> ニュース 2003年6月2日 05:48 PM 更新

「ファンでおなか一杯」なバイオノートGRの中身


 バイオノートGRは、ソニーのノートPCラインアップで最上位に位置付けられるシリーズ。そのコンセプトは「最新最高のスペック」。

 バイオノートZシリーズとの違いが分かり難い、という声もあるが、CentrinoロゴをつけたZシリーズは「携帯可能なメインマシン」がコンセプト。求められるのは長時間のバッテリー駆動とメインマシンとして耐えられる高性能だ。

 このZとGRの違いは、搭載しているCPUでより鮮明に区別できる。2003年夏モデルのGRシリーズは、最上位のPCG-GRT99/Pで、Pentium 4/2.80GHz。ミドルレンジのPCG-GRT77/BでもPentium 4/2.66GHzと、FSB 533MHzに対応したデスクトップ用CPUを搭載している。

 Pentium-Mを搭載したZシリーズは、携帯性を考慮した高性能マシンを求めるユーザーに。デスクトップのPentium 4を搭載したGRシリーズは、とにかく最高のスペックを求めるユーザーに。これが、GRとZの切り分けになるわけだ。

 従来モデルではモバイルPentium 4を搭載していたGRがデスクトップ用のCPUを搭載するわけだから、当然発熱量が多くなる。熱の問題はCPUだけに留まらない。FSB 533MHzをサポートするため、チップセットにSiS 648を搭載。周辺チップも含めてデスクトップ並みの冷却機構を実装する必要に迫られた。

 きょう体内部に余裕があるのだから、冷却性能を上げるのはそれほど難しい問題でないだろう、と思われがちのGRシリーズ。しかし、きょう体内部の余裕はほとんどないのが実情だった。


バイオノートGRの内部レイアウト(冷却機構は外している)。手前はドライブで埋まり、奥は基板とファンで埋まる。意外なことにきょう体厚の制約が非常に厳しく、増えたファンの配置に一番苦労したらしい

 据え置き利用がメインのGRシリーズだが、それでも室内における使い勝手を考えると、無制限にきょう体を大きくするわけにはいかない。そのため、「新しい部品を載せるスペースはほとんどない状態」(ITカンパニー2部2課統括係長 本條陽子氏 バイオノートGRプロジェクトリーダー)だった。

 ところが、増加した発熱量のために冷却機構を強化しなければならない。とくに問題になったのが、メモリを冷却するために専用のファンを必要としたことだ。「第3のファンをどうやって押し込むかが、内部設計で最も苦労した」(本條氏)。ちなみに、メモリの熱と比べると「HDDはそれほど問題にならないのです」(本條氏)



冷却機構を実装した状態(上)と冷却機構を外した状態。実装チップがその部分で冷却されているかが分かるだろう。最も熱が出るCPUは銅製のヒートシンクで熱を吸収。その場で背面に排気するファンと、ヒートパイプで誘導されてから右側のファンで排気する「2重連結ファン」冷却を採用している。中央のファンは左側に配置されているノースブリッジと、ビデオチップ(アドオンカード形式)の熱も背面に排気し、右のファンに誘導する。右側手前のファンはメモリモジュール専用



銅製ヒートシンク(上)と2重連結ファン(下)。GRは搭載しているCPUの種類を認識、そのCPUに最も適した回転数に制御する機能を持っている。それ以外にも、実装チップやパーツの温度を測定し、温度の発生状況に応じて3つのファンの回転数を各個独立で制御できる

 最高のパフォーマンスを発揮するために、デスクトップのCPUとチップセットを搭載したGRシリーズ。それは最近よく聞く「デスクノート」PCのコンセプトに通じるのではないだろうか。しかし、デスクトップの代わりに高性能のノートPCが欲しいユーザーなら、もっと価格の安いデスクノートで十分だ。

 当然、GRは「低価格高性能だけのデスクノートとはまったく違うもの」(本條氏)でなくてはならない。それが「高品質のテレビや映像を楽しめる」これまでのGRシリーズが追い求めてきたコンセプトだ。

 夏モデルのGRはこのコンセプトのために、新たに「クリアブラック液晶」と「Giga Pocket Engine M」を搭載した。

 クリアブラック液晶については、VAIOのWebページで詳しく紹介されているが、要は「輝度を従来より明るく、コントラストも高くする」ことで、はっきりとした画像を表示する。具体的には、輝度を明るくするためにバックライトを従来の2倍の2灯モジュールを搭載、コントラストを高めるために「正反射防止フィルター」を廃止した。

 同じ2灯式として、パネルの上下配置する方法も考えられる。液晶パネルの厚さを考えると、1灯モジュールを使える上下配置が有利だが「そうなると、インバータモジュールを蛍光灯から同じ距離になる液晶パネル中央背面に配置しなければならない。これではかえって厚くなってしまう」(ITカンパニー3部1課 藤田清人氏 クリアブラック液晶開発担当者)という理由で、液晶パネル下部に部品を集中できる2灯モジュール方式を採用している。


実装されている2灯式モジュール。1本1本はとても細く、「注意しないとポキポキ折れてしまう」(藤田氏)ほどだが、それでも液晶パネルの厚さに及ぼす影響は無視できない

 ただし、こちらもインバータ回路から発生する熱の問題や、高周波電磁波による干渉問題が発生する。「熱は、回路の周辺に配置したアルミパネルで拡散させ、高周波干渉問題は、インバータ回路のレイアウトをより効率化することで解決した」(藤田氏)


液晶パネルフレーム。下にあるアルミパネルにインバータ回路や2灯モジュールが配置される。発生する熱はパネル全体に拡散され、外気で冷却される

 クリアブラック液晶ではコントラストを高めるために、正反射フィルターを廃止している。このフィルターには反射光を散乱させて見えにくくするために細かい凹凸が施されているが、これが液晶自身の発光も散乱させてしまうからだ。

 ところが、このフィルターを廃止すると表面はテカテカになる。これが液晶ディスプレイでよく見るようになった「クリア液晶」だ。表示画像がくっきりときれいに見えるので採用するメーカーが最近増えてきているが、ユーザーはこの方式にたいして賛否両論。典型的否定意見は「背景が映りこんで、逆に見えにくい」。これまでは同意見だったVAIO開発陣が、クリア液晶を採用するようになった理由が新たに開発した「多層式ARコート」だ。

 他社製のクリア液晶でも反射を軽減するARコートを塗布している。これは液晶パネルに半透過膜を塗布し、パネルの反射光と膜の反射光の位相差でトータルの反射光を打ち消すもの。

 従来は半透過膜が単層であったが、これでは特定波長の光にしか作用しない。この透過膜を厚さを変えて、複層コートすることでより幅の広い波長域をカバーするのが「多層式ARコート」の仕組みだ。

 「高品質のテレビや映像を楽しむ」をさらに推し進めているのが、本体に内蔵されたテレビチューナーユニット付きMPEG-2エンコードカード「Giga Pocket Engine M」だ。

 従来、この機能はポートリプリケータに内蔵されてきたが、これはテレビチューナユニットが大きかったためだ。この部分を「コイルを使っていたため大きかったが、代わりにシリコンチューナーを使うことで小型化を実現した」(ITカンパニー3部1課シニア・エンジニアリング・マネージャー 亀山直樹氏 バイオノートビデオ入力系開発担当)のが、PCカード並みのサイズに小型化できた最大の理由だ。



PCカードサイズを実現したテレビチューナー付きハードウェアMPEG-2エンコードカード「Giga Pocket Engine M」。3次元Y/C分離など、外付けユニット並みの機能をサポートしている

 しかし、シリコンチューナーはこれまでも携帯テレビで使われてきた部品。なぜこれまでGiga Pocket Engineのユニットとして採用されなかったのか。「これまでの携帯テレビを見ても分かるように、シリコンチューナーは受信品質が悪く、VAIOブランドとしては使うわけにいかなかった。これを改善してようやく満足できる受信品質を実現できたため、今回Giga Pocket Engineに採用できた」(亀山氏)。

 冒頭で「最新最高のスペック」と述べたGRシリーズのコンセプトだが、それは「高品質映像を十分楽しめるパフォーマンスを実現するため」(亀山氏)に必要だったからだ。夏モデルで新たに採用されたクリアブラック液晶も、Giga Pocket Engine Mも、モバイルでないPentium 4もすべてその目的を満たすためのもの。

 「ならば、次のGRはハイパースレッディングですね」という記者の問いかけに、「ふっふっふ」と言葉を返さず笑顔を返してきた開発陣であった。

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[長浜和也, ITmedia ]

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