デザイナーが語るバイオノート505エクストリーム(1/2) X505開発者インタビューの後編は、製品本体はもちろん、パッケージ、周辺機器、キャリングケース、壁紙に至るまで、トータルのアートディレクションを担当した森澤有人氏に登場していただき、X505のデザインコンセプトについて話していただいた。
ソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー デザインセンター 森澤有人氏
コストや製品構成など、「様々な制約を可能な限り排除した」と開発者が語るX505だが、クリアに保たれた筐体底面のアンダーシェル(ただし、開発者にはどうにもできない“Windowsライセンスシール”以外は)など、デザイン側から要求されたと思わせるハードウェアディテールもそこここに見られる。 アートディレクションを担当した森澤氏は、X505の仕様にどのように関わっていったのだろうか。 「既にハードウェア構成のパターンがいくつか検討されおり、私がチームに加わったときは、その中から製品の基本構成を選ぶという段階でした。その段階では、薄さと軽さを追求するためのレイアウトを模索していたのですが、私は精神面というか、意識を高めることから始めたんです」 「意識を高める」と聞くと、なにやら精神世界的な修行を思い浮かべてしまうが、森澤氏の場合は、自分の頭にある“アタリマエ”を取り除くための儀式、と考えるといいようだ。 「たとえばPCには様々な制約があって、常識的なパーツレイアウトやカタチがあります。それが意識の中に存在すると、デザインを捻り出す前に無意識のうちに制限をかけてしまいます。今回のプロジェクトでは、そうした既成概念を忘れる必要があったのです」と森澤氏は話す。 デザインを始めるにあたって、開発者や製品企画の側からデザイナーに対してどのようなリクエストがあったのか。「幅広いユーザーではなく、モノに対して敏感なトップエッジのユーザーに訴えること。そうしたトップエッジのユーザーに見合う高級感を狙うこと。ほかの製品を寄せ付けない雰囲気と物欲を刺激するフェロモンを醸し出すこと。ハードウェア的目標が“何よりも薄く、軽く”とハッキリしていたので、デザイナーとしてはやりやすかったですね」 「その後、イメージスケッチを描き上げて、すぐにプロジェクトのメンバーに見せました。早いうちに製品のイメージを作り上げ、お互いに共通のイメージを持ちながら製品の開発に専念したかったからです。そのおかげか、初期のイメージスケッチと出来上がった製品のデザインはほとんど同じものになりました」(森澤氏)
細かな部分はともかくとして、ヒンジ間にレイアウトした3セルバッテリーに10.4インチサイズの液晶ディスプレイ、そして同じサイズのフットプリントなど、初代505とX505には共通のイメージが存在する。
初代バイオノート505(右)とその現代版ともいうべきX505(左)のデザイン。「初代505のイメージを追及し、かつ新しく見せたのがX505のデザイン」(森澤氏) 市場に強烈なインパクトを与えた初代505が登場した当時、森澤氏はまだソニーに入社しておらず、ニューヨークでデザインを専攻する学生だったという。初代505は彼のデザインにどのような影響を及ぼしているのだろうか。 「米国で初めて505を見て、その薄さやシンプルなデザインに感動しました。X505をまったく違う形にするのか、それとも初代505の良さを生かすのかを頭の中で考えていたのですが、最終的に、円柱バッテリーを使った初代のイメージを継承するコンセプトでありながら、現代的な新しい要素を加えたデザインにしています。イメージとしては、円柱に楔(クサビ)が刺さっている感じです」 「また、製品をエリアに分けてそこに機能を振り分けるようにしています。円柱バッテリーのサイズが規格で決まっていますから(筆者注:セルの直径で18ミリ)、その断面は大きな面積になってしまいます。そこで円柱の両端に電源コネクタと電源スイッチを配置することで、電源周りを一本の柱にまとめたのです」(森澤氏) キーボードと円柱の間にあるエリアには、基板やPCカードスロットにHDDなどが並ぶ、いわばPCの頭脳が集中している。そこと人間が実際に触れるエリアとは分割され、頭脳エリアの筐体パネルには何も配置されていない。こうしたデザインには、設計陣から抵抗があったという。 「円柱の左右に電源スイッチやACアダプタのコネクタを配置することは、実はかなり難しいそうです。ヒンジがあるから開閉時のストレスで断線する可能性もある。そのため耐久性の問題をクリアする必要が出てきます。頭脳エリアにポップアップのモデムとLANコネクタを配置する案もありましたが、これもデザイナーとしては譲れない部分でしたね」(森澤氏)
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