開発責任者に聞くWindows 8の世界――「2年後、タッチできないPCは欠陥品に思われる」スティーブン・シノフスキー氏インタビュー(2/3 ページ)

» 2012年04月26日 17時45分 公開
[本田雅一,ITmedia]

スマートフォン、タブレット、PCを区別する要素とは?

Windows Developer Daysの基調講演にて、さまざまなWindows 8搭載PCを前に語るシノフスキー氏

―― アップルはスマートフォンとタブレットを1つのOSに統合していますよね。だから、iPhone用のアプリケーションがiPadでも動作します。iPhoneとiPadはタッチパネルで動作し、利用シナリオに沿ったアプリケーション設計を行うという点でよく似ていますから、この設計はとても合理的に思えます。

 しかし、マイクロソフトはPCとタブレットのプラットフォームを統合しています。確かに最新のタブレット端末はパフォーマンスも上がっていますが、なぜこのような判断の違いがあるのでしょう?

シノフスキー氏 この部分はなかなか面白い視点なのです。スマートフォン、タブレット、PC。これらを区別している要素は何か? と考えると、これが実は2つしかありません。キーボードとマウスの有無、それに画面サイズ。この2つだけです。

 アプリケーションの設計、特にフロントエンドのアプリを書く際に最も設計に影響を与えるのは画面サイズです。画面の物理的なサイズが大幅に変化すると、ユーザーインタフェースの設計は大幅に変えざるを得ません。

 1つ前の質問に立ち返って考えると分かりやすいのですが、今のアプリケーションはサービスの動作モデルを決め、フロントエンドのアプリケーションを別に設計します。このため、画面サイズが近いPCとタブレットのほうが親和性が高いのです。

 Windows Phoneのアプリケーションは、サービス側を共有しながら、小さな画面に合わせた別のフロントエンドを用意するほうがベターだと考えています。開発者として重要なのは、画面の物理的なサイズや解像度に合ったプログラム設計を行うことですからね。

PCに慣れたユーザーがタッチ操作のWindows 8を使う利点は?

タッチ操作を前提にデザインされているWindows 8のMetroユーザーインタフェース

―― 従来のクラムシェル型ノートPCや、一般的なデスクトップPCを使う人たちにとって、タッチパネル操作を前提にした設計のWindows 8を使う利点はあるのでしょうか?

シノフスキー氏 もちろんです。多くの人が想像する以上にタッチ機能は普及します。新しく販売されるPCの、ほとんどがタッチパネルを持つようになります。キーボードが必要ならば、キーボードが付いた製品を買えばいいですし、デスクトップ型がフィットするならば、デスクトップ型でも構いません。しかし、タブレット型を含めてPCの画面は、すべてタッチ操作が可能になっているはずです。

 そして2年後、もしその時点でもタッチ機能を搭載しないPCが店頭にあったならば、消費者は画面を触ってみて、「これは壊れているのではないか?」と訝(いぶか)しむようになると思います。

―― タブレット型のコンピュータに用意されているアプリケーションは、その多くが利用シナリオに応じて機能を実装し、タッチ操作で一直線にゴールへと向かう設計になっていますよね。

 しかし、もっと自由にアプリケーションを切り替えながら、クリエイティブな作業にコンピュータを使いたい、コンピュータはツールに徹してほしい、と思うユーザーには、かえって使えいにくくなりませんか? デスクトップ型のよさもあるのではないでしょうか?

シノフスキー氏 ユーザーインタフェースは、その時々にある道具によって決まり、特定の道具しかない場合、その道具だけしかないことを前提に進化します。例えばその昔は、コマンド入力のコンソールこそがコンピュータを使う上で、最も柔軟性が高く、使いこなすのが楽だと言われていました。GUIなんて、面倒臭い上に機能的にもすべてを網羅できないと言われていました。

 しかし、GUIの使い勝手も徐々に上がっていき、ユーザーは「デスクトップ」という概念に慣れ、アプリケーション側もGUIを使いこなすようになりました。世の中にExcel 3.0が登場するまで、GUIなんか必要ないという論調が多かったのですが、今はもうそんなことを言う人はいません。

 その後、Windowsはスタートボタンという概念を導入しましたよね。少しづつ、いろいろな要素、例えばアプリケーション切り替えの手法や通知、ガジェットといった機能を追加して今に至っています。

 Windows 8がやろうとしているのは、それと同じことです。新しい要素、すなわちタッチパネルをシステムに取り込むことで、コンピュータの使い方は確実に変化します。変化した環境に合わせ、Windowsはこうあるべきという姿に「再創造」しました。我々はWindows 8に、タッチパネルを用いた新しいコンピュータの使い方を提案するアイデアを盛り込んでいます。

 例えば、Windows 8には異なるアプリケーションがうまく連動するための仕組みを多数用意しました。機能的な面では、デスクトップではなく、タッチパネルの全画面を前提にユーザーインタフェースを再構築すれば、Metroアプリケーションでもデスクトップと同じようにクリエイティブなアプリケーションを構築できます。そのための道具はWindows 8で提供しました。

 デスクトップが生まれたのは、もう25年も前の事です。25年をかけて今のGUIになってきました。対して、タッチパネルを使ったユーザーインタフェースの歴史はまだ浅いものです。道具は用意したので、次はアプリケーション開発者たちに、「デスクトップ」という概念の垣根を越えて、アプリケーションの「再創造」を期待したいと思います。

そして気になるWindows Phone 8との関係は……

―― Windows Developer Daysの期間中、SkyDriveが新しくなりました。Windows LiveはWindowsと同じくシノフスキー氏の担当ですが、以前に比べてLiveとWindows連携が深まっている点はありますか?

シノフスキー氏 ほとんどは単に名前が変更になり、Metroアプリケーションとの親和性が高まっているだけです。しかし、SkyDriveは大きな変更があります。SkyDriveの中では、ファイルとしてデータを管理する必要がありません。さまざまなイベントと関連付けられて管理されますから、アプリケーションごとに使いやすい実装が可能です。

 典型的なものにはPhotoアプリがあります。これはSkyDriveに対応していますが、「写真が記録されたファイル」を「写真」としてさまざまなアプリケーションから扱うことができるようになります。

―― Windows Phone 8はWindows 8と共通のカーネルを利用するとのうわさもありますが、両プラットフォームはどの程度共通化されるのでしょう。最終的にWindows 8のコンパクトなフレームワークがPhoneの中に入っていくのでしょうか?

シノフスキー氏 それはWindows Phoneの質問ですよね? 今回は答えないことにしています。でも1つだけお答えしましょう。両プラットフォームでは、良質なプログラムコードの共有を行っています。

 例えば、Windows Phoneには、Windows 7で開発したGPUの機能、3Dレンダラーの仕組みを使ったグラフィックスエンジンが応用されています。これで、ほとんどのアプリケーションがGPUを効率的に使えるようになりました。逆にWindows Phoneからは、高速なInternet Explorerのレンダラーやユーザーインタフェース技術をWindows 8に移しました。

―― 伺いたかったのは、スマートフォンとPC、タブレットのプラットフォームを統合する合理性があるかどうかと、どのぐらい統合するのがよいと思うか? という点なのですが……。

シノフスキー氏 それはPhoneの質問? もう終わりましたよ(笑)。Windowsファミリーの質問ですって? ならば、Phoneは除外されますよね。それは冗談として、Windows Phone 8に関しては何も答えられません。まだ発表されていないプロダクトですから。

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