「ENVY15-3000」は、HPの高級ブランドである「ENVY」の名を冠した15.6型ワイドノートPCだ。先に掲載したフォトレビューでも触れているが、ENVY15がまとうフルメタルの外装や各所にこらされたギミックは、PCという道具を越えて感性に訴えかける存在感がある。今回は実際の使い勝手やパフォーマンスをチェックしていこう。
その前に1点、前回のフォトレビューに対して「MacBook Proにそっくり」という声がいくつか上がっていたので、デザインについて補足しておきたい。確かに、このクラスでアルミ削り出しのボディを採用した製品といえば、「MacBook Pro」を思い出すかもしれない。昨今のノートPCで潮流になりつつあるUltrabookが、アルミユニボディの精密な成形技術で話題を呼んだ「MacBook Air」の影を引きずっているように、ENVY15もアップルのデザインを連想させる部分はある。
しかし、ENVY15が「MacBook Proの(デザインの)コピー」であるかのような指摘は、まったくあてはまらないと筆者は思う。それはたんに、天板がつや消しの黒だからとか、キーボードの枠を赤く縁取っているからといった、分かりやすく目につく違いだけではない(むしろ“似せすぎない”ためのデザイン――例えば天板の加工を変える――を採用したことで、かえってオリジナルの存在を強く意識させてしまう製品もある)。ENVY15を試用して強く感じたのは、金属の質感を生かす流行りのデザインにただ追従したのではなく、あくまで「どうすればユーザーが心地よく使えるか」を考えた結果として、このデザインがあるということだ。
HPが初めて採用した「ラディエンス・キーボード」は、ユーザーがマシンの前に座り作業を始めようとすると波打つように光って応えてくれるが、それ自体が面白い仕掛けというだけでなく、すべてのキーに白色LEDが埋め込まれているため明るい場所でもキートップの文字を視認しやすい。また、ボディのエッジは美しく面取りされ、デザイン上のアクセント(光の加減で影が落ちる)になっていると同時に、パームレストに置いた手のつけ根が痛くならないための配慮にもなっている。
実際にENVY15を手にとってみれば、それが何かの真似ではなく、ほかでもない「ENVY15のデザイン」であることは分かってもらえると思う。外観の印象は個人に委ねられる部分ではあるが、自宅でアップル製品に囲まれている筆者にとっても、ENVY15がとてもかっこよく感じられたことは改めて強調しておきたい。
ENVY15-3000は、直販向けと量販店向けで2つのモデルが存在する。下の表でも分かるように、直販のDirectplusモデルのほうがハードウェアスペックは高い。また、これだけ構成に差があるにも関わらず、価格差は1万円ほどしかないため、直販モデルのほうがはっきりとお買い得だ。そのためここでは直販のHP ENVY15-3001TX(高速SSDモデル)を取り上げている。
ENVY15の基本スペック | ||
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型番 | ENVY15-3001TX(直販) | ENVY15-3000TX(量販店向け) |
CPU | Core i7-2670QM(2.2GHz/最大3.1GHz) | Core i5-2450M(2.5GHz/最大3.1GHz) |
液晶ディスプレイ | 15.6型ワイド | 15.6型ワイド |
解像度 | 1920×1080ドット | 1366×768ドット |
メモリ | 8Gバイト(PC3-10600) | 4Gバイト(PC3-10600) |
ストレージ | 300GバイトSSD | 750GバイトHDD |
グラフィックス | AMD Radeon HD 7690(1Gバイト) | AMD Radeon HD 7690(1Gバイト) |
光学ドライブ | DVDスーパーマルチドライブ | DVDスーパーマルチドライブ |
価格 | 13万9650円 | 13万円前後 |
HP ENVY15-3001TXの基本スペックをおさらいすると、CPUがCore i7-2670QM(2.2GHz/最大3.1GHz)、メモリが8Gバイト(PC3-10600)、ストレージが300GバイトSSD、グラフィックスはDirectX 11をサポートするRadeon HD 7690M(1GバイトGDDR5)、そしてスロットイン式のDVDスーパーマルチドライブという構成だ。スペック固定のため、BTOでBlu-ray Discドライブを選択することはできないが、標準でもメインマシンとして不満のない内容といえる。また、ソフトウェアとしてAdobe Photoshop Elements 9とAdobe Premier Elements 9がプリインストールされており、追加費用なしですぐに画像編集やビデオ編集を始められるのもうれしい。
1920×1080ドットのフルHD表示に対応した液晶ディスプレイは、同社が「ハードコートクリスタルビュー」と呼ぶ光沢パネルで、写真や映像を表示した際の見栄えがよく、高解像度の広いデスクトップ環境はオフィス系ソフトを使う際の作業効率も高い。光沢仕様のために外光反射は目立つが、パネルの角度を調整することである程度は映り込みも抑えられる(ちなみにパネルの角度は後ろに140度くらいまで開ける)。
また、Dr.Dre(ドクター・ドレー)とのコラボレーションで生まれた、おなじみの「Beats Audio」も特徴の1つだ。特にENVY15では、6つのスピーカーと2つサブウーファが搭載されており、ノートPCとは思えない豊かなサウンドを楽しませてくれる。フルHD表示に対応した液晶ディスプレイとあいまって、エンターテインメントPCとしての適正は抜群といえる。なお、右側面に搭載されたアナログボリュームダイヤルを押し込むと、サウンドをチューニングできる「Beats Audio」ソフトウェアが起動する。イコライザーは3つのプリセット(Beats Active NR/Beats In-Ear/Beats Passive)およびカスタムで、好みの設定をプリセットとして保存しておくことも可能だ。
キーボードは英語配列の85キーが並ぶ。キートップが15ミリ正方のアイソレーションタイプで、キーピッチは約19×19ミリ、キーストロークが約2.5ミリと余裕を持ってタイピングできるサイズだ。実際、かなり強めにキーを叩いてもたわみなどは感じられず、快適に入力が行えた。ただ、人によっては英語配列というだけで購入候補から外れてしまう人がいると思うので、できればBTOメニューに日本語キーボードの選択肢を加えてほしかった。
前述したように、各キーの下には白色LEDが埋め込まれており、バックライトの透過光がキートップの文字をむらなく浮かび上がらせてくれるため、ただのプリントに比べると美しいうえに見やすい。最上段に並ぶFキーは、標準で輝度調整や無線のオン/オフ、メディアコントロールなどに割り当てられており、Fnキーとの同時押しでファンクションキーとして機能する。
一方、ポインティングデバイスには、クリックボタンがパッドと一体化したマルチタッチジェスチャー対応のイメージパッドを採用する。入力領域は110(横)×68(縦)ミリと広く、シナプティクスの多機能ドライバが導入されており、スクロールや回転、拡大/縮小、Webブラウザの進む/戻るといった操作を片手で操作できるので便利だ。ただ、パッドのサイズが大きいためか、パッドの下方を押し込むのがやや重く、左右のクリックで何度かやり直すことがあった。なお、マウスを接続して使う場合は、パッドの左上をダブルクリックすることで機能を無効化することもできる。
インタフェースは両側面に振り分けられている。左側面に並ぶ2基のUSB 3.0ポートは奥側が電源オフUSBチャージに対応し、PCを起動していない状態でもオーディオプレーヤーやスマートフォンを充電できる。このサイズのノートPCを常時携帯して使うシーンは想像しづらいものの、HP ENVY15-3001TXのバッテリー駆動時間は公称約8時間と長いので、スマートフォンの電池が切れたときなどに、PC本体をカバンの中に入れたまま充電できるのはありがたい。一方、右側面は手前からSD(SDXC)/MMC対応のメモリカードスロット、USB 2.0、DisplayPort出力、HDMI出力、ギガビットLANが並んでいる。着脱頻度の高い端子を手前に置いたよく考えられたレイアウトだ。
次ページではベンチマークテストによる性能評価と、起動時の静音性、温度などを見ていく。
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