そのほかのアップデート内容に注目してみよう。マルチタスクと同じくらいユーザーにとって大きな変更といえるのが、端末の機能とさらに連携したアプリ開発の実現だ。具体的には、アプリ側からカメラのRAWデータを取得したり、各種モーションセンサーを使ったアプリの開発が行いやすくなった。(携帯電話の処理速度が許す範囲で)端末のハードウェアスペックを使い切るような、より高度な機能を持ったアプリを利用できる環境が整った。
MIX11で紹介された1つが、USAAという米軍関係者向けに銀行サービスを展開している企業のアプリだ。このアプリで小切手の両面を撮影して送信すると、銀行の窓口に出向かずとも金額の預け入れが可能になる。このアプリを起動するとディスプレイ内に枠が出現し、そこに収まるよう小切手を撮影すると、撮った画像がUSAAのサーバへと転送されて預け入れ処理が行われる。USAAは、同様のサービスを2年前にiPhone向けに提供している。
それ以外では、SilverlightとXNAアプリの同時実行が可能になった点が面白い。WP7では、アプリの実行基盤として通常アプリ向けの「Silverlight」とゲームアプリ向けの「XNA」の2種類を用意している。今回のMangoアップデートでは、XNAで実行されるキャラクターが画面で動きつつ、Silverlightで実行される画面コントロール(ボタンやメニュー)などがフロントメニューに出現し、双方が重なり会った形で動作するようなアプリを構築できる。
従来であれば、XNAでゲームを作った場合、メニュー画面などは独自UIで構築する必要があった。今後は、SilverlightのUIを流用することが可能になる。これは、同じOSのアプリ同士でUIを統一するという意味で、大きな効果だろう。
また前回も紹介したが、アプリ開発のデバッギングツールやエミュレータも高性能化しており、開発者にとっては利用しやすい環境が整いつつあるといえる。WP7向けには開発ツール自体も無償提供されており、後発ながらiOSやAndroidに比べてもアプリ開発環境は充実しつつあるだろう。
こうした開発者向けの機能追加は、ユーザーが直接恩恵を受けることではない。しかし、利用できるアプリの増加というメリットがあるため、今後数年先が楽しみだといえる。
Mangoアップデートの影に隠れる形となってしまったが、MIX11ではSilverlight自体のアップデートも発表され、最新バージョンであるSilverlight 5β版の提供がアナウンスされた。アップデートの内容は主にパフォーマンスの改善と地味だが、次いで3D APIやハードウェアエンコーダのサポートなど、メディア配信プラットフォームとして広く利用されているSilverlightならではの特徴をさらに強化した。
デモを見ていただくと分かるが、3Dモデリングされた画面を高速移動できるなど、より高まったパフォーマンスの一端を垣間見ることができる。
なお、WP7のMangoアップデートにはSilverlight5は含まれず、OSをアップデートしてもSilverlight4のままだ。だがMicrosoftによれば、Silverlightの実装はPC版とモバイル版などプラットフォームごとに大きな差異があり(例えばモバイル版では印刷機能の実装が異なるなど)、正確には同じバージョンながら異なるプラットフォームと考えるのが正しいという。
ただバージョンごとにコントロールやAPI実装が区分けされており、アプリを実行する際の目安にはなるという。そのため、Silverlight 5向けに開発されたアプリは、Silverlight 4上で動かなくなるといったことが発生する。
だがSilverlight 5の正式版が提供されるのはMangoアップデートより先になり、Ver.5専用のアプリが登場するのもまだまだ先とみられる。前述のプラットフォームごとの違いもあり、WP7の実行環境がSilverlight 4のままであることは、あまり気にする必要はないのかもしれない。
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