PCのあり方を再定義する「OS X Lion」WWDC 2011基調講演リポート(2)(1/4 ページ)

» 2011年06月08日 00時00分 公開
[林信行,ITmedia]

→関連記事:WWDC 2011基調講演リポート:クラウドを中心にしたデジタルハブ――ポストPC時代の幕開け

10年目にして大きく生まれ変わった次期Mac OS X

 WWDC 2011の基調講演で発表された製品の中では、最も登場が早い(7月リリース予定)Mac用次期OSの「Lion」は、Mac OS Xが持つ10年の歴史において、最も意義深いアップデートとなりそうだ。

 ワールドワイドマーケティング担当上級副社長のフィル・シラー氏は冒頭、10年前の2001年3月に旧Mac OSの後継OSとしてリリースされたMac OS Xの初期バージョンの画面を示し、この10年の進化を見てほしいと語りながら、現行のMac OS X Snow Leopardと比較してみせた。

2001年に登場したMac OS X Cheetah(画面=左)と、2010年のMac OS X Snow Leopard(画面=右)

 筆者の感想では、今回のOS X Lionは、世の中がiPhone/iPadに代表されるポストPC機器に大きく舵を取っているこの時代に、PCはどう生まれ変わるべきかという問いへの、アップルなりの回答なのではないかと思っている。

 これは機能だけの問題ではない。今回のリリースで、アップルはOSの名前も、価格も、リリース方法も大幅に見直した。

 そう、Mac用OSといえば、1997年リリースのMac OS 8以来、「Mac OS」を冠してきたが、今回からは「Mac」が抜け落ちて「OS X Lion」と表記されるようになった。ちなみに2007年1月に初代iPhoneが発表された時は、iPhone用OSが「OS X」と表記されていた。しかし、やがてこれが「iOS」と呼ばれ、この呼び方が定着した今、むしろMacのOSだけ「Mac」とつけるのがヤボったく感じてこうしたのかもしれない。

 価格についても衝撃的だ。これまでPC用のOSといえば、Mac OS Xで129ドルと最低でも1万円は超える値付けが当たり前だったが、新OSの価格はそこから100ドルも安い、わずか29.99ドル(国内価格は2600円)だ。

 しかも、OSはMac App Storeを通して、同Storeのルールで配布される(容量は4Gバイト)。つまり、同じiTunesアカウントで使っているMacであれば、何台あっても追加料金が一切不要だ。アップルのOS販売による利益は激減、あるいはほぼなくなったも同然と考えてもいい。

Lionの価格は29ドル。Mac App Storeを通じて販売される

 しかし、これは何も新しいことではなく、むしろアップルにとっては原点回帰に近い。アップルはもともと、Macをハードとソフトが一体化した製品として作っており、初期の旧Mac OSはアップデートも含め無料が当たり前だった。1980年代であれば、Macの販売店に空きフロッピーディスクを持って行くと、お店で最新OSをコピーしてくれていた(日本では日本語化のコストや並行輸入品対策で事情が違ったが)。

 米国で旧Mac OSが有料化したのは20年前の1991年、Mac用OSとして初めてパッケージ化された「System 7」からだ。今回、21年目にしてアップル発売のOSパッケージがなくなり、無料でこそないもののほとんど手数料のような値段でOSが入手できるようになったことは感慨深いものがある(関連記事:System 7で幕をあけた激動の1990年代 前編中編後編)。

 決してMacの売り上げが落ち、叩き売りで安くしているわけではない。むしろ、その逆で、Macの販売がこれまでにない躍進を遂げており、絶好調の最中にあるからこそ取った大胆な戦略のようだ。

 フィル・シラー上級副社長によると、現在、世界のMac利用者の数は5400万人で、さらに増え続けている。2010年と比べたPCの売れ行きは、市場全体でみると1%ほど落ち込んでいるのに対して、Macの売り上げは28%増で伸びているという。それどころかMacは、過去5年間のすべての四半期(つまり20四半期にわたって)でPC市場の平均出荷比率を上回り続けている。

Macの売り上げはPC市場全体の成長をはるかに上回る。それが過去5年にわたって連続している

 「このMacがすばらしいのは、ハードウェアの魅力だけでなく、ソフトウェア、つまりOSがすばらしいからだ」とフィル・シラー氏。「そのOSが、今日、さらに進化する」。

 どういう方向へ進化するのか。誕生から30年以上が経っているPCという機器(Macだけで数えても初代からすでに27年)は、歴史的経緯もあり、さまざまな不便や不合理を引きずってしまっている部分がある。そこで、2010年秋に行われた「Back to the Mac」というスペシャルイベントで紹介された通り、新OSのLionでは、PCとはまったく別の流れで突如現れ、大成功を収めたiPadからいいところを吸収しようというわけだ。

 スティーブ・ジョブズCEOは、今回の講演の冒頭で「もしハードウェアが製品の頭脳や筋骨なら、その中心にあるソフトウェアは魂にあたるものだ」と語ったが、OS X Lionは、まさに新時代を告げるMacの魂ともいうべきものなのかもしれない。

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