Windows 8は創造性を犠牲にしないか?――開発責任者インタビューを終えて本田雅一のクロスオーバーデジタル(1/3 ページ)

» 2012年05月08日 00時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

PCの様式を覆すWindows 8に注目が集まる

Windows Developer Daysの基調講演に登壇したスティーブン・シノフスキー氏(Windowsの開発責任者)

 2012年4月24日から25日、都内でWindows開発者カンファレンス「Windows Developer Days」が開催され、当初の予定数を超えて会場からあふれるほどの開発者が集まった。

 デスクトップからMetroへ。ユーザーインタフェースの大幅な変更や、スマートフォン・タブレットエリアにおける市場規模の急拡大など、Windows 8への注目度は高い。従来からのWindows開発者に加え、iOSやAndroid向けのアプリケーション、コンテンツ開発者の顔も多く見られた。

 PCのOSシェアでは、まだ大多数をWindowsが占めているとはいえ、コンシューマー市場ではアップルが存在感を増し、スマートフォンでは出遅れた。タブレットに関しては、ほぼそのまま“iPad市場”と言ってもいい。アップルのiOSが、企業向けに適した機能をそろえていないとはいえ、エンドユーザーの立場から“コンピューティング”を考えたとき、マイクロソフトのマインドシェアは確実に下がっているようにも感じられる。

 実際、Windows Developer Daysでのスティーブン・シノフスキー氏(Windowsの開発責任者)へのインタビューを掲載した後には、多くの否定的な意見が筆者の手元に電子メールやSNSを通じて寄せられた(興味深いことにTwitter経由では否定的な意見が多いが、Facebook経由では肯定的な意見が多いといった、コミュニティによる差違が明確にあった)。

 スマートフォンを中心としたSNSの文化で、マイクロソフトに否定的な意見が集まるのは理解できる。Windows Phoneやその前身であるWindows Mobileの評価がいまひとつだったことも、「Windows 8がタブレット端末の領域をカバーする」と宣言していることに対して不信感をもたらす要因になっているかもしれない。

 もっとも、批判の中には具体的なものもある。いわゆる一般的な概念における“PC”の様式を、Windows 8が覆そうとしていることに対する抵抗感、あるいは既存ユーザーに対して不便を強いるのではないか、との危惧(きぐ)の声もある。

“タッチユーザーインタフェース”を刷新の時期と見なしたシノフスキー氏

Windows 8のエクスプローラにも、リボンユーザーインタフェースは採用される

 シノフスキー氏と言えば、Officeの開発を統括しているときに“リボン”ユーザーインタフェースを導入して見た目を一新。互換ユーザーインタフェースを搭載してほしいという要望を一蹴(いっしゅう)したという過去がある。リボンに関しては否定的な意見も根強く、メニュー構成やショートカットなどで既存ユーザーインタフェースとの互換を取っているとはいえ、見た目の大きな変化に激しい嫌悪を顕(あら)わにするユーザーも少なくない。

 マイクロソフト自身の調査によると、初めてOfficeを学習する集団に対して調査を行うと、リボンユーザーインタフェースのほうが、適切な機能を発見し、目的を達成するまでの時間が早いとのことだ。初心者に対してはドラスティックにハードルを下げるために変更をかけ、上級者はキーボードやメニュー構成ですくい上げる。

 「ツールバー中心で使っていたユーザーは、リボンに変わっても大きく作業効率は変わらない、という考えでリボンへと一気に変更する決定を下した」と、当時のリボンへの変更を取材したメモには残っている。結果として、リボンの導入と旧ユーザーインタフェースの互換機能を持たせなかった施策が成功したか否か、その評価は賛否が分かれている。

 いずれにしろ、シノフスキー氏はWindows 7のように、堅実に過去の製品を改良する仕事もするが、“やるときはやる”人物ということだ。つまり、何かの条件がそろったならば、誰が何と言おうと、違和感を覚えると言われようと、新たな条件の下にWindowsの機能を刷新する(Officeにおけるリボンの採用では、機能の増加に対して、初心者が機能の発見と使いこなしを楽にするための刷新が求められていた)。

タブレット時代に求められるユーザーインタフェースを追求したWindows 8のMetro(画面はConsumer Preview)

 マルチタッチモジュールを用いた新しいユーザーインタフェースが求められるタブレット時代の始まりは、まさに“刷新すべきタイミング”と判断した、ということだ。

 シノフスキー氏の「2年後、画面がタッチ操作できないPCが店頭にあると、壊れているのではないか、と訝(いぶか)しむようになるだろう」という言葉に反発する意見もあったが、“今まで”と“これから”、マルチタッチによるユーザーインタフェースが、コンピューティングトレンドの転換点になるならば、その反動を乗り越えてでも“変わらなければならない”というのが、シノフスキー氏の考えなのだと会話の中で感じた。

 とはいえ、インタビューが進むに連れて、従来のデスクトップ型アプリケーションをレガシー(過去のモノ)として扱い、これからのアプリケーションは総じてMetro化されていくというシノフスキー氏の考えが伝わってくるに連れて、筆者自身も大きな疑問が頭の中に渦巻いた。疑問の多くは読者からの反応と大きく変わるものではない。

  • デスクトップとMetroが切り替わりながら動作するユーザーインタフェースは煩雑すぎないか?
  • 複数のアプリケーションを複雑に連携させて成果物を得たい場合、デスクトップアプリケーションのほうがずっと使いやすいのではないか?
  • “利用シナリオありき”で、シナリオに従ってユーザーインタフェースや機能をデザインするタブレットやスマートフォンのアプリケーションは、自由な発想で文書や作品を作るタイプのアプリケーションに向かないのではないか?

 もちろん、シノフスキー氏はキーボード操作の互換性について保証しているし、Metroにおけるキーボード操作に工夫を凝らしていること(例えば、文字を入力し始めると、機能や登録アプリケーションの検索が自動で始まる)は理解しているが、マウスを中心に操作している人にとっては、マウスの移動距離が長く、操作の効率は落ちるだろう。

 ほかにもいろいろとあるが、PCを長らく道具として使ってきた1人として、デスクトップからMetroへと、性急に切り替えようという流れに、話を聞きながら違和感を覚えた。

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