iPadが、コンシューマーユーザーになかなか受け入れてもらえなかった「タブレット」というカテゴリーをあっさり認知させた理由は、iPhoneなどのタッチセンサー技術とタッチ操作に特化したUIを利用して使いやすいデバイスに仕上げたことが大きい。
PCや従来の携帯電話の操作に慣れたユーザーに、こうした新しいデバイスの可能性や便利さを文章や写真で説明するのは難しいが、Appleは初代iPhoneの登場からわずか2〜3年でタッチ操作だけのデバイスを「ごく一般的なユーザーインタフェース」として浸透させることに成功した。Apple以外のメーカーから異なるプラットフォームでタッチ操作を主体としたデバイスが大量に登場したことも、iPhoneとiPadのインパクトが大きかったことを示している。
だが、一方で「タッチ操作最高」的な風潮が、これから登場する新しい技術を阻害しないか心配する声もある。iPhoneとiPadの特徴はタッチスクリーンだけではなく、加速度センサーやGPS、カメラなどの各種センサーやデバイスから得た情報を収集してサービスに反映する仕組みであったりする。これを超える新しい試みの数々はすでに業界全体で始まっている。
IntelがIDF 2010で訴求した「Context-Aware Computing」(情報認識型コンピューティング)もその1つだ。「Context-Aware」は日本語にしにくい表現だが、「Context」が「意味や文脈、背景」という意味であり、「Aware」が「認識や知覚」を表すと考えれば、「そこにある情報を基にした認識型コンピューティング」となる。
普段、人がPCを使って行動を起こすとき、そこにはさまざまな情報が関係する。Webページの閲覧履歴であったり、コンピュータにキーボードやマウスを通して入力された文字やカーソル情報などだ。さらに細かくいえば、Webページ閲覧における滞在時間や各画像などのクリック回数、キーボードでいえば文字を入力するスピードやタイミング、入力の“くせ”など。これらを総合すればユーザーが特定できるだけでなく、そのユーザーの嗜好まで明らかになる。その一端はAmazon.comの“おすすめ”機能などですでに利用されている。
米Intel CTOのジャスティン・ラトナー氏がその実例として紹介したのは、「Personal Vacation Assistant」(以下PVA)と呼ばれる携帯デバイスだ。一見するとただのスマートフォンかMIDのようだが、「サジェスチョン」(お勧め)機能を実装して、ユーザーが観光地などへ行ったとき、初めての場所で道案内をしてくれたり、レストランやお勧めの観光スポットを提案したりと、与えられた条件と取得した位置情報などを細かく分析して最適な場所を探し出す。
さらに、このPVAでは一歩進んで、「ユーザーの好み」を検索結果に反映する機能を搭載している。例えば、レストラン検索ではユーザーが中華料理好きだとデバイスが把握していれば、お勧めの検索結果も中華を優先して表示させる。これはデバイスそのものよりも、検索サービスが過去の履歴から「デバイスを所有するユーザーの好みを事前に把握」していて、検索結果全体からフィルタリングを行った結果といえる。
フィルタリングにおける絞り込みでは「GPSによる位置情報」も利用して、近隣の店を優先表示することもできる。「ユーザーの好みというプロファイル情報」「GPSによる位置情報」という2つのデータを組み合わせた認識型コンピューティングでは、このようなサービスを提供できるわけだ。
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