Brand New PC Style:タブレットPCは電子カルテをどう変える?〜国立循環器病センター 中沢一雄氏に聞く〜

タブレットPCは、専門的な分野に対しても多大なインパクトを与えている。その中で近い将来にその姿を現しそうなのが、医療分野における“電子カルテ”だ。では、いったい電子カルテとはどのようなものなのか? タブレットPCは医療分野にどのような役割を果たすのか? 電子カルテシステムの開発にたずさわっている国立循環器病センター 研究所研究機器管理室 室長の中沢一雄氏に話を聞いた。

国立循環器病センター 研究所研究機器管理室・室長(運営部調査専門官主任) 博士(工学) 中沢一雄氏

入力スタイルこそが電子カルテ普及の鍵

 タブレットPCのユーザー事例特集であるBrand New PC Styleの、 最初のスペシャルインタビュー にご登場いただいたのが、PCのユーザー・インタフェースの研究を手がけている東京大学大学院 情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻 講師の五十嵐健夫氏だった。五十嵐氏の話には、ご本人が開発したペン・コンピューティングにかかわる技術の数々が登場したが、その中で興味深い話として出てきたのが電子カルテシステムだ。

 電子カルテとは、つまるところ、患者の診療記録であるカルテそのものを電子化するものだ。電子カルテシステムの開発は、診療支援や患者サービス・医療評価など、医療にかかわる諸問題解決の切り札と見なされている。しかしながら、カルテの内容はきわめて専門性が高いだけでなく、バリエーションが大きい。これを正しい形でシステム化するには、さまざまな困難が存在する。たとえば、患者の診療記録としての正確性と医師や看護婦など医療従事者の操作性という問題がある。

 従来の電子カルテでは、ややもすれば記載がおろそかになる紙カルテの反省から、より正確な患者の診療記録データベースを作成するということで、キーボードやマウス主体のビシネスソフトのインタフェースが用いられてきた。ビシネスソフトのインタフェースでは入力に集中することが前提であり、患者を診察しながら入力することは困難である。結果として、診察時間が伸びたり、逆にコンピュータに向かう時間が増えて患者を実際に診る時間が減るといった批判がでている。さらに、インタフェースが悪いことで大事な診療情報の一部が抜けてしまうのではないかという危惧がある。

 そこで有効な手段と考えられるのが、ペン・コンピューティングというわけだ。このペン・コンピューティングによる電子カルテシステムの開発を、五十嵐氏とともに手がけているのが 国立循環器病センター の中沢一雄氏だ。中沢氏は、大阪大学基礎工学部を卒業後、いったん就職したものの大学に戻り、大学院生を経て滋賀医科大学の助手、国立循環器病センターの研究員と、ちょっと変わった経歴を持つ。滋賀医科大学では医療情報システムの開発に従事した。今の言葉でいうと病院のOA化、IT化である。滋賀医科大学のシステムは“マイクロ・メインフレーム・リンク”と呼ばれ、それまでメインフレームが主体のシステム化において、パソコンとメインフレームの連携を本格的に可能にしたものであった。

 しかし、滋賀医科大学で4年間の医療情報システム開発の後、新たな研究の場を求めて、国立循環器病センターに研究員として異動、現職に至っている。

チバ  中沢先生はどのような経緯で医療情報システムの開発に関わるようになったのでしょうか?

中沢  医療情報システムの開発を行ったのは、決して自ら望んでということではなくて、さまざまな偶然や縁が重なったものです。国立循環器病センターでの場合も、当初は研究員として雇ってもらったはずだったのですが、結果的には医療情報システムを手がけることなってしまいました。でも正直な話、いくらシステムを作っても、学術論文として認められるようなことになりません(笑)。それでも医療情報システムをやったというのは、やっぱりやり残したという気持ちが強かったからだと思います。国立循環器病センターでは滋賀医科大学でできなかったサーバを入れた、さらにもうワンランク上のシステムを作り上げたいという意地がありました。結果的に、本業の研究の方は4、5年遅れてしまいました。

チバ  研究の方はどうなったのですか?

中沢  医療情報システムにずいぶん手間取りましたが、大学院生の時からのテーマである不整脈の数値解析の研究を行っています。国立循環器病センターにスーパーコンピュータの導入されたことを契機に、“バーチャルハート”というプロジェクトを行っています。スーパーコンピュータの中に仮想的な心臓を作って、目に見えない不整脈の電気的現象を3次元のCGを使って表現したものです。お陰さまで、CGの学会やらマスコミにけっこう取り上げていただきました。そんなことで、研究の方は一定の成果を上げることができたと思います。

医療の本質であるカルテの電子化、納得いくものが無いなら作るしかない

チバ  バーチャルハートを研究している間は医療情報システムから離れていたのですか?

中沢  いいえ、完全に離れていたというわけではありません。引き続き、医療情報システムには興味がありました。

チバ  バーチャルハートと平行して電子カルテも構想していたとか?

中沢  いや、それが実は僕は電子カルテ反対派だったんです。医療の現場で医師がビジネスソフトみたいなものを使いながら行う診療では支障があるし、そのために患者さんを診る時間が減るようでは、患者さんとの信頼関係に問題が生じると思います。

 患者さんひとりにあまり時間がかけられないという医療の現実にあって、診療はテキパキと行わなければなりません。患者さんの方をを見ずに入力に集中してしまうようなインタフェースではだめだ、と思っていました。

[チバヒデトシ, ITmedia ]

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