東京ビッグサイトでは、「第15回国際電子出版EXPO」と同時に「第18回東京国際ブックフェア」も催されている。東京国際ブックフェアは紙媒体の書籍の販売や商談の場だというイメージがあるが、電子書籍に関連する展示が行われているブースも存在する。
ほとんどの出版社ブースで自社刊行の書籍が販売される中、講談社ブースでは、同社が取り組むデジタルコンテンツの紹介やスマートフォン用アプリの体験ができるコーナーが用意されている。Android対応の雑誌アプリ「熱犬通信」、iPhoneアプリ「世界の名酒事典」、Webメディアの「現代ビジネス」、そして講談社の夏の電子書籍キャンペーンである「夏☆電書」などが紹介されていた。スマートフォン用アプリは実機で体験できる。
出版業界における電子書籍への対応を尋ねると、「漫画を取り扱う出版社を中心に、出版業界はデジタルコンテンツに注力」(説明員)しており、各出版社はフォーマットやDRMの調整など、電子出版のインフラの構築へ協力する体制が整っていると答えた。講談社の電子出版事業への取り組みは10年以上前から行われてきたが、「ようやくデバイスの性能が追いついた」(説明員)と話す。7型程度の大きさのタブレットでもルビがつぶれず、漫画が美しく表示されるとしている。「インターネットの通信速度も上昇し、ようやく実用化に耐えうる環境が整ってきた」ということもあり、「今回の電子書籍ブームは一過性のもので終わらないでほしい」と願っている。
夏の電子書籍キャンペーンである「夏☆電書」は順調で、講談社の予想を上回るペースで売れているという。通常は電子コミックの売り上げは電子書籍に比べ5〜10倍になるが、今回のキャンペーンでは電子コミックと電子書籍の売り上げの差が縮まっているのも特徴だという。
光和コンピューターのブースでは、書店の未来の姿を想像させる展示が目立った。まず、入り口には人間の身長ほどもある60型タッチパネルを採用した大型サイネージ「彩」が展示されている。「彩」は、ホテルやスーパーなどさまざまな場所での利用に対応しているが、書店については「他の専門店と違い、必ずしも明確な目的を持った上で利用する場所ではない」(説明員)ため、運用の事情が特殊なのだという。
書店に立ち寄る人の目的はさまざまで、購入する本が決まった上で書店に入るというケースだけではなく、面白そうな本を探すために書店に来る人や、雑誌を立ち読みして情報収集をする人もいる。また、「なんとなく」というように目的を持たずに書店に入る客も少なくない。そのため、サイネージでニュースを表示するなど、書籍以外の情報を扱う可能性も考えられ、さまざまなビジネスの可能性を持った場所なのだという。ブースでは書店に設置する場合の一例として、書籍の試し読みをするデモが行われていた。
このほかにも、発売前の書籍を予約できる端末「PiTSPOT」や、参考展示として電子書籍や音楽コンテンツの“自動販売機”が展示してあった。電子出版EXPOには“自動販売機”が2台展示されているが、ブックフェアでもこうした展示があったことに驚き、その理由を尋ねてみた。
「われわれは、書店の活性化を目標にソリューションを提案している。今回はサイネージの展示が多いが、今後は電子書籍に対応したソリューションも必要だと考えている」(事業開発部)とのことだ。彼は続けて「書店は地域の人々が集まる場所として、これからも存在し続けてほしい」と話してくれた。
ブックフェアの会場内に電子書籍のコンテンツやソリューションが展示されるいうことは、出版業界にとって電子書籍への対応が不可欠だということを示しているのではないか。社員の人の話を聞いていても、出版業界全体が電子書籍への対応を急いでいるように感じられる。講談社は、書籍を有料のスマートフォンアプリとして提供するなど、電子書籍ならではの収益モデルを模索する様子を、光和コンピューターは電子書籍に対応した未来の書店の姿を模索している様子を見せてくれた。出版業界の電子書籍に対する取り組みは、電子書籍と紙の書籍が共存する方法を提案しているように感じた。
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