無線WAN機能をMini PCI Expressカードで搭載した理由は、主に熱源の分散のためだ。チップで実装するとCPUのそばに配置する必要があり、距離が離れると信号のロスや若干の電圧低下が発生し、それが直ちに性能に影響してしまう。なので、サブ基板上の電源はすべてサブ基板上で作り、取り回しのしやすいカード型モジュールを別途評価キットに載せて検証を重ね、安定して性能が出せるようにした。
無線まわりではアンテナの実装にもストーリーがある。天面側の左右に重要度が高い無線WANとGPSのアンテナを配置しつつ、ボディを両手で持った際に隠れない(つまり使用時に感度が落ちにくい)、天面側の中央下部に無線LANとBluetoothの共用アンテナを搭載しているのが面白い。
これにより感度を確保しているが、無線LANとBluetoothの共用アンテナはすぐ下に液晶ディスプレイを支えるアルミフレームがあるため、小さなチップアンテナでは金属が近すぎて性能が出ない。そこでチップ部品と同じように自動実装機で搭載できるアンテナを新開発した。設置面から1.5ミリ程度浮かせた場所に無線LANとBluetoothの共用アンテナを配置することで、性能を高めている。
佐藤氏は「ボディの曲線は機能的に重要で、実はこの丸みを生かして、天面側に無線モジュールを入れたり、無線LANとBluetoothの共用アンテナの高さを稼いでいる。天面左右の無線WANとGPSのアンテナについても、ボディに丸みがあることで、法令により規定されている人体への影響(SAR:比吸収率)と感度のバランスをうまく取ることができている」と、無線部の作り込みを説明する。
以上、独特な2画面折りたたみボディを採用したSony Tablet Pがどのような経緯で製品化に至ったのか、またいかにしてコンパクトボディに2枚の液晶と各種機能を詰め込んだのか、内部構造も含めてじっくり見てきた。
佐久間氏は完成したSony Tablet Pを「最初のコンセプト通り、家庭と同じように快適なインターネット体験がモバイルでできる製品になった。スマートフォンでも既存のタブレットでもノートPCでもない、新しい体験ができるはずなので、ぜひ外に持ち出して使ってほしい」と総括し、その完成度に自信を見せる。
実際に話をうかがって、単に既存のAndroidタブレットと差別化するため、奇をてらって2画面にしたわけではなく、タブレット端末がトレンドになる前から、画面の広さと持ち運びやすさの両立を目指して2画面を選択し、長い期間をかけて細部まで作り込んできた背景には驚かされた。
構造が単純なスレート型タブレットが多い中、これほど凝った設計のタブレットは非常に珍しい。ソニー初となるAndroidタブレットの一角を担う製品だけあって、その本気ぶりが分解された各パーツからも伝わってくる。
この冬、携帯性に優れたAndroidタブレットが欲しいという人はもちろん、既存のタブレットはどれも似たようで面白みに欠けると思っている人、あるいは先進的なデジタルガジェットに興味がある人は、一度Sony Tablet Pをチェックしてみてほしい。「小さく運んで、大きく使える」という2画面タブレットならではの可能性や、ワクワクするような近未来感といった魅力がSony Talet Pにはある。
そのポテンシャルをどこまで引き出せるかはソフトウェア次第だが、今後はソニー独自アプリの拡充に加えて、Sony Talet用のSDK(ソフトウェア開発キット)が公開されたことで、思いもよらないような2画面アプリが登場することにも期待したい。
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