS」(Automatic Identification System)がある。アマチュア船長の間では「APRS」(Automatic Packet Reporting System)と一緒に語られることが多いAISだが、どちらも自船の位置と針路、速度などをほかの船に知らせると同時に、ほかの船の位置と針路、速度を入手して、自分の回りにいる船の動静を簡単に把握できるシステムだ。

 APRSは、自分の船の情報をアマチュア無線や携帯電話を使ったパケット通信で送信し、インターネットに設けられたARPSの情報共有サイトに自分の場所と針路、速度などを登録する。APRS情報の公開ページにアクセスすれば、ほかの船がARPSで登録した情報からその船の動静を確認できる。一方、AISでは、自分の船の情報を161.975MHz、もしくは、162.025MHzのVHFで送信する一方で、ほかの船が発信したAISデータを専用レシーバーで受信し、さらにAISデータを表示するシステムを利用することで送信している船の動静を把握する。

 ほかの船の動静を把握する航海機器として、従来から使われているのが「レーダー」だ。ただ、レーダーの運用には、受信したレーダー反射波が何を示しているのかを識別したり、ほかの船の針路と速度を相対位置の変化から把握したりしなければならないなど、「熟練の技」が必要だった。AISデータに対応する舶用GPSプロッター、もしくは、PC航海ソフトにGPSで取得した自分の船の位置とAISデータで取得したほかの船の位置を表示すれば、その位置関係は上空から見下ろしたように直感的に把握できる。得ている針路と速度のデータを利用すれば、お互いに何分後に衝突する可能性があるのかまで知ることが可能だ。

 自分の船とほかの船(ただし、AISデータを発信している船に限るが)の位置関係の把握にレーダーを超える精度と使いやすさを実現したAISは、GPSのように“革命的”な進化を航海術にもたらしてくれる可能性を持っている。PC USERでも、2006年の6月に潮岬と御前崎でAISを使った夜間航海を検証し、その有効性を紹介している。ただ、そのときも指摘したように、当時、日本で販売されていたAISレシーバーが14万円台、PC用航海ソフトもプロ向けの上位バージョンでのみAISに対応していて価格は10万円を大きく超えていた。このように、便利であっても高すぎる価格がアマチュア船長にAIS導入の大きな障害となっていた(AISの検証航海の詳細については電子海図と“AIS”で夜の御前崎を突破せよ!を参照のこと)。

 しかし、最近になって海外の直販サイトで2万円を切るAISレシーバーがいくつか販売されている。また、これまでの一連の「勝手に連載」でも紹介している、海外製の低価格航海ソフトは、3万円を切るスタンダード版でAISに対応している。マップを搭載してGPSプロッター機能を持つハンディGPSが英語版で5万円台、日本語版なら10万円台であることを考えると、購入価格のハードルは低くなった。

 ただ、「安かろう悪かろう」を心配する日本のアマチュア船長の中には、「海外製の安いAISレシーバーが使いものになるのか?」と不安に思う意見も少なくない。実際、どれだけ使えるのか。ほかの船のAISデータが衝突を避けるだけの余裕ある距離で把握できるのかを検証してみた。

SR161はアンテナが別売り。コストを抑えるためハンディVHF用の短いアンテナを用意した。なお、スイッチとヒューズ、コネクタを組み込んだ12ボルト対応電源ケーブルは標準で付属する(写真=左)。インタフェースはRS232のみ。標準でシリアルケーブルが付属するが、イマドキのノートPCと接続するにはシリアル−USB変換アダプタが必要。今回は所有していたプラネックスの「URS-03」(生産終了品)を使った(写真=右)

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