数年前より携帯端末やノートPC向けとして、普及が期待された近接高速無線転送技術「TransferJet」。2011年10月現在、すでにデジタルカメラやPC、USB外付けタイプのレシーバーなど製品化されてはいるが、なかなか普及は進んでいない。
TransferJetは中心周波数4.48GHz、通信帯域560MHz(4.2G〜4.76GHz)、送信電力-70dBm/MHz以下。誘導電界結合型カプラによるアンテナを用い、物理層で最大560Mbpsの通信速度、数センチ以内の距離において通信し、FeliCaのようなスタイルで利用できる。TransFerJetを推進するTransferJetコンソーシアムには、主力の(技術規格の作成やコンソーシアム全体の運営活動を行う)プロモーター会員としてキヤノン、ニコン、オリンパスイメージングなどのカメラメーカー、日立製作所、パナソニック、パイオニア、Samsung、セイコーエプソン、ソニー、東芝などの家電・AV機器メーカー、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルなど通信事業者が名を連ねている。
すでに実用化されているTransferJetだが、同コンソーシアムは3つのフェーズに分けて技術規格を拡張しながら幅広い用途やサービスに対応していく考えとしている。2011年10月現在、フェーズ1の「“著作権保護が施されていない”データの伝送、撮った写真のプリント」が行える。
続くフェーズ2で「有料・著作権コンテンツ(音楽や映画)の交換や携帯端末への展開」、フェーズ3で「キオスク端末や電子サイネージへの応用。電子書籍や映画・音楽コンテンツのタッチダウンロード、ネットワーク連携サービスへの展開」の実現を予定する。
思うように普及が進まないのは、現段階はフェーズ1止まりであるため、そして国際標準化がまだ──であるためとCEATEC JAPAN 2011の展示ブース説明員は述べる。国際標準化については、2011年6月にECMA(ヨーロッパ電子計算機工業会)国際標準規格となり、同年9月に一般社団法人を立ち上げて普及活動をより推進する環境を整えた。2012年中にISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)での規格化を目指す。
また、この標準化の推進、進展とともに前述フェーズ2の「著作権保護コンテンツ対応」が加速されるだろうし、海外メーカーの賛同・製品化、そしてコンテンツプロバイダ各社も含めたエコシステムも構築できる地盤ができる。エコシステムの構築によりフェーズ3も自然に完成する──こういった考えだという。
さて、同様に置いて無接点充電を行う国際標準規格「Qi」が2011年10月現在、普及の兆しを見せているが、こちらは携帯電話・スマートフォンに“標準搭載”されたことが大きい。TransferJetコンソーシアムにも国内3大通信キャリアが参画しているが、某通信キャリア担当者によるとTransferJetを“標準搭載”とまでできないのは「昨今のスマートフォン流行」が影響しているからだという。
これまでの“ケータイ”は、ある程度深くまで通信キャリアが端末仕様を策定できたが、スマートフォンの多くは海外メーカー製であり、国際展開を軸に企画されている。「そのため、(ワンセグやFeliCaは別にして)まだ普及していないTransferJetを国際展開の端末に標準搭載してくれと頼むことは難しい」(ある通信キャリアのTransferJet担当者)。国際標準化の進展次第というのが現状のようだ。
なお「置くだけ」の動作は前述のQiと一緒だ。Qi規格を推進するワイヤレスパワーコンソーシアム(WPC)のCEATEC JAPAN 2011ブース説明員によると「充電と通信/データ転送を同じ動作で一緒にできればユーザー利便性はかなり増すかもしれない。Qi規格はあくまで充電だけの機能に特化しているが、ユーザーの利便性、製品の訴求力などが高まるのであれば、互い規格を連携させる方向性も悪くないと思う」とのこと。
確かに一PC利用者としては、TransferJetとQiが両方同時にPCでも、スマホでも利用できればかなり便利そうである。
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