スマートフォンやタブレットデバイスの普及によって、画面のタッチ操作は一般にも身近なものになったが、いわゆる“Windows PC”ではなかなか浸透していない。
キーボードとマウスの使用を前提にユーザーインタフェースを設計し、後からタッチ機能を追加した格好なのだから、最初からタッチ操作前提で作られたiOSやAndroidに比べて、タッチ操作に難があるのは当然だ(次期OSのWindows 8では大きく変わりそうだが)。
とはいえ、家庭にこれだけPCが入り込んでくると、家族全員で使うPCでは、コンピュータが得意でない人たちにとっても直感的に使えるような仕組みが求められてくる。また、PCに慣れた人でも、もっと快適にタッチ操作ができれば、Windows PCがさらに使いやすくなるのに……と不満に感じることがあるかもしれない。
こうしたタッチ操作への潜在的なニーズと現状での問題点を踏まえ、日本ヒューレット・パッカードが1つの提案としてリリースしているのが、液晶一体型デスクトップPC「HP TouchSmart PC」シリーズだ。タッチパネルとタッチ専用のソフトウェアを用意することで、Windows PCとしては、マルチタッチでの操作性を高めているのが特徴となる。
中でも2011年6月下旬に発売された23型フルHD液晶搭載の「HP TouchSmart 610PC」は、独自のスタンド機構「ピタゴラスイング」を採用し、従来機種よりタッチ操作がしやすいように改良してきた期待のフラッグシップモデルだ。今回はエントリークラスの「610-1120jp」を入手したので、使い勝手やパフォーマンスをチェックしていこう。
まずは最大の特徴である個性的なスタンド機構、「ピタゴラスイング」に注目したい。一見してボディの形状は、台座の上にディスプレイ+PC本体部が載った標準的な液晶一体型PCのようだが、スタンドのネック部とディスプレイ部をつなぐところがアーチ状のレールになっており、画面が上下と前後に大きくスライドする。この機構により、ディスプレイ部の角度を垂直(90度)の状態から、ほとんど寝かせた30度の状態まで傾けることが可能だ。
スイング機構に加えて、画面の角度は上下のチルト調整が行える。画面を寝かせる場合、まず上方向に最大までチルトしてから、画面の両サイドを持って前方へグイッとスライドさせる。チルトとスライドの負荷はやや重く、結構な力を加えることが必要だ。角度調節した場所でしっかり画面が止まり、タッチ操作で位置がずれないよう、固めに作ってあるのだろう。慣れないうちは画面をスライドさせるのに少し手間取るかもしれない。
ディスプレイ部を最も寝かせた状態では、画面がかなり上を向く状態になる。タッチ操作においては、画面を垂直近くに立てた状態より、上からのぞき込むような角度のほうが使いやすい。画面を立てた状態でのタッチ操作は手を上げた状態が続き、疲労を感じやすいが、画面を倒せば、机上にひじをついたまま、手に無理な負担をかけず、自然に見下ろす姿勢でタッチ操作が行えるからだ。もちろん、絵や文字をタッチ操作で描く場合も、画面が寝ていたほうが作業しやすい。
タブレット感覚とまではいかないものの、タッチ操作では自分と画面の距離が通常のPCより近くなることもあり、画面の角度調整に大きな幅を持たせた点は評価できる。
本体サイズの奥行きと高さは、画面の角度によって大きく変わる。本体サイズは通常使用時で584.8(幅)×246(奥行き)×450.2(高さ)ミリ、最大傾斜時で584.8(幅)×370(奥行き)×230(高さ)ミリだ。重量は約11.2キロとなっている。手前にキーボードを置くことも考えると、奥行きに余裕を持った設置スペースを確保しておきたい。
ボディのデザインは、輪郭に緩やかな丸みを持たせた形状で、ベースカラーは光沢ブラックだ。画面下と内蔵スピーカーとの境界、および本体側面にアルミ素材でダークグレーのリムを設けており、これがデザインのアクセントになっている。シャープさよりも柔らかさを感じるデザインで、個人の好みはあると思うが、どこに設置しても違和感なく使えるだろう。
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