PUPdate流 HDD大研究

MP3野郎に捧ぐ! 大容量デジタルミュージックライフのススメ2〜実践編〜(1/2)

良い音で音楽を楽しもうとすると、どうしても大容量HDDが欲しくなる。今回はその理由を具体的に見ていくとともに、デジタルミュージックのもう一クラス上の楽しみ方についても提案してみたい。

 前回はMP3という圧縮オーディオのメリット・デメリットについて触れ、より良い音を求めるなら、ファイルサイズは大きくなるが、WAVなどの非圧縮形式でデータを保存しておくほうが望ましいということを紹介した。今回はそれをもう少し目に見える形で説明した上で、さらなる高音質を求めるとどうなるのかを追求してみよう。

圧縮オーディオで失われるものは何か

 まず、音楽CDをリッピング(PC上で扱えるファイルにすること)し、「44.1kHz、16ビット、ステレオ」のWAVファイルとして保存。これを再生し、ソフトを使って分析してみた。ソースに使ったのは、人間の声に加え、さまざまな楽器によって構成されているジャズ演奏の一部だ。横軸は時間、縦軸はデシベル、上が左チャンネル、下が右チャンネルを分析したものだ。

 一般に、サンプリング周波数の半分程度の帯域まで表現できる。44.1kHzなら20kHz程度だ。人間の耳は、この20kHzぐらいまでの純音を聞き分けられるとされ、音楽CDの周波数は実はここから導き出されている。WAVファイルにしても、この周波数特性がほぼ維持されていることが分かる。


元のWAVファイル。22.05kHzあたりまできちんと音が伸びている。人間が聞き取れる“限界”の高域まで、きちんと再現されている

 これをMP3・128Kbpsで圧縮し、再度WAVにデコードして分析したのが下図だ。MP3は不可逆圧縮なので、WAVに戻しても失われた音がよみがえることはない。これを見ると、10-12kHzあたりは、元ファイルよりむしろ強調されているが、16kHzを超えるあたりで高周波数帯がすっかりカットされていることがわかる。また、中低域を見ると、元のWAVファイルと比べてメリハリがなくなっている。


CD並みの音質とされるMP3・128Kbpsの場合。高周波数帯が丸ごとカットされてしまっている

 次にさらに圧縮率を上げて96Kbpsにした。面白いことに12kHz以上の高域がカットされている。さらによく分析すると、6〜12kHzの中域がソースファイルと比べると、完全に音がゆがんでしまっていることがわかる。これは再生すればはっきり分かる。


圧縮率を96Kbpsまで上げてみた。このレベルだと、はっきりと音がゆがんでいることが分かる

 MP3という圧縮アルゴリズムはかなりよく出来ており、高域の倍音成分をカットしたり、前回触れたマスキング効果を利用したり、と“あの手この手”でデータを小さくしている。この圧縮の仕方は圧縮に使うMP3のエンコードソフトや、圧縮レートによっても若干異なる。

 だが、不可逆的に圧縮する以上、CD並みの音質ということはどうやってもありえない。これは今回の簡単なテストでも、はっきり“目に見えた”だろう。

 CDとMP3の音の落差は、音の厚みや、アナログ楽器の倍音成分の伸びなどがポイントになる音楽だと、激しくなる。オーケストラの演奏なら厚みが失われて、平板に聞こえるし、バイオリンソナタなんかだと、高域の伸びがなくなり、なんだか潤いのない情けない演奏になる。一方、デジタルの打ち込みと中域のボーカルで構成される音楽(一般的なJ-POPなんかがそうだ)であれば、MP3にしても、CD並みに聞こえないことはない。

 つまり、音楽ソースによって、MP3に向き不向きがあるわけだ。だが、いずれにせよ、MP3は「便利だが、良い音とは到底言えない」。圧縮していない音楽はファイルサイズが大きくなるが、それだけの違いは間違いなくあるのだ。パソコンを使ってより積極的に音楽を楽しもうとするなら、この大きなファイルをたっぷり格納できる大容量HDDが必要になる。そう主張する理由がお分かりいただけただろうか?


PCで良い音を求めると、大容量HDDが欲しくなるはずだ

CDだって良い音じゃない

 さて、ここまで読んで、オーディオファンの人の中には、そもそもCDの音を良いということ自体、おかしな話じゃないか、と思われている方もいるだろう。

 実際、その通りだ。音楽CD(CD-DA)規格は今から20年以上も前にできた古い規格で、現在のデジタルオーディオ技術水準からいうと、決してハイレベルのものではない。先に、人間は20kHz程度の純音までを聞き分けられる、音楽CDはそこまで再現できると述べた。

 間違いはないのだが、楽器の音など自然音は複数の周波数で構成されており、ある周波数には共鳴する周波数帯がある。この共鳴によって作られる音を倍音成分というのだが、CDの規格である「44.1kHz、16ビット」では、ある帯域以上の倍音はカットされてしまう。また、CDのダイナミックレンジ(一番大きな音と小さな音の差)は、96デシベルとかなり狭い。だから演奏者の息づかいやごくわずかな物音なども十分に再現できない。

 20年前の音楽CD規格を決めたときは、ある程度割り切ってこうした音をカットしたのだが、その後、こうした音成分が音の潤いや臨場感などに大きな影響を持つことが分かってきた。現時点で言えば、CD規格自体が良い音を求める上での制限要因になっているのだ。

[ITmedia ]

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