「日常に溶け込むようなものに」――芥川賞作家がGALAPAGOSに寄せる期待

» 2010年11月29日 17時55分 公開
[ITmedia]

電子書籍リーダーは「日常に溶け込むようなものになってほしい」と平野氏

平野啓一郎 電子書籍リーダーは「日常に溶け込むようなものになってほしい」と平野氏

 シャープが12月10日の発売を発表したメディアタブレット「GALAPAGOS」と、同日にスタートする電子書籍ストアの「TSUTAYA GALAPAGOS」。同社が11月29日に都内で開催したイベントでは、芥川賞作家の平野啓一郎氏の新作「かたちだけの愛」が、GALAPAGOS向けに電子書籍化されることが明かされた。同氏の作品が電子書籍化されるのはこれが初となる。

 平野氏は、京都大学在学中に文芸誌「新潮」に投稿した「日蝕」で第120回芥川賞を受賞。「三島由紀夫の再来」と喧伝されるその文才をいかんなく発揮し、その後、「一月物語」や「葬送」を相次いで刊行。平野氏のブログでは、自身の作品について、「『日蝕』から『葬送』までが第一期(ロマンチック)、『高瀬川』から『あなたが、いなかった、あなた』までが第二期(短篇期)、『決壊』『ドーン』『かたちだけの愛』が第三期(長篇期)」(原文ママ)であると述べている。

 「かたちだけの愛」は、2009年7月から2010年7月にかけて読売新聞の夕刊で連載されていたもので、事故で片足を失った女性とデザイナーの男性の恋愛を描いた同氏にとって初の恋愛小説。この作品に大幅な加筆を行い、メディアタブレットの発売と同日の12月10日に、TSUTAYA GALAPAGOSで電子版を、中央公論新社から紙版をリリースする。価格は紙版が1785円で、電子版が1470円。

平野啓一郎 10.8型ホームモデルを手にする平野氏。「電子書籍は目が疲れるというイメージがあると思いますが、(GALAPAGOSは)ライトを調整することでかなり軽減できる」と平野氏。液晶の輝度をどうするか繰り返し検証してきたシャープの開発陣からすれば最大の賛辞だ

 平野氏は、「現代人が1日に目にする文字の大半がパソコンや携帯電話といったディスプレイ上である現状で、本が電子化されることは自然な流れだと思う」と電子書籍に対する理解を示し、電子版を出すのはごく自然で当然なことだと考えており、特に気負いがあるわけではないと述べた。今後、新刊は紙版と電子版を提供し、既刊も順次電子化してきたいという。

 一方で、電子書籍時代の版元について、文芸書の場合はと前置きした上で、「できればすべて1つの版元でやるのが望ましいと思う。電子書籍だけ手掛けないのは版元にとってもメリットがないので、今後対応が進んでいくのではないか」と述べる一方、今年が電子書籍元年とされているが、実際には出版社も足並みがそろっておらず、電子書籍化のため著者が出版社と個別交渉を行う必要がある」と分析し、それが落ち着くまでは数年掛かるだろうと述べた。

 電子書籍化により、写真や動画などを盛り込んでコンテンツをリッチにする方向についてどう思うか尋ねられると、「読者がそれを求めているのか分からない」と話し、活字のみのシンプルな電子書籍がボリュームゾーンで、それとは別の形でリッチ化されたコンテンツが広まるのではないかという見解を示した。

会場にはGALAPAGOSが複数台用意され、試用が可能だった。GALAPAGOSのレビューについては追ってお届けしたい

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