2011年、アップルは見かけを変えずに、すべてを変えた林信行のアップルまとめ(1/3 ページ)

» 2011年12月22日 12時30分 公開
[林信行,ITmedia]

 毎年この時期、アップルのワールドワイドマーケティング担当上級副社長であるフィル・シラー氏が、国内メディア向けインタビューに応じるために来日すると、その年はもうアップルから何の新製品発表もなく、アップル関係者が年越しモードに入ったことを意味する。

 2011年は“大人の事情”でITmedia向けにはほかの方がインタビューを行い、筆者はascii.jp向けにインタビュー記事を書くことになった(ascii.jpのインタビュー記事:前編後編)。最大の年末行事も終わった今、インタビューの内容も鑑みながら、アップルの2011年を振り返りたい。

見た目は同じでも、中身は新しい

 「今年のアップルは、クリスマス商戦に向け、これまでで最高のラインアップを用意した」――これは毎年12月に来日するフィル・シラー氏恒例の言葉だ。

 この言葉に偽りはない。アップルは毎年、前年よりも確実に製品をよくし続けているので、本当にその通りなのだ。ただ、今年はこのメッセージを聞きながら、ちょっとした違和感を覚えていた。

MacBook Air

 テーブルにズラっと並べられたiPod shuffleiPod nanoiPod touchiPhone 4SiPad 2、そしてMacBook Air。これらの製品のうち、見た目が変わったのは白いiPod touchとiPad 2だけ。確かにアップルは、ほぼすべてのMacを刷新した。だが、2010年のモデルとの見た目の違いは、DisplayPortにイナズマの形をしたThunderboltのマークが印刷されているか否かだけ。

 iPodはいくつか新色が加わったが、形はそのままだ。iPhone 4Sは、ソフトバンクが採用するW-CDMAに加え、auのCDMA 2000にも対応し、64Gバイトのモデルも登場したが、こちらも見た目はもちろん、ミリ単位の厚さまでそっくりそのままだ。テーブルに置かれたのがiPhoneが4か4Sかを区別できるのは、アンテナの切り込み位置の違いを暗記している、一部のマニアックな人くらいだろう。唯一、形まで変わったのはiPad 2くらいである。

 アップルは、これらハードウェアの新製品に加えて、OS X “Lion”やiOS 5、そしてiPhone用のiWork、GarageBandなどもリリースしたが、これらの製品はすべてApp Storeで売られているため、手に取れるパッケージはない。つまり、2011年にアップルから発表された新しい「形」は、実質iPad 2だけなのだ。

 「これは本当に新しいのか?」――これらの製品をまだ触っていない人たちは、そう疑問に思うかもしれない。「2011年の製品は、2010年の製品に+αの改善を加えただけなのか?」

 しかし、2011年後半に登場したアップル製品を触った人は、「違う」と断言できるだろうし、これから触る人は、あまりにも大きな違いに驚かされることだろう。実は2011年後半に発売された製品1つ1つの内部では、「小さな変更」どころか「大きな革命」が起きている。

電話に続いてパソコンを“再発明”

iPadのようなUIの「Launchpad」

 個人的に一番衝撃を受けたのはOS X “Lion”だ(関連記事:ついに降り立った未来のパソコン環境――「OS X Lion」に迫る)。昨年、スティーブ・ジョブズ氏は、iPadに代表されるポストPC機器が台頭し、PCを使う機会がどんどん減ってきている、と語っていた。確かにその通りなので、PC製品のMacは、このまま徐々に輝きを失ってフェードアウトしていくのかもしれないと思っていた。しかしアップルは、Macをそのまま終わらせるどころか、これから先10年が楽しみになる製品として再発明した。それも、まったく外観を変えずに。

 実際、ポストPCの時代にPCが本当にいらなくなるのかと言えば、そんなことはない。高速なCPUと大きなストレージ容量、大画面、物理的なキーボード、これらを備えたPCには、iPhoneやiPadではできない仕事をたくさん抱えている。ただし、これまで通りの使われ方では、どんどん利用シーンをiPadに奪われる一方だ。必要だったのは、パソコンをポストPC時代という時代コンテクストにあわせて「再発明」することだった。「OS X Lion」は、まさにそのためのOSだった。

 PCを、スマートフォンにあわせて再発明する――これは今後のPC業界の大きな流れになりそうだ。実際、来年にはマイクロソフトが、Windows PhoneのメトロUIを、次期WindowsやXboxにも展開する。一方のOS X Lionは、Mac OS Xの使いやすさも残しながら、いい具合にiPadのエッセンスを取り込んでいる。また、これからの時代のPCに求められるであろう新要素もうまく加えている。

OS X Lionの新機能「Mission Control」

 筆者がLionを使っていて「素晴らしい」と感じるのは、メニューバーに表示されていた時計すら隠し、画面一杯に作業中の作品を映し出し、クリエイティブな作業に没頭できるようにしたフル画面でのアプリケーション作業環境だ。そのフル画面アプリケーションを、近年巨大化しつつあったトラックパッドの上で指を右、左(切り替え)、上(Mission Control)、下(選択アプリケーションへの切り替え)とはらって自由自在に切り替えていると、まるでSF映画「マイノリティーレポート」の世界に入り込んだような、情報を自由自在に手で触って動かしているかのような「未来っぽさ」を感じてワクワクし、仕事へのモチベーションも上がってくる。

 このOS X Lionに、Lion時代のハードウェア、つまりSSDを搭載したMacBook Airをかけ合わせると、まさに未来への突入となる。電源を入れたらすぐに使えるようになるインスタント・オン体験や、驚異的に静かな動作音、ACアダプタの存在を忘れる長時間動作――これからiPadで育った子どもたちが成人し、仮に今の時代にタイムスリップして戻ってきたとしたら、きっと2012年のアップル製品を見て、まずは先にiPadがあって、そこから物理キーボード付きのMacBook Airというバリエーションが登場した、と誤解する人も出てくるのではないだろうか。それくらい、Lion搭載のMacBook Airと、その前のMacBook Airでは体験が異なる。この組み合わせを使った後では、先進的に思えていたMac OS X Snow Leopardでさえ、「前世紀の遺物」に思えてくる。

 アプリケーションの互換性の問題などで、まだOSをLionにアップグレードしていないという人の話もよく聞く。確かにLionは、PC史のターニングポイントとなるOSであり、それだけに変化が多く、これまでのメジャーアップグレードと比べても、さらに互換性問題などが起きやすいかもしれない。だがそんな人も、1日でも早くこの未来体験を実感するために、今、仕事で使っているPCとは別に、サブのマシンとしてLion搭載のMacBook Airを買ってみるといいかもしれない。

 ちなみに、あまり表立って話題に出てこないので忘れがちだが(今年のOS X Lionで、もう1つ革新的だったのは2600円という価格だが)、この価格改定にあわせて、これまで5万円ほどしたサーバ版OSの価格が4300円になったのも衝撃だ。わずか8万8000円で500GバイトHDDを2台内蔵し、サーバOSがプリインストールされた状態の新しいサーバ版Mac miniも、アップルの隠し球の1つといっていいかもしれない。アップルのサーバは、メールサーバから、Webサーバといった対外的なサーバとしての機能もさることながら、Wikiや指定したグループの人しか読み書きできないblogなど、グループワークに役立つ機能がかなり充実しており、しかも、セットアップが驚くほど簡単になっている。

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