ファン氏の記者会見では、基調講演で公開したロードマップに質問が集中した。ファン氏が示したロードマップでは、2011年後半に次世代GPUアーキテクチャの「Kepler」(開発コード名)が登場し、その2年後となる2013年には「Maxwell」(開発コード名)がリリースされる。半導体のプロセスルールは世代が上がるごとに向上し、Keplerでは28ナノメートル、Maxwellでは20ナノメートルが採用される予定だ。
ファン氏は、進化するのはプロセスルールだけでなく、アーキテクチャも刷新されていくことになるという。プロセスルールの微細化によって単位面積あたりのトランジスタ集積数が倍増するため、新しいアーキテクチャの導入が可能になるからだ。単純にプロセスルールが微細化するというだけではなく、新アーキテクチャの導入を可能にするための改善と考えていいだろう。
なお、Keplerについては、台湾のTSMCで28ナノメートルプロセスルールを用いて製造されることが明らかにされているが、Maxwellについてはプロセスルールとファウンダリが明言されていない。そのため、TSMCと20ナノメートルプロセスルールの組み合わせとなるかどうかは現時点で不明だ。
パフォーマンスについては、世代が上がるごとに従来の3〜4倍の向上が見込まれるとファン氏は基調講演で語っていたが、Fermiの前世代となるTeslaから2013年登場予定のMaxwellまでにパフォーマンス向上は約40倍を見込んでいるという。
アーキテクチャと並んで話題に上ったのは、Tegraなどのモバイル向けSoCだ。記者会見では、GPUで導入されるマイクロアーキテクチャの進化や技術革新がどのタイミングでTegraに投入されるのかについて、ファン氏から強気の発言があった。
「NVIDIAは、並列コンピューティングの概念をモバイルデバイスに持ち込むことに興味を持っている。なぜなら、並列コンピューティングは単位処理当たりの電力消費効率(Activity per Energy)が最も高いからだ。今後数年にモバイルデバイスで並列プロセッシングが必要とされる事例がどんどん増えてくるだろう。イメージ処理に信号処理など、さまざまな用途がある」(ファン氏)
現在、汎用的なミニアプリケーションの利用が多い携帯デバイスやスマートフォンだが、今後は並列コンピューティングを必要とする処理が増えてくるというのがNVIDIAの考えだ。イメージ処理といえば、写真加工などが思い浮かぶが、画像認識やセンサーからの入力信号処理でも並列処理は利用できると考えられる。ファン氏の発言には、モバイルデバイスをより身近で高性能なものにしていこうという意図がうかがえる。
ただ、Tegraの現状は成功からほど遠いことも事実だ。Tegraを搭載した製品といえば、Microsoftの「Zune HD」などごく限られており、それも、出荷数でいえば競合製品に大きく引き離されている。こうしたTegraの現状についてHuang氏はどう考えているのだろうか?
「Tegraは、(リリースから)1年遅れで市場における存在感が感じられるようになった。この例でいえば、Tegra 2は2010年後半に大きなムーブメントとなるだろう。理由の1つは“スーパーフォン”と呼ばれる製品の登場だ。PCがそうであったように、高性能で使いやすいデバイスが登場したことで、携帯電話の市場も変化しつつある」
「エンスージアストと呼ばれるマニアやプロフェッショナルがモバイル市場に集まりつつあり、Tom's HardwareのようなPC向けレビューサイトが携帯電話をPCのようにレビューしている。NVIDIAは、次のコンピュータ・レボリューションは携帯電話市場にあると考えており、実際、スマートフォンからより高性能な“スーパーフォン”へトレンドが移りつつある。次に起こりつつあるのが“タブレット”ブームで、ここも非常に重要だ。こうしたデバイスで必要となるSoCは、既存のベンダー各社でデザインするのは不可能に近い。最適な製品を提供していくのがNVIDIAの役割だ」(ファン氏)
同氏の発言で興味深いのは、モバイル市場がかつてのPC市場のようにパフォーマンス志向となりつつあり、パワーユーザーを中心にユーザーがPCから移りつつあるという予測だ。モバイルといえば「パフォーマンスを抑えて低消費電力重視」というのが定説だが、これが性能志向にシフトしていくことになる。
これは、IntelがAtomを組み込み市場や携帯デバイス市場に展開する理由に近く、NVIDIAも同様な考えでモバイルデバイスや組み込み市場に進出しようとしているのが分かる。ただ、NVIDIAは電力効率重視の並列コンピューティング部分の強化であり、このあたりが汎用処理の強化を中心に考えるIntelとの差ではあるのだが、互いの得意分野を重視しているだけで、大筋の戦略に違いはない。
このあたりの読みが当たるかどうか、数年後の結果に注目していきたい。
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