マンション“構内の光化”がもたらすもの

NTTアクセスサービス研究所は，マンション構内を光化する技術を研究中だ。データ通信のみならず，各種の放送波を合わせて提供できるのがメリット。既に構内装置の試作機が完成している。

【国内記事】

2002年1月31日更新

　最近の新築マンションは，ブロードバンドを1つのセールスポイントにしている。既にアクセス回線は光ファイバーが当たり前，中には最大1Gbpsという羨ましい例もある。しかし，技術はさらに進歩し，マンションの構内配線までを光化する試みも進んでいるようだ。 NTTアドバンステクノロジ主催のシンポジウムで，NTTアクセスサービスシステム研究所（AS研）の渕上建也博士がその概要を紹介した。

　カスタマシステムプロジェクトの担当部長を務める渕上氏は，ホームネットワークの一環として新築マンションの光化を研究している。現在の新築マンションは，その入り口まで光ファイバーを引き，構内はメタル配線を使うFTTCの形が主流だ。しかし，同氏によると，メタル配線は減衰しやすいため，マンションの規模が大きくなるほど線長の制限に悩まされているという。

　その結果，構内にスイッチングハブなどを設置して延長しなければならず，また光ファイバーに比べると絶対的に帯域幅が狭い。そして，将来的に光アクセス直接収容に変更する場合には，別ルートでの再工事が必要になってしまう。

　これに対して，当初からマンション構内までを光化すると，高速であることはもちろん，事実上，線長の制限がなくなる。さらに，「BSやCS，地上波といった多様化する放送波とIP通信サービスの多重化が可能になる」（渕上氏）のがメリットだ。

　新築マンションでは，放送波の共用アンテナは既に必須の設備。居住者がチューナーを購入（契約）するだけで受信できるのが最大のメリットだが，一方で各世帯がベランダにアンテナを立ててしまっては，建物の美観を損ねるという背景もある。

　しかし，複数の放送波を各住戸に届けるためには，それぞれ独立した同軸ケーブルが必要で，かつ分配器の設置など工事が煩雑で，コストも高くなりがち。通信の場合と同様，マンションが大規模になるほど不利になるという。

　これを光ファイバーで1本化すれば，これらのデメリットをすべて解消できるうえ，なんといっても“最先端”というイメージがマンションの売上に影響することも期待できる。渕上氏によると，AS研が昨年制作した構内装置の試作機をマンションデベロッパーに見せたところ，「マンションのウリになる」と好評だったという。

光化により，構内の配線はシンプルになる

多重化の方法

　放送や電話を1本の光ファイバーで提供する「サービス多重」は，NTTの光サービスとして検討が進められているもの（昨年11月の記事を参照）。マンションの場合も同様に，下り波長帯域内に追加サービス用の波長を規定することで，放送波を伝送できるようになる。

　具体的なシステムとしては，マンションのMDF室に放送系とIP系を多重する構内装置を置き，CSやBSアンテナで受信した放送波を光ファイバーに流す。各住戸には分波するための宅内装置を設置し，シングルモード光ファイバーで接続する。AS研が試作した構内装置では，上り1.3マイクロメートル，下りが1.5マイクロメートルの波長を使用している。

　ただし，波長多重より，物理的に光ファイバーを増やしたほうがコスト的に有利になる可能性もある。プラスチック光ファイバーの値段は需要の高まりに伴って下落しており，「敷設するファイバーが1本から4〜5本に増えても大差ない」というのが現状だ。現在ではむしろ，工事費のほうが重要なファクター。こちらはマンションの規模によるが，やはり大規模であるほうが有利だという。

　気になる実用化の見通しは，まだ少し先のようだ。「前回の試作機は通信を重視したもので，放送サービスは限られた機能しか入れていなかった。今年末ぐらいには，フル機能の新型が完成する予定だ」（同氏）。

　マンションは，購入者にとって一生に1度か2度の大きな買い物。しかし，分譲後に変更を加えるには管理組合の同意が必要になるなど，難しい問題をはらんでいる。だが，拡張性の高い光ファイバーが構内にまで敷設されていれば，購入後に後悔することもないはず。構内の光化は，デベロッパーと居住者双方にメリットをもたらすソリューションになり得る。

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