すべてのコンピュータはヘテロジニアスを目指す──NVIDIAがProject Denverで目指すものGTC Asia 2011(2/2 ページ)

» 2011年12月20日 16時00分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]
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ARM+NVIDIAの組み合わせを推進する“評価キット”

 こうしたProject Denverへの1つの道筋となる製品が、12月19日にNVIDIAから発表された(正しくは、NVIDIAスタッフのブログで明らかになった)。それが「ARM Development Kit」と呼ばれる開発キットだ。HDMIやUSB、Serial ATA、イーサネットといった汎用出力を備えた基板に、Tegra 3とQuadroベースのCUDA対応GPUを搭載する。ARMを搭載するシステムでCUDAプログラミングによるアプリケーション開発を行うための開発者支援キットと呼べるものだ。

 ベースがTegra 3なので、将来的な64ビット環境を考えればパフォーマンス不足の可能性があるが、これを軸にCUDA on ARMでのプログラミング環境を整備し、将来の同プラットフォームをベースにしたアプリケーション開発を促進するのが狙いとみられる。すでに、バルセロナのスーパーコンピュータセンターでの採用例があり、2012年第1四半期での正式リリースを経てアプリケーション開発がスタートすることになるだろう。

 スコット氏によれば、HPC環境ではx86ベースのアプリケーション資産を引き継ぐ必要性は低く、ソースコードをリコンパイルして最適化を行うのが一般的だという。そのため、現在のHPC市場におけるx86のソフトウェア資産の優位性は必ずしも成立しないと説明する。それより、アプリケーションの実行を最適化する仕組みを用意していることが重要だという。

モバイルデバイスでもヘテロジニアスの世界へ

 こうしたCPU+GPUのヘテロジニアスが求められるのは、HPCだけではない。NVIDIAでは、将来的にTegraでのCUDA GPUサポートを表明しており、モバイルデバイスやデスクトップPCでも積極的にヘテロジニアス・コンピューティングを推進していく。これは、CPUだけでは実行効率が低く、より実行効率の高いGPUコアにタスクを分散して、全体で電力効率を高め、従来の電力消費によるパフォーマンス制限の壁を破ることが主眼にある。アプリケーションが明示的にGPUを積極利用するようになれば、モバイルデバイスにおいても従来より高パフォーマンスなものが実現できるようになるはずだ。

 同様のアイデアは、ARMが自身のGPUコアで「Midgard」(ミッドガルド)アーキテクチャを採用し、GPUを単なるグラフィックス描画の世界からGPUコンピューティングの世界へと舵を切ったことからもうかがえる。今後の1〜2年で、モバイルデバイスやデスクトップPCにおいても、特にARMプラットフォームを中心にGPUコンピューティングの利用が広まっていくだろう。ある意味で、HPCの技術をモバイルデバイスにフィードバックしたともいえるかもしれない。

 こうした話を聞いていくと、コンピュータの世界は従来のCPUを中心としたホモジニアスな世界から、必要なタスクに合わせて種類の異なる複数のコアを組み合わせたヘテロジニアスな世界へと移行しつつあるのがうかがえる。例えば、HPCの世界において、インテルはMIC(Many Integrated Core)と呼ばれるアーキテクチャを発表しているが、これは、x86コードを実行可能な大量のコアを集めた並列プロセッサをXeonと接続することで、より高パフォーマンスな実行環境を構築しようというものだ。アイデア的にはNVIDIAのCPU+GPUに近い。

 これについてファン氏は、「MICは本来GPU向けに開発されたアーキテクチャであり、その延長線上にある。だが、HPCにおける最大のポイントは帯域幅であり、これがエクサスケール実現におけるボトルネックとなるだろう。MICがそれを実現できるかは帯域幅の拡大に成功するかにかかっている」と語っている。実装技術こそ違えど、メーカー各社が同じ方向性を模索しているというのは興味深い。

Tegra 3とCUDA GPU(Quadro)を搭載したARM Development Kit。Project Denverへの橋渡しとなるCUDA on ARMのアプリケーション開発キットだ(写真=左)。電力効率の高いコンピューティングを目指し、ARMはモバイルからサーバまで、さまざまな分野での利用が広がる(写真=右)

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