> レビュー 2003年6月17日 03:33 PM 更新

エプソンPM-980C――数少ない弱点をカバーした最高画質インクジェットプリンタ

PM-980CはPM-970Cの改良モデルだ。970C自体優れたモデルだったが、980Cではわずかにあった2つの弱点を克服、さらに熟成の進んだ製品に仕上がっている。

 近年のインクジェットプリンタは、画質、速度だけでなく、さまざまな付加機能が加わり、評価の基準が多様化してきている。また画質の善し悪しに関しても、画一的な視点で評価するのは難しい。

 しかし、こと絶対的な写真画質、中でもインクジェットプリンタが不得手とする階調の滑らかさといった部分に関して言えば、エプソンのPM-970Cの右に出るものはなかった。トータルの絵作りといった個人の趣味嗜好によって左右される部分はともかくとして、写真と同レベルの滑らか階調表現や低い粒状性を求めるこだわりのユーザーにとっては、これが最上位機種だ。

 1.8ピコリットル2880dpiの最高画質モードでは、インク滴がほとんど見えず、ハイライトの粒状性、階調性が良好なのはもちろん、ダークイエローを加えた7色インクによりシャドウ部、特に肌の陰の描写が秀逸だ。ここ数年の懸案だった速度に関しても、最高画質モード以外では非常に速くなった。

 また写真画質を追求した製品にも関わらず、普通紙への印刷性能も決して悪い方ではない。普通紙時のカラー印刷は、多少コントラストが低めの印象があるが、黒インクに関してはかなり濃度が高い。顔料系黒インクを用いた機種には敵わないが、写真画質にフォーカスしたPIXUS 950iなどと比べると黒濃度は段違いだ(写真印刷では黒濃度の低い方が有利なため)。

 (残念ながら評価される機会は少ないが)普通紙へのWebプリントでは普通紙を得意とした4色機を超える実力も持つ。インクチェンジシステムにより、4色インク機に切り替えれば、ビジネス用としても十分にお使える超高速印刷も行える万能性もある。

 最高の写真画質を目指しつつ、画質面、機能面、性能面など、様々な面でバランスがきちんと取られているのが、PM-970Cの最も大きな長所だったと言える。

 PM-970Cの話が続いたが、今回紹介する「PM-980C」は、そのPM-970Cの改良版である。機体のデザインはほぼ同じで、操作パネル部分が黒となり、精悍(せいかん)な顔つきになったこと以外、外観上の違いも見つけることはできない。相違点はPM-970Cの弱点二つを克服しているところだ。


操作パネル部分が黒になってPM-970Cより若干精悍な印象のPM-980C。だが外観に基本的な違いはない

 まず最高画質モードにおいて四辺縁なし印刷を実現したこと。それにバタン!と大きな音がしていた給紙音を軽減する「静音給紙モード」を備えたことだ。

最も利用頻度が高いL版カット紙を最高画質で

 インクジェットプリンタ用写真用紙の売り上げで、最も多いのはL版カット紙。第2位のA4カット紙を大きく引き離して、圧倒的にL版が売れているそうだ。理由は印画紙のサイズでは最もポピュラーで、アルバムやフォトフレームなどとの互換性が高いこと。それに、ユーザーが扱い慣れているという要素もありそうだ。

 本機にはロール紙印刷という、エプソンならではのユニークな機能もあるが、数枚を印刷するために、いちいちロール紙をセットするというのも結構面倒なものだ。いきおい、カット紙の利用頻度が多くなる。もちろん四辺縁なしで印刷するのが基本だ。ところがPM-970Cは、四辺縁なし時に最高画質モードにすることができなかった。

 実際には2880dpiの最高画質モードと2880×1440dpiの(上から2番目の)モードで、圧倒的な差があるわけではない。2880×1440dpiモードでも、他社製品に十分対抗できるだけの素養はある。

 しかし、「最高画質モードでは縁なしにならない」という情報ばかりが先行してしまい、実際に購入する際になると「最高画質で縁なしにならないからダメ」と考える人が多いのだとか。もちろん2880dpiの方がきれいなことは確かである。しかしもし「最高画質で縁なしにならないからPM-970Cを敬遠した」のであれば、再検討すべきだろう。

 静音給紙モードも、同様にPM-970Cの不満点として挙がっていた点を改善したものだ。本機は印刷時の音はかなり静かなのだが、用紙トレイから紙を引き出す時に大きな音がしてしまう。給紙時に音が大きくなるのは、なにも本機に限った話ではない。しかしその音量が問題だったのだ。

 そこでPM-980Cには、給紙動作を一部ゆっくりと行うことでバタン!という音をさせない静音給紙モードが設けられた。静音給紙モードを利用するには、ドライバでオプションを選ぶ必要がある。速度面では多少不利になるが、ベンチマークテストやよほど大量の普通紙印刷を行うのでなければ気にならないわずかなものだ。

 CD-Rへのダイレクトプリント機能に、新しく「高精細モード」も加わった。ライバルのキヤノンは、推奨するプリンタブルディスクと一般的なディスクに分けることで、推奨メディアにおける画質向上を実現していたが、同様に2モードを設けることで画質向上を果たしている。薄く精細度に欠ける印象だったPM-970Cとは、印象を異にする仕上がりだ。

高まっているドライバの熟成度

 昨年末のPM-970Cは、確かに業界最高のスペックを誇っていたものの、若干ながら階調の滑らかさで一昨年の最高モデルPM-950Cに劣るのでは?と思われた部分もあった。例えばダークイエローのおかげで得意な、肌の陰影などの階調においては、PM-970Cの方に粒状性が強く見られる場面が存在した。

 公式にエプソンがコメントを出しているわけではない。だが、PM-970Cへのモデルチェンジでランニングコスト低減が図られており、薄いインクの使い方に差がある(濃いインクをなるべく使わないことでインク使用量を減らす)のでは?と推測していたのだが、本機ではそうしたPM-970Cの未成熟だった部分が、かなり緩和されているようだ。


PM980Cのカートリッジ部分

 それはたとえば、疑似輪郭が出やすい絵柄においても見られる。これまでなら、ハッキリとした階調の飛びが感じられる場面でも間が滑らかにつながる。このほか、ダークイエローが活躍する領域で、黄色が被る色域が出てしまうPM-950C以来の癖も緩和された。

 いずれも、根本的な違いではなく、ドライバの熟成による違いであるため、PM-970Cを最新ドライバに更新し、評価し直せば同様の結果になるのかもしれない。しかし、新テクノロジ登場の狭間でPM-970Cを見送っていた人には朗報だ。PM-980CはPM-970Cにあった制限が解除された上で、ドライバの熟成が進み弱点の少ない製品へと育っている。

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[本田雅一, ITmedia ]

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