Streaming Now!〜流れをつかめ!
第6回:「QuickTimeはストリーミングよりも偉い」という話(2/2)
私がQuickTimeという技術にのめり込むきっかけとなったのは,ソフトバンクのMacUser誌でCD-ROM制作の楽しさにはまる中で,次々とQuickTimeの奥の深さを思い知らされたことと,当時アップルのQuickTimeのチーフ・アーキテクト,現Generic MediaプレジデントのPeter Hoddieの鬼気迫るプレゼンテーションに圧倒されたことなどである。
ところが,アップルという会社は宣伝がヘタクソで,この素晴らしい技術の半分も解説してくれない。「何とかほかの人に良さを知らせたい!」ということで,ミイラとりがミイラになっていき,「QuickTime 3ガイドブック」なる本まで書いたのである。さらに,そのQuickTimeがストリーミング対応になり,「ほほう,この素晴らしい技術がネット配信でも使えるのか……。ならばストリーミングとやらにも注目しなければ」となっていき,「ストリーミングについて語るからにはほかの技術にも詳しくならなければ……」となっていったというだけの話である。
実は,この大阪の会場で出展していた人達の多くがそのパターンである。つまり,QuickTimeは,もともとネットワークビジネスをしようなんて考えていなかった人たちにまで,その可能性を考えさせるきっかけとなった,素晴らしい技術なのである。
「QuickTime=ストリーミング技術」ではない!
「そんなこと言ったって,シェアが重要でしょ? QuickTimeは他のストリーミング技術よりシェアが低いでしょ?」って?
はい,確かに。それはそれでOKなのである。単に「ビジネス」という観点でストリーミング技術を扱う場合には,テレビもどきのものを流せばいいワケで,QuickTimeが持つさまざまな可能性まで考える必要はないのだから。一方,作り手の側で,1つのデータをストリーミング用,CD-ROM用と,いろいろと使いまわししたい人,ちょっと細工をして楽しく見せたいと考える人はQuickTimeを選べばよい。
動画制作のエンジンとして映画制作でも使われているQuickTimeを,ほかのストリーミング専用技術と比較するというのは,ある意味でナンセンスな話なのである。QuickTimeのユーザーにとって,ストリーミング機能は,QuickTimeの機能の一部でしかないのだ。
「大人のおもちゃ」としてのQuickTime
どうも,このところ,「ストリーミング」という言葉に引っ張られて,「何がベストなストリーミングなのか?」「どうすればストリーミングがビジネスになるか?」などと,ちょっと真面目に考え過ぎていたが,2つのイベントのおかげで初心に戻ることができた。
これまで,私はQuickTimeという狭い世界からストリーミングという広い世界に飛び込んだような錯角に陥っていたのだが,実は広いところから狭い袋小路に迷い込んでいただけだったのだ。今後は,自分の中でQuickTimeという言葉とストリーミングという言葉を,きちんと別物として扱っていきたい。例えば,
「このサイトは,ストリーミング用のコンテンツとしては操作が複雑で情報が少なくてイマイチだが,QuickTimeコンテンツとして非常に楽しめる」
という表現を,大いに使っていきたいと考えている。ストリーミングというのは基本的に,情報伝達の手段である。QuickTimeは情報伝達のための技術にもなり得るが,単なるおもちゃにもなり得る。おもちゃはおもちゃとして楽しめばよろしい。ひょっとして,そうやって皆が自由にコンテンツを作っていけば,ストリーミングの世界そのものが楽しくなってくるかもしれないのだ。
だから,単純に「ストリーミングで金もうけしたい。それだけでいい」という人や「情報さえ流せればそれでいい」という人,「ポール・ロジャースやヴァン・モリソンよりも,皆が知っている浜崎あゆみやモーニング娘。とかを聴く」という人は,一生,QuickTimeを選択しなくてもいいと思う。私は,そんな人になるくらいなら切腹する。一生,ポール・ロジャースの歌を聴いていこうと考える今日この頃である。
P.S.
その大阪のイベントで,何故か富士通テンという会社が出展していたのだが,同社のスピーカーECLIPSEの音に感心してしまった。ワザとらしいところが1つもないのだ。パソコンで使うにはもったいないかも……。
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