「iPhone 4S」に見るスティーブ・ジョブズのDNA初日100万台突破(1/3 ページ)

» 2011年10月12日 00時00分 公開
[林信行,ITmedia]
スティーブ・ジョブズ氏の死の知らせを、まさに彼が生み落としたデバイスで受け取った人も多かっただろう

 「iPhone 4S」の発表と創業者スティーブ・ジョブズの死――先週はアップルが2度に渡って世界のニュースを独占した。私もいろいろなメディアに続けて取材を受けることになった。ジョブズ氏の訃報については、私もさまざまな場で哀悼の意を述べてきた。

 ここで改めて、それを深く話題にするつもりはない。ジョブズ氏自身は、常に未来に目を向けている人で、アップルに戻ってくると社内にあったMac博物館も撤廃してしまった。

 ビル・ゲイツ氏との対談があった2007年の「All Things Digital」というイベントでは、Beatlesの名曲「Two of Us」を引用して「君と僕には、ここから先に続く道よりも長い思い出がある」と珍しく過去に触れたものの、単独インタビューでは「一緒に未来を作っていこう。過去をくよくよするのではなく」と自身の過去の話をさらっと流した。

 そんなジョブズ氏に敬意を払うのであれば、過去の思い出もいいが、アップルが産み落とした最新の製品「iPhone 4S」に目を向けたほうが、いい意味での哀悼の意になるのではないかと思い、この記事を書く。

iPhone 4Sにガッカリ?

 さて、私は今週、いろいろなメディアから取材を受けたと書いたが、「それにしても、今回はiPhone 5でなくて残念でしたね」と言われることが多かった。

 果たして本当にそうだろうか。

 アップルの国内製品発表会で製品を触ってみた限りでは、iPhone 4Sのカメラはかなり動作がキビキビしており、写真もきれいだった。ビデオの手ブレ補正もなかなかいい感じだ。また、Siriの対話型操作やiCloudでのデータ連携は“未来”を感じさせる。

対話型のアシスタント機能「Siri」。ホームボタンの長押しで起動し、マイクに向かって話しかければ、受信したメールの読み上げや返信、気になるニュースの情報などさまざまなタスクをこなしてくれる。今日の天気1つを聞くにしても、「今日は傘を持っていく必要がありそう?」など、さまざまなパターンの自然な問いかけを解析してくれる

 そして、何よりもほかのスマートフォンとは一線を画すiPhone 4の、あの優美な完成された形がほぼそのままなのは、ある意味、ものすごくスティーブ・ジョブズ的だし、喜ぶべきことのようにも思える。

 2011年1月にジョブズ氏がアップルの一線から退いてから登場したiPhone 4Sの開発に、彼がどの程度関与していたのかは分からない。密接に関わっていたとは思わないが、まったく関与していなかったとも思えない。

 何よりこの製品を作ってきたチームの人たちも、アップルというジョブズ氏のDNAが強く息づく会社でこの製品を仕上げたわけであり、製品のいたるところに“ジョブズらしさ”をうかがわせる部分はある。iPhone 4とカタチが同じという点も、その1つと言っていいだろう。

 この記事の読者には、「iPhoneは使っているけれどMacは使ってない」という人がいるかもしれない。

 実は今、世界でも日本でも急速に利用者が増えている「MacBook Air」は、2代に渡ってまったく同じ形だ。新たにThunderboltと言う技術を搭載してはいるが、アップルがこのThunderbolt技術そのものの制定に関わり、同じ形を保つことができた。MacBook Proという製品に関してはさらにすごい。なんと3年の間、3世代に渡って一度も形が変わっていないのだ。

 これらのノート型Macは、使いやすさと頑丈さ、低価格と高性能の究極なバランスポイントを追求した結果、1枚のアルミ板をくりぬいて作るのが正しいという結論に達し、実際にそうして作られている。それ以来、MacBook Proは3代にわたって同じカタチを継承しているのだ。

iPhone 4Sの外観はiPhone 4とほぼ同じ

 「究極のカタチ」と言うのは、そうポンポンと飛び出してくるものではない。iPhoneにしても、2008年、日本で最初に発売されたiPhone 3Gと、2009年に発売されたiPhone 3GSでは、見た目はそっくりだ。

 ある有名な日本の工業デザイナーがこんなことを言っていた。かつて外観のモデルチェンジというのは、そもそも機能上どうしても必要な時にしか行わないものだったという。それがどこかで間違って、新製品であることをアピールするための形状変更(といっても主に外装の)が頻繁に行われるようになってしまった。

 ThinkPadシリーズをデザインしたリチャード・サッパー氏も、1つのジャンルの製品は、1度しかデザインしないと聞いたことがある。1つの製品に対しての回答といえるカタチは、究極的には1つしかないという考え方だ。

 筆者のモデルチェンジに関する考えも同じで、実は上の2段落は今年3月に書いた「MacBook Pro」の紹介記事「驚くべきは中身か外見か:新型「MacBook Pro」を眺めて思う本当のすごさ」からそのまま引用したものだ。

 ようするに、世の中では本来、形を変える必要がないのに、「新しさ」を出すためだけの、本質ではない「子供だまし」のデザインがあふれてしまったということ。この「子供だまし」のデザイン変更は、機能や使い勝手といった、製品の本質とは乖離(かいり)したものだ。そうしたデザインを続けることによって、デザインと製品開発のプロセスそのものにも溝ができてしまったのではないか。最近、多くの企業がデザイン部門をただの装飾部門のように扱っているのも、そうしたところが問題なのではないかと思う。

 これに対してスティーブ・ジョブズ氏は、デザインこそが製品開発の要であり、中心であることに真っ先に気づき、そうした“モノ作り”ができる企業体制をしっかりと築いた。

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