連載 2002年7月11日 09:30 PM 更新

Streaming Now!〜流れをつかめ!
ストリーミングの生きる道

著作権を侵害しまくっているけど“面白い”サイト、怪しいファイルのやりとりで広がったWinMX。が、こういうところに人が群がるのには、相応の理由がある。このあたりから、「魅力的なコンテンツ」をうまく導けないだろうか?

 普通のユーザーというのは、インターネットをどう思っているのか? 答:タダの情報の宝庫……。極端な話ではあるが、そう思われていることを忘れてはいけない。そこを認めた上でビジネスを構築したり、技術を普及させようと考えなければならないと思うのだ。そして、それを理解してくれた上でのコンテンツは、一般利用者にとっても魅力あるストリーミングコンテンツであったりする……。今回は、2つの個人的な経験を通じて考えた「ストリーミングの生きる道」について述べてみたい。

私をイケナい人にした2つのエピソード

エピソード1:ワールドカップが終わった。美しいサッカーが好きな私にとって満足できたのは、トルコが3位になったことだけ。誤審も絡み、スッキリしないものがたくさん残る大会となってしまった(ちなみに私にとってのベストチームは1982年のブラジル)。

 落ち込んでいると、知り合いから「誤審批判サイト」をいくつか教えてもらった。中には著作権を侵害しまくっているサイトもある。例えば、TVからの取込みのムービーファイルをアップロードし、どこがどう間違っているのかしっかりと説明しているサイト。著作権を侵害しているということに関して、そのサイトを認める気はない。が、告白しよう。「内容はとても面白かった」。

エピソード2:某誌からDivXについての原稿依頼があった。実のところ、私、このMPEG-4ベースのコーデックについて、何故こんなに普及しているのか理解できていなかった。

 いい機会だと思い、調べてみると、かつて「あるソフトでDVDのエンクリプションを解き、解凍したものをDivXでエンコードし、WinMXで配付する」というヤバい流行が存在したことが普及に一役買ったということを、今さらながら知った。このコーデックがWindows Mediaではなく、AVIファイルの中で扱うことができたということがポイントだったようだ。

 そこで、今まで無視していたWinMXというソフトを試してみたワケだが……いやはや、スゴいことになっていた。ここでは書けないような言葉で検索しても、必ずファイルが存在する……アブナい世界に逝ってしまいそうだった。違法なファイルをダウンロードした私も、著作権侵害に一役買ってしまったということになる。が、こういうところに人が群がる理由については、十分に理解できた。

誤審批判サイトで学んだこと

 この2つの出来事を通じて、あらためて「これがインターネットか……」と素人のように思い知らされてしまったのだ。いや、正確にいえば「パソコンでのインターネット」ということになるのかもしれないが……。ちょっと整理してみよう。まずはエピソード1の誤審批判サイトで学んだことから。

  • 1.問題点

〜著作権に対しての認識が薄い
 まず、テレビ番組の流用の件だが、これが著作権侵害であることは明らかである。もちろんイケないことなのだが、ひょっとするとテレビというものに関して、人々の間に「著作権があるコンテンツだ」という意識がないのかもしれない。であれば、我々がテレビ局に対して、直接お金を払っていないことがその一因であろう。我々の多くは、テレビ番組を平気でビデオに録画し、それを友人に貸したりしている。その時点で著作権なんてことは考えなくなってしまっているのだ。

  • 2.再認識1

〜「デジタル動画」の利点とは?
 私がコンテンツとして面白いと思ったのは何故か? まず、デジタル動画そのものの持つ特性が活かされていたためである。巻き戻しの手間なしに、問題の場面をストレスなく1コマずつ繰り返し見ることができるというのはデジタルならでは、である。

 そして、動画は文章の補足として扱われている。別に動画が中心で文章を補足してもよいのだが、要するに、動画である必要性がある部分だけが動画であったというのが良かった。「レイアウト云々より、素材の料理の仕方のほうが重要なのではないか」と、今さらながら思った次第である。

  • 3.再認識2

〜発信してこそのインターネット?
 このサイトの作者も、視聴者も、元々のコンテンツの持ち主(=テレビ局)が、決定的な証拠を持ちながら、肝心な部分をさっぱり見せてくれないということに欲求不満を持っていた。それが一気に解消されたという気持ちよさがあったのだ。つまり、「テレビの素材を使いながら、テレビというマスメディアではやっていけないタブーに挑んだ」から面白かった、ということができるだろう(本当はそんなことをタブー視するマスコミがおかしいのだが)。

 これは非常に「インターネット的」な動きである。インターネットは「大声で言えないこと」を言いやすいメディアであり(本当は「大声で言えない」ということ自体が大問題だと思っているが)、また、「大声で言っても無視される一般人」にとって、拡声器の役割を果たしてくれる道具でもあるのだ。

WinMXで学んだこと

 もう1つのエピソード、WinMXの世界に関しては、大っぴらには見ることができない放送禁止系コンテンツのオンパレードであった。そんな中でも、やはり考えさせられたことがある。

  • 1.取り引きの在り方

〜物々交換もアリ
 P2Pという言葉がよく使われるが、「ファイルを得る」ということに関しては、おそらくP2Pであるということは、エンドユーザーにとってあまり関係ない。サーバを介そうが介すまいが、タダでダウンロードできるということが重要なだけだと思う。が、世の中にはタダでゲットできるというウマい話はないので、物々交換の文化ができあがっていく……。その際、クライアント・サーバ型よりもP2P型のほうが築きやすいということはいえるだろう。

 さらに、その「ギブ&テイク」の関係に関係なく、ギブすることに喜びを見い出す人がいるのだ。つまり、「俺はこんなスゴいヤツを持っていて、こんなにキレいにエンコードしたぜい!」ということを誇示できるということが重要だったりするのだ。

 で、「あの人のコンテンツは素晴らしい」と、一部のユーザーで話題になってコミュニティが生まれたりもしているのかもしれない。ここでも発信者側の自己顕示欲のための仕組みが存在している……そういった意味では単なるギブ&テイクとはひと味違うのだ。

  • 2.ユーザーの忍耐力

〜興味があれば何時間かけてもダウンロード
 ヤバいコンテンツの多くは数十Mバイトから数百Mバイトのもの……。それを何時間もかけてダウンロードしているという世界である。その忍耐力や……と思うのだが、別にその間、画面とにらめっこしているワケでもなかろう。

 他の作業をしながら、CPUの余力でダウンロードしているだけなのだ。即時性が求められるコンテンツでなければ、ユーザーはいくらでも「待てる」のだ。実はこれを可能にしたのが常時接続環境なのである。皮肉なことに、ストリーミングを飛躍的に普及させるはずの常時接続環境は、ダウンロードを普及させているのかもしれない。

  • 3.コンテンツ

〜画面サイズは重視されない?
 流通しているコンテンツは320×240ピクセルのものばかり……。その理由は、おそらく、
1.できるだけ容量を小さくしたいから
2.なんとなく「標準サイズ」として定着しているから
3.あまりデカい画面で見てはイケナいものをコソコソ見ているから
といったところだろう。

ストリーミングにどう活かすか?

 長々と述べてきたが、これらのことから、「魅力的なコンテンツ」をうまく導けないだろうか、と思った次第なのである。いや、コンテンツとは限らない。ひょっとすると、発信者にとってのメリットを考えたほうが、ストリーミングの特性を活かせるのかもしれない。

 とりあえず、私が思い付いたことを挙げると、

  • 1.パソコンを使ったインターネットの世界では「発信者」が重要だから、コンテンツそのもの以上に、この人達のための仕組みをもっと考えよう。さらに発信ツールとしての携帯電話の可能性についても考えるといいかも。

  • 2.動画ですべてを表現しようとせずに、サイト全体で表現しよう。

  • 3.著作権侵害は至るところで行われているから、取り締まりを強化する一方で、限定ユーザーにコンテンツを解放するような仕組みも作ろう。

  • 4.ユーザーは「金を払わない」と言っている割にプロバイダには料金を払っていることに着目しよう。

  • 5.これらはあくまでもパソコンを使ったインターネットストリーミングの話である。それに向いていないコンテンツを提供しようとしている人は、他のインフラ、他のデバイスに期待しよう。

ということになる。

 3については補足が必要だろう。例えば、TV局が放送のアーカイブをデータベースと連動した形でストリーミングの形態で解放してくれたら面白いと思うのだ。そうすれば、「カリスマTVウォッチャー」のような人がメタファイルを駆使して名場面を抜き出しつつ、見たテレビ番組を解説してくれるようなサイトがあったら面白い。

 受信者はユーザーはストリーミング部分をタダで見られる代わりに強制的にCMを見せられる。ウォッチャー達のアクセスランキングができたりする……と。

 とはいうものの、著作権や肖像権が絡むといろいろと面倒だ。であれば、インターネットなど使わず、データ放送でそれをやってしまえればいいような気がするのだが……。データ放送がアーカイブの宝庫なのであれば、みんな見たがると思う。

 ということで、業界側の視点でいろいろと考えているフリをしているが、私は「●●●が選んだW杯ベストプレイ集」というのを、いろんな人のバージョンで、何度も繰り返し見たいだけだったりする。こういうチョットしたものって、わざわざテレビ番組でやるより、ストリーミングに向いてると思いません?

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[姉歯康, ITmedia]

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