あのPCと“そっくり色”のマウスを作れ!って簡単にいうな牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2012年01月19日 10時30分 公開
[牧ノブユキ,ITmedia]

結局のところ機能より色なんですよ! 色!

 PC周辺機器の売れ行きを決める要素として「色」の影響は大きい。「PCの本体と色が似ているモデルほど売れる」といわれている。

 中でも、マウスやキーボードなどでこの傾向が強い。これが、スマートフォンのケースなら本体と違う色を組み合わせて個性を演出するというユーザーも少なくないが、本体に接続するマウスやキーボードでは、色の一体感が重要になる。多くのユーザーは、購入候補のマウスで機能が横並びであれば、なるべく本体に近い色の製品を買おうとするはずだ。

 こうした事情もあって、PC周辺機器メーカーは、なるべくPCの本体と色をそろえるべく苦労することになる。そこにはまことに涙ぐましい苦難の作業が待っている。

そういうわけで、機能よりも色を近づけることに腐心する

 かつてのマウスは、ホワイトかブラック、それにグレーといったモノトーン系の製品が主流だった。その派生として、ややグレーがかったホワイト、ベージュがかったホワイトなど、色の系統こそ微妙に異なってはいたものの、カラーバリエーションなるものはほとんどなかった。理由は単純明白で、当時のPCは本体色が基本的にグレー、黒、白といったモノトーンしかなかったからだ。

 ところが、Windows 95が発売されたあたりから、色の傾向に変化が表れる。きっかけとなったのは、1997年に登場したソニーのVAIOシリーズ、決定的となったのが、1998年に登場したiMacだ。PCにカラーバリエーションという概念を導入したこの時期から、パープルやシルバー、そして、ボンダイブルーをはじめとするiMacカラーで使われているカラフルな製品が、マウス市場でも受け入れられるようになる。PC本体がボンダイブルーなのに、ベージュやブラックのマウスと組み合わせるという選択肢は、カラフルなiMacを使うユーザーには有り得ないからだ。

 実際、マウスの「色」が販売実績に与える影響は大きい。それまで、まったく売れていなかったカラーバリエーションの1つが、新しく発表されたPC本体の色と偶然そっくりだったために、量販店の定番になってしまうケースも少なくない。ほかにも、競合モデルにないカラーバリエーションがあるというだけで、そのモデルが爆発的に売れることも多かった。機能が横並びのマウスで比較すると、質感も含めた色がPC本体と似ている順番に売れるというのが、PC周辺機器業界の常識だ。

 そのため、PC周辺機器メーカーは「いかにしてPC本体に色を似せるか」に注力することになる。困ったことに、製品の機能にこれといった特徴がなくても、色をPC本体とそっくりにできれば売れてしまう面も少なからずあるので、いきおい、機能強化より色を近づけることに労力をかけるようになる。海外で販売している製品をそのまま仕入れて売る「取り売り」が主体のメーカーでは、製品の機能に関与できない一方で、色のリクエストは通りやすいことも、こうした傾向に拍車をかけている。

購入した新製品を切り刻んで“色見本”を作る

 しかし、色をそっくりにするのは困難な作業だ。PCメーカーとPC周辺機器メーカーの関係は、業界全体としては“良好”であっても、PCメーカーが周辺機器を扱う事業部を持っている競合関係という場合もある。さらに、PC周辺機器メーカーから純正品と思わせるほどによく似たモデルが出現すると、これをPCメーカーが開発したと誤解したユーザーからクレームが寄せられる原因にもなる。そのため、新製品の情報を優先的に提供するほどの深い関係であっても、どの染料をどのように調合すればPC本体の色合いが出せるのか、といった具体的な情報がPCメーカーからPC周辺機器メーカーにもたらされることはまずない。

 ならば、PC周辺機器各社は、どうやってPC本体とそっくりの色を作り出すのか。これはもう単純に「染料を“勘”で調合し、PC本体の色に“目視”で近づけていく」しかない。多種多様な比率で染料を調合した樹脂のチップを並べ、これは青味が足りない、これは赤味がかりすぎている、これは光沢が足りない、といったチェックを重ね、“そっくりな色”ができるまで何度も調合を繰り返す作業を延々と続けることになる。

 当然、こうした作業は膨大な手間がかかる。外注先が中国や台湾などの場合、口頭で「ややグレーがかった白でよろしく」といった口頭では到底伝わらないので、購入した製品本体を送って、「これとそっくりにしてくれ」と指示をしなくてはいけない。そのため、PC周辺機器メーカーは新製品のPCをいち早く入手し、色の研究に着手することが求められる。余談だが、新製品の発売日に列に並んで購入しているユーザーには、こうした“色分析”の社員や関係者も多く含まれている。

 外注先が複数ある場合、PC本体を何台も買っていてはさすがにコストがかかりすぎるので、購入した新製品のボディを切り刻んで“色見本チップ”を作り、それを外注先に送ることもよく行われる。本体の色合いが独特で、しかも半透明ということでPC周辺機器メーカー泣かせだったiMacでは、この方法がよく行われていた。当時、PC周辺機器メーカーの事務所には、ボディが穴だらけになったiMacがゴロゴロ転がっていたという。

 こうして用意した色見本を中国や台湾の外注先に送り、試作した見本が海を渡って日本のPC周辺機器メーカーの開発担当者に届くまで、普通にやっていると何カ月という時間を要する。この時間を短縮するため、日本からPC周辺機器メーカーの担当者が現地に常駐し、直接ダメ出しをするケースは多い。

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