テレビやレコーダーなど家庭用AV機器の3D対応が進む中、AV系機能とも親和性が高いPCもそれに準じて3D対応が急速に進むと思われた。ただ、その兆しはまだそれほど見られない。
偏光版方式で“ベースモデルとそれほど価格差なく”展開する地デジ搭載液晶一体型、フレームシーケンシャル方式のNVIDIA 3D Vision対応でこれまでとは異なる差別化を図るゲーム向けモデルなど、PC各メーカーが方式別にそれぞれラインアップを用意して幅広いPC利用者のニーズに訴求しており、実際、各社の3D対応モデルのラインアップはかなり増えている。ただ、やや割高、楽しむコンテンツがまだない、専用メガネをかけるのが面倒──など、テレビ以上に「今は特に必要ない。まだそれほど魅力は感じない」という評価となってしまう例は多いようだ。
東芝が今回投入するグラスレス3D対応dynabook「dynabook Qosmio T851」は、上記のネガティブな例から「面倒」の部分をスッキリ排除した点を大きな特徴とする。専用メガネは不要、さらに“普段のPC機能は2Dのまま/映像コンテンツは3Dで”と利用者が意識することなく使い分けられる「部分3D表示技術」を取り入れた。
また、基本的に同時利用者は自分1人となるPCなだけに、グラスレス3Dレグザで採用する9視差式の専用LSIやレンチキュラーシート付き液晶パネルといったコストがかかると思われる部材を用いず「利用者1人だけ、きちんと3D効果が得られる表示調整ができればOK」とする仕様によい意味で割り切られている。昨今のノートPCにはほぼ標準機能として備わるWebカメラを利用し、視聴者の顔を認識・追尾・位置を把握するソフトウェアベースのフェイストラッキング技術と、光の平行を操作できるアクティブレンズを採用したディスプレイを搭載することで、2視差式ながら左右の映像を視聴者の位置から正しく3Dイメージに見えるよう自動調整する仕組みだ。
もう1つの特徴とする2Dー3Dリアルタイム変換機能は、dynabookシリーズにかなり採用例があるメディアストリーミングプロセッサ「SpursEngine」を活用して実現する。基礎技術を確立したグラスレス3D dynabookは、SpursEngineとテレビチューナー、Webカメラ(とフェイストラッキングのための制御ソフトウェア)、光の平行を制御できるアクティブレンズを採用したディスプレイで実現できるようだ。「もちろん単にこれだけ載っていればよいわけでなく、細かく算出できるものでもないが、SpursEngine搭載モデルをベースにするとプラス数万円ほどで実現できる。これが“dynabookなら当たり前”となるまで普及するなら、差額はもっと減る。ベーシックモデルへの採用を含め、グラスレス3D対応PCの拡充は当然検討している」(説明員)という。
ちなみにグラスレス3Dレグザは12V型「12GL1」が12万円前後、20V型「20GL1」が24万円前後。対して(と比較するものではないが)15.6型ワイドのdynabook Qosmio T851は実売23万円前後だ。10万円前後が売れ筋価格帯のボーダーラインとなっている昨今、20万円以上のPCとなるとやや高いかもと感じるが、こちらはPC+3波ダブルチューナー+AVC録画+BDXL対応Blu-rayレコーダーの機能込みであること、そしてPCとしての仕様がそもそもハイエンド志向なためだ。ラインアップが拡充され、普及価格帯のモデルにも搭載されるなら、それが標準搭載ならと考えるとより魅力が増しそうと言える。
「なんだか面倒」の不満は、おそらく東芝のグラスレス3Dなら発生しない。残るは価格と、「3Dを積極的に利用したくなるコンテンツ」の増加・普及だ。普及価格帯モデルへの採用とともに、東芝が協賛する世界初の3Dオペラ『カルメン3D』といった良質な3Dコンテンツを含む3D映像タイトルの拡充や、東芝製品活用情報サイト「東芝プレイス」などでの訴求も含めた3Dコンテンツの拡充が進むならば、「グラスレス3D dynabookが、“PCでの3D”を一般層まで普及させる起爆剤の1つになると思う。テレビもPCも、3D方式の本命はグラスレス」(東芝 デジタルプロダクツ&サービス社の大角社長)と自信を見せるのもうなずける。2011年4月よりレグザブランドのAV機器を展開する映像事業と、PCのdynabookブランドを展開するPC事業を統合したことによるシナジー効果を期待しつつ、PCでの3Dも「dynabook全モデルの標準機能」とするほどの積極推進も期待したい。
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