── 製作にあたって、どのへんが難しかったでしょうか。
IKEDA キャラクターの顔は、結構がんばりました。せっかく「Shade」で作るなら自分なりの巡音ルカを表現したかった。それで、アニメとリアルの顔の中間くらいを目指しています。「Project DIVA」は完全にアニメ寄りですよね。それよりはリアルだけれど、アニメっぽさも残しています。
── バランスとるのが大変じゃないですか?
IKEDA ええ、ものすごく難しい。だから動画のコメントでも「このキャラクターでこの鼻は残念」とか突っ込まれたりしました(笑)。そこら辺がかなりギリギリなところなのかなと。それでも巡音ルカを完全にリアルに寄りにしちゃうと、明らかに気持ち悪くなってしまうんですよね。あとはキャラクターをリアルにすると、モーションもきっちり動かさなきゃ不自然に見えてしまう。アニメ寄りならその辺を大目に見てもらえるだろうという考えもありました。
── ……という割には、かなり動いている気がしますが。
IKEDA これは言いにくいのですが、Shadeは髪の毛やスカートを揺らしたりとか、人物を動かすのがちょっと難しいんです。ほかの3D CGソフトであれば、人物の動きに合わせて物理演算で勝手にシミュレートしてくれますが、Shadeでは煙を発生させるとかその程度です。PVの1番最後に出てくる、花畑をバックに巡音ルカが歌ってるシーンで、一瞬だけスカートがぶわって揺れるのですが、あれは実は、手作業で揺らしています。
── 手作業って!
IKEDA ええ。これは本当に本当に大変で、まあ時代錯誤な感じですが。Shadeでそこまで根性出してやるのは実際のところ面倒なので、人物のアニメーションを作り込まない人も多いです。でもだからこそ、それを逆手に取って、「やったことある人がいないならやってみれば面白いなあ」と。今考えると出だしからアホなんですね(笑)。制作中は、何で1人でこんなにしんどいことやってるんだろうって思ってましたから。だいたい今まで5分なんて長い尺の動画を作ったことはなかったんですよ。長いものでも1分30秒ぐらいでしたし。でもこれまで誰もやっていないから、みんなの反応も面白かった。
── 確かにShadeは静止画や建物に使われるイメージが強いです。
IKEDA ほかのソフトに共通することかもしれないですが、オブジェクトを動かしたときに、その回りが変形しないんですよ。これは逆に、ロボットを作るときはすごくいい。オブジェクトの構造や、関節の稼働域などを間違えてなければ、オブジェクトが変形しないのでとても楽にアニメーションが作れます。実際、今回出てきたロボットも2日でアニメーションするところまで持っていきました。
── しかし、これだけの3Dアニメーションになると、レンダリングだけでもすごく時間がかかりそうですね。
IKEDA まとめて一気に作るんじゃなくて、シーンごとにレンダリングして、あとで「After Effects」でまとめています。ただ、それでも爆発のシーンなどは2、3日かかってしまいます。会社のマシンでこっそりレンダリングして、それをじっと待つ感じ。「IKEDAさんコレ何やってるの?」って聞かれたら、「仕事です」(キリッ)とか答えたりして(笑)。
── 制作段階で、イーフロンティア(Shadeのメーカー)の人はどれぐらい知っていたんですか?
IKEDA ほぼ出来上がったころですね。ぼくのほうから、最近こんなの作りましたって。
── でも、このPVに登場する女の子は次の「Shade 12」のパッケージに使われてますよね。
IKEDA 実は映像を投稿してしまってから、「そんなにニコ動で話題になってたらパッケージにしないわけにはいかないだろう」という話が来て、急きょ決まったんです。
正直なところ、あのキャラクターはパッケージにしたくなかったんですよ。なぜかというと、元々あれは“動かすため”に作ったキャラクターなので、ディティールが詰まっていない。つまり、動かしても見えない部分は削減してあるんです。それにテクスチャがボケているところも、動画なら分からないけれども静止画にすると目立ってしまう。
それで、ぼくの中ではすごく作り直したかったんですが、Shadeの製品発表(10月15日)の直前、動画を10月1日に投稿して人気になっているのをイーフロンティアの人が見つけて、いきなりパッケージへの採用が決まったので、大幅に直している時間はなかった。
── 不本意ながら?
IKEDA ええ。動画に使った素材をそのまま持ってきて、静止画にも耐えられるように、ポリゴンの粗い部分をちょっと直したりとか、髪の毛のボリュームを少し持たせたりとか、そんな感じです。
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