IT仕事塾

ファイルメーカーPro ユーザーの現場を探る
第9回 シーサイド・ホテル「アーネストハウス」が開発した宿泊管理システム(1/3)

「ファイルメーカーProユーザーの現場を探る」の第9回目は、ホテルの宿泊管理システムです。伊豆・下田のおしゃれなシーサイドホテル「アーネストハウス」にお邪魔しました。

 伊豆・下田に、おしゃれなシーサイド・ホテル「アーネストハウス」があります。日本のホテルとは思えない内装やこまやかな心遣いに感嘆しながら、オーナーの内田龍男さんにお話をうかがいました。

 まずは、このホテル「アーネストハウス」について紹介しましょう。ホテルの名前は、作家アーネスト・“パパ”・ヘミングウェイにちなんで名付けられました。水着のまま歩いていけるプライベートビーチで釣りや泳ぎ、そしてサーフィン、ボディーボード、シーカヤックなども楽しめます。海の見える部屋に長期滞在して執筆する作家、アイデアを練るミュージシャンも多いそうです。


アーネストハウスの全景


桑田圭祐氏の「波乗りジョニー」プロモーションビデオに使われた小屋


ジャズピアニスト、菅野邦彦氏が作った非常に珍しいグランドピアノ(白鍵と黒鍵が等間隔に並んでいる)がレストランに置かれている。菅野氏しか弾きこなせないのが玉に瑕だ

 大人の隠れ家としてぴったりなだけではなく、家族連れでも楽しめます。ペットと同伴できる部屋も用意されている、14年の歴史を持つ14部屋のホテル。このアーネストハウスのきめ細やかなサービスの背後では、ファイルメーカーProで作られたデータベースが大活躍しているのです。

 では、もともとミュージシャンだった内田さんがこのホテルを経営するまでの話を伺いました。これがちょっと数奇な話で、その後の流れに大きく関係してきます。ポップミュージシャンの杉真理氏とバンド活動をした後、会社務めをしていた内田さん。その頃よく行っていた伊豆のペンションの老夫婦に「このペンションを買ってくれないか」ともちかけられました。

 当時はバブル絶頂期で、銀行からの融資も万全でいきなりペンションオーナーになった内田さんですが、当初は経営を人にまかせていたこともあり、なかなかうまくいきません。そしてバブル崩壊。経営危機をエリック・クラプトンと同じモデルのGibson Explorer一号機や57年モデルのGibson Les Paul ゴールドトップなどの名機を売却して乗り切るなどしたそうです。「ギターに救われたんですよ」と内田さん。

 元のペンションの名前、経理システムをそのまま引き継いでいたのが、コピーライターの工藤龍生氏のアイデアでコンセプトをヘミングウェイから取り、名前をアーネストハウス、と決めました。そして、経理システムは前身となったペンションで使っていたPC-98用のMS-DOSベースの市販プログラムを廃棄し、Macintoshとファイルメーカーの組み合わせでシステムを自作したのです。

 現在のアーネストハウスのシステムは、このときファイルメーカーProのバージョン2で作られたものを12年間にわたって改良を加えてきたものです。そして今年9月には、このファイルメーカーProベースのシステムがパッケージとなって販売されることが決まりました。「アーネストハウスの使える宿泊管理システム」という名前で、本体価格4万8000円で販売予定です。

 内田さんによれば、最初のシステムは「ファイルメーカーを作って、すぐにできちゃいました」といいます。その後改良に改良を重ねて、ついには市販パッケージになるまで成長したわけですが、その秘訣は、「使いながら変更を加えられるから」と内田さんは考えます。

 宿泊施設の現場では、予測できないことが数多く起こります。たとえば、クーポンの割引券とクレジットカードを併用したいと希望するお客さんがいた場合、2つの売り掛け金をたてる必要があるのですが、市販システムの場合は、そこまでの対処はできません。ところが、ファイルメーカーを使っていたので、その場で対応できたと内田さんは言います。そうして組み入れてきた機能、使い勝手が12年分、このパッケージに結集しているわけです。

 ちなみに、同種の宿泊管理ソフトの価格がどのくらいするかというと、高いもので400万円から500万円。安い物でも20万円します。これらのソフトとの大きな違いは、12年間、宿泊施設の現場で改良を重ねてきたこと。使いやすさを第一に考えているので、夏だけのアルバイトの人でもすぐに覚えられることだそうです。大手ソフトウェア会社が対象としていない小さなペンションや旅館がターゲットになっているため、32部屋までの制限はついていますが、実際にはそれ以上の部屋数にも容易に対応できます。

 内田さんはこのシステムを自分のホテルだけではなく、Excelで顧客の住所管理と金額の集計を行っている近所のペンションにも無料で配り、「前に予約を受けた人を簡単に探し出せる」と感謝されているそうです。異業種ですが、シーカヤックのスクールでも同じシステムを使って、十分実用になっているそうです。宿泊施設用のシステムがスクールで使えるというのは意外ですが、予約を受けて、当日になって、お金をもらってチェックアウトするという流れは同じなので、使えるのだと内田さんは説明します。

 では、アーネストハウスの宿泊管理システムを見ていきましょう。


宿泊管理システムのメニュー画面

 宿泊管理システムのメニュー画面は、チェックインからチェックアウトまで、作業の流れが一目でわかるようになっています。まずは「予約住所録」に予約を入力し、チェックインした客は「滞在中のお客様リスト」に移されます。そしてチェックアウトすると、顧客名簿に保存されます。これが基本的な流れになります。

[松尾公也, ITmedia ]

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