先ほども紹介したように、計算機システムを“ゼロ”から構築するMieruPCプロジェクトでは、ハードウェアの上で動作するソフトウェアも、ゲームやテキストエディタといったアプリケーションはもとより、コンパイラ、そしてOSまで、すべてをユーザー側で用意することも可能だ。なお、OSとコンパイラなど開発環境、いくつかのアプリケーションはMieruPCプロジェクトで用意して、ユーザーだけがアクセスできる限定Webページで配布している。
MieruPC2010に導入されるOSは、「ls」「cat」などUNIXで使われている同名のコマンドが使えるが、同プロジェクトですべて開発したもので、プログラムサイズは30Kバイトとコンパクト。CUIマンマシンインタフェースを使ったシェルの利用、FAT32によるファイル管理、システムコールを利用してアプリケーション側からOSの機能の利用が行えるほか、デバイスドライバも提供する。
同様に、MieruPCプロジェクトではアプリケーションとして、テキストエディタ、ビットマップローダー、テトリス相当、マインスイーパー相当といったシンプルなゲーム群をソースコードとともにすでに用意している。
2008年に完成した「MieruPC2008」は、東京工業大学の学生ベンチャー企業として設立した「Mieru PC」から販売されていて、計算機システムを扱う研究室などで納入実績がある。MieruPCの代表取締役を務める藤枝直輝氏によると、「MieruPCプロジェクトで行ってきたシステム開発はほぼ完成の段階に到達しており、これからは、プロジェクトとMieruPCで開発したシステムを多くの学生に知ってもらう段階に来ている」という。
吉瀬氏も、「MieruPC2010のスペック見ると、プロセッサにキャッシュメモリやパイプラインがないなど、今の水準で見たら足りないものはいくらでもある。ネットワークにも対応していない」と述べた上で(市販のシステムボードを利用したMieruPC2008には有線LANコネクタが実装されていたが、Disableになっている。オリジナルのシステムボードを導入したMieruPC2010ではネットワークコネクタは存在しない)、「そういう足りないものをMieruPCを使うユーザーに気づいてもらい、自分たちで拡張してもらうのもこのプロジェクトの目的の1つ」と説明する。
MieruPC2010は7月中に出荷を予定しており、システムボード、アクリル製ケース、液晶ディスプレイ、ミニキーボード、ACアダプタをセットにしたパッケージの価格は5万円台半ばを予定している。従来のMieruPC2008が7万円台半ばであったことを考えると、価格的にも購入しやすくなったといえる。
「計算機システムを専攻する大学生向けの教材」を目的としているが、FPGAの構成をプログラムで変更したりOSからアプリケーションまで自分で“ゼロ”から開発できたりするという「工作魂」をすこぶる刺激するMieruPC2010は、学生さんはもとより、工作好きな自作PCユーザーも十分楽しめるのではないだろうか。
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