キューブ型ながらタワー型のハイエンドPCに相当するパフォーマンスを発揮するSZ77R5ベースの自作PCは、小さくて高性能というのも自作PCだから可能になる面白さだが、ここに改良を加えて、さらなる性能向上を目指せるのも自作PCの本領といえる。簡単なところでは、システムメモリの増設からグラフィックスカードやデータストレージデバイスといったPCパーツ単位でより高性能のモデルに換装して性能向上を図る。2台のSSDを組み込んでRAID 0を組んだり、あるいはmSATAを活用してIntel Smart Response Technologyを活用したり、といった機能面をフルに活用するアップグレードも有効だ。
コンパクトなキューブ型ボディに、高クロックで動作するハイエンドパーツをぎっしり詰め込んだSZ77R5では、冷却機構の見直しも効果的だ。タワー型のケースを利用するPCなら、ケースファンの交換、または、増設で冷却効果が改善するが、コンパクトなキューブ型ゆえに内部の「空気の流れ」(自作PCユーザーは“エアフロー”と呼ぶことも多い)に制約のあるSZ77R5では、水冷化でも冷却効率を大きく改善すると思われる。
ただ、SZ77R5の水冷化で問題となるのが標準で搭載するケースファンのサイズだ。標準搭載の9センチ径ファンは、一般的なケースファンの12センチ径と比べると小さい。そのため、ここに装着できる水冷ユニットのラジエータもサイズが限られる。現在、サイズから販売されていた「APSALUS2-90」が9センチ径ケースファンの取りつけスペースにラジエータを設置できる数少ない水冷ユニットだ。ただ、“販売されていた”と書いた通り、この製品は販売終了となっている(それゆえ、流通在庫か中古市場を捜し求めるしかない)。
まず、APSALUS2-90を装着するために、SZ77R5からマザーボードを取り外す必要がある。マザーボードは6個のネジで固定しているが、ネジ穴が基板の隅にあるため手が届きにくい。この作業では柄の長いプラスドライバーがあると便利だ。マザーボードを取り外し、CPUソケットの裏から水冷用の固定金具を取り付けたら、マザーボードをSZ77R5の内部に戻して、再びネジで固定する。ラジエータはI.C.Eクーラーの固定部分に装着して問題ないサイズだ。グラフィックスカードとの干渉もなかった。ただし、冷却水用チューブはドライブベイと干渉を避ける工夫が必要だ。今回は、CPUヘッド側のホースを左右に大きく広げることで解決した。
ラジエータの冷却ファンには、同じサイズの「GELID Silent PWM」を2基組み合わせてみた。ラジエータは、両面にファンを固定するネジ穴がある。2基のファンでラジエータをサンドイッチすることにより、流速を一定に保つ効果を期待した。厚さ25ミリのファンが1基増えるので、内部の空き空間、特に、5インチドライブベイに搭載するデバイスと接触せんばかりに接近するが、光学ドライブを外付けにすれば装着可能だ。もしくは、ケース背面にあるCOMポート用の穴を利用して、ファン1基を外付けにしてもいいだろう。
水冷化によって、SZ77R5の冷却性能は改善できただろうか。CPUパッケージ温度では、およそ10度の温度低下が確認できた。CINEBENCH R11.5のマルチCPU実行中の最大温度で見てみると、I.C.Eクーラーでは72度だったのが、APSALUS2-90とデュアルファン化後の温度は62度となっている。PCケース内の温度でも効果は確認できる。CPUIDのHWMonitorでは、マザーボード上の各種センサが測定した温度も確認できるが、TMPIN0で1度、TMPIN2では8度の低下が確認できた。TMPIN2はおそらくチップセットの温度とみられる。CPUほどではないにせよチップセットもかなり高温になるチップだが、この温度が8度も低下するとなると、システムに与える影響も大きい。このおかげで、PCケース内の温度もある程度低下していると考えられる。ほかにも、3DMark Vantage実行中における測定でも、CPUパッケージ温度やTMPIN0、TMPIN2の温度が低下している。
なお、Core i7-3770KのTurbo Boostは、システムの温度とTDPの余裕を考慮してCPUの動作クロックを引き上げる機能なので、ケース内温度が抑制できると、CPUの動作クロックを引き上げた状態が多くなることになる。実際、水冷化後のPCMark 7のスコアはP5299と、空冷化の5050を上回った。一方、GeForce GTX 680もGPU Boostと呼ぶオーバークロック機能を備えており、こちらもシステム温度によってGPUの動作クロックを引き上げるが、3DMark 11のスコアを見る限り、こちらはほとんど変化がなかった。
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