NVIDIAが予測する2013年のGPUNVISION 08(1/2 ページ)

» 2008年08月29日 17時30分 公開
[鈴木淳也,ITmedia]

アクセラレータからプログラマブルシェーダへ

 過去10年を振り返っただけでも、GPUの技術は大きく進化している。2Dアクセラレータから3Dアクセラレータへと進化した直後の1990年代後半をGPU技術の黎明(れいめい)期とみていいだろう。そのころと現在とでは描画能力に対する認識が大きく変化している。

 NVIDIA コンテント&テクノロジー担当上級副社長のトニー・タマシ氏は、自身の講演の中で「リアリティとは8000万ポリゴンのことだ」という、Pixar創業者の1人でCG業界のアイコン的存在であるアルビー・レイ・スミス氏が1999年に述べたコメントを引用している。現在の3Dゲームにおける標準的なポリゴン数が200万前後といわれているが、さらに緻密な描写を行っているゲームもある。そう考えれば、1999年に「リアリティ」と呼ばれていた水準に近いところまで2008年のGPUは到達しつつあるようだ。

 GPU技術動向の変遷を見ていくと、「プログラマブルシェーダ」というターニングポイントが2003年に起こっている。それ以前のGPUでは、機能を固定した演算ユニットを適時呼び出して陰影処理(シェーダ)のパイプラインを実行していたが、プログラマブルシェーダという概念を導入したことで、パイプライン処理をGPUにプログラムすることで実行する手法が定着した。当初はNVIDIAやATI TechnologiesといったGPUベンダーが独自に機能を拡張していたが、シェーダモデル(SM)という形でMicrosoftのDirectX 8から標準機能として実装された。その後、DirectX 10に至るまで、GPUプログラミングにおける標準として活用され続けている。

過去10年間で起きたGPUアーキテクチャの軌跡
2003年は、それまで主流だった固定機能のいわゆる“3Dグラフィックアクセラレータ”から、“プログラマブルシェーダ”へとGPUの機能が大きく変化したターニングポイントといえる

1998年と2003年にリリースされたゲームの画面を比較する。これだけでもGPUの技術が大きく進化したことが分かるだろう

 1998年から2003年の5年間にわたるパフォーマンスの変化を年率の成長ペースで見てみると、およそ年率2倍のペースで性能が上昇したことになる。この成長をベースに2003年のGPU性能から2008年の性能予測値を割り出し、実際の製品であるGeForce GTX 200シリーズと比べてみたところ、機能によるバラつきがあるものの、NVIDIAによればおよそ10%の誤差の範囲で収まっているという。タマシ氏が行った講演のテーマは、この予測値を使って5年後の2013年におけるGPUを予想するというものだ。

1998年に登場したGPUと2003年に登場したGPUでパフォーマンスを比較する。単純比較で10倍以上、年率約2倍ペースで性能が向上していることが示された
年率2倍というパフォーマンス上昇率を基に、2008年におけるGPU性能の予測値を出し、それを実際の製品であるGeForce GTX 200シリーズと比較する

2013年はGPGPUの機能を強化したGPUが登場する

 2008年もまた、GPUトレンドのターニングポイントとなるだろう。5年前の2003年がプログラマブルシェーダへの移行だったとすれば、今度はGPU上の汎用コアを用いたGPUプログラミング、いわゆる「GPGPU」(General Purpose GPU)の時代とみることができる。NVIDIAでは「CUDA」というC言語をベースにした開発環境をリリースしており、開発者はCUDAを用いて記述したプログラムをGPUで走らせることで、特に浮動小数点演算で驚くべき性能を発揮する並列処理でTFLOPS級の処理能力を引き出すことが可能になる。

 NVIDIAによれば、これからしばらくはCUDAのようなGPGPUプログラミングが主流となり、DirectX 11などの世代へと引き継がれることになるという。同社が2008年にリリースしたGeForce GTX 200シリーズはこうしたGPGPUに最適化されたモデルで、統合型シェーダユニット以外にも、ジオメトリシェーダなどの新機能を積極的に導入している。

GPUの技術は、プログラマブルシェーダから汎用コアを搭載したGPGPUへと移りつつある。NVIDIAでは開発環境「CUDA」による汎用コンピューティングへの利用を積極的に広めようとしている
NVIDIA CEOのジェン・スン・フアン氏がNVISION 08のキーノートスピーチで述べたように、演算処理の並列化が進むことでGPUの浮動小数点演算性能はCPUのそれを大きく上回る

 このようなトレンドの延長線上で2013年のGPUを考えると、GPGPUとしての機能をさらに強化していると予想される。汎用コアは3Dグラフィックス処理にもCPUのコプロセッサ的な演算処理にも利用でき、かつ、どちらの用途に使うかはプログラミングで自由に設定できる。ただし、スレッドやパイプラインの自動制御など、ハードウェアで処理できるものは、できる限り専用のハードウェアに任せるというスタイルは残るようだ。

 なお、NVIDIAは特定演算のためのハードウェアエンジンをGPU側に実装し続けるとも述べており、この部分が完全な汎用コア化を目指したIntelのLarrabeeとの大きな違いとなる。専用エンジンを実装しつづける理由の1つとしては、パフォーマンス上の問題が考えられる。

いまから5年後の2013年に起こりうる技術トレンドの予測。汎用コアのアーキテクチャはそのまま継承され、処理フローをハードウェアである程度自動化するなど、よりインテリジェントな機構をGPUに搭載するようになる

性能上昇カーブの予測グラフ。特に浮動小数点演算処理能力の上昇が大きい
先に予測された成長カーブの数字を基にして求められた2013年におけるGPUの能力予測

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