リビング+:特集 2003/01/22 23:59:00 更新
CESにみる“ホームネットワーク”の新潮流

特集:CESにみる“ホームネットワーク”の新潮流(3)
CESで明らかになってきたPC離れ現象

PC業界は、家庭の中にブロードバンドネットワークを引き込む道筋をつけたが、広帯域な回線を家庭の中で価値あるものへと成熟させることには失敗したように思う。テクノロジ業界の投資は、PCを中心としたIT業界ではなく、家電業界へとシフトしようとしている。そんな傾向が鮮明になった「International CES 2003」だった

 まるで1990年代初め頃の「COMDEX/Fall」を見ているようだった。米ラスベガスで1月8日から開催された「International CES 2003」に参加しての率直な感想だ。

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 かつて、急速に台頭してきたPCに話題をさらわれ、テレビは家庭での主役の座から滑り落ちると言う者も少なくなかった当時、CESが落ち目になるのと時を同じくして、COMDEXへの出展者と来場者が急増。COMDEXはコンピュータのハードウェアやソフトウェアはもちろん、通信から一部のデジタル家電、コンテンツなども巻き込んで、さらには多くの新興ベンチャーがステップアップの場としてCOMDEX/Fallを選んだことで、恐竜のような巨大なショウへと成長していった。

 しかし昨年11月のCOMDEX/Fallそして今年のCESを見ると、完全に立場は逆転していることがわかる。テクノロジ業界の投資はPCを中心としたIT業界ではなく、家電業界へとシフトしようとしているようだ。そこには家電ベンダーだけでなく、PC関連、通信、コンテンツ、そして新しい技術を売り込むベンチャーまで、最盛期だったCOMDEX/Fallと同じように異業種を巻き込んだ巨大展示会になってきた。

 主催者であるCEAの速報によると、CES 2003の展示スペースは(純粋な展示部分だけで)125万平方フィート、来場者は128カ国11万6687人で、2283社が出展をおこなった。とはいうものの、ここ数年のCESはインテルやマイクロソフトなど、PC業界のリーダーが新しい提案をコンシューマーに向けて行う場となっている。CESの成長が、即PC離れを意味するわけではない。

 しかし実際の展示、基調講演などで、PC業界と家電業界、どちらがより消費者のハートに届く製品と将来への道筋を示したかは、筆者だけではなく多くのCES会場レポートでも明らかだろう。現時点において、エンドユーザーに最新テクノロジを使ったリッチコンテンツを届ける役目を仰せつかりそうなのは、PCではなくデジタル家電のように見える。

 これはいわば、ホームエンターテイメントの主役をめぐる「最後の聖戦」だ。

 PC業界は、功罪いずれもあったものの、家庭の中にブロードバンドネットワークを引き込む道筋をつけた。日本を見ると、あと数年の間には光ファイバーをいつでも好きな時に引き込める環境が整い、アクセスラインは100Mbpsを超えてGbpsオーダーになってくるだろう。

 しかし、PC業界はブロードバンドを家庭に持ち込むことには成功したが、広帯域な回線を家庭の中で価値あるものへと成熟させることには失敗したように思う。本来ならばPCが進化する過程で、家の中で邪魔にならない、静かで省電力、誰もが簡単に使いこなせて楽しいデバイスになっていなければならなかった。ところが、PCはあくまでもPCの姿を維持したままであった。個人の生産性向上ツールとしてのPCという枠を、抜け出すのに時間がかかりすぎている。

 その背景には、PC業界と家電業界の構造的な違いもある。

 PC業界では、標準化と水平分業があらゆる分野で徹底化され、高コストだったPCの価格を劇的に下げることに成功。製造者の技術に依存しないコンポーネント化も進み、金太郎飴的なPCが数多く販売されるようになった。こうした構造は効率が良く、たとえば企業向けの情報システムを提供するためには良い手法ではある。

 しかし、行き過ぎた水平分業にはデメリットもある。結局、現在のPC業界は“プラットフォームホルダーに利益が集中する”構造に帰結している。その証拠に、ニッチマーケットを狙った新興ベンチャーの数はどんどん減り、PCはPCとしての殻を破れず、もがいている。

 一方、典型的な縦割り構造の家電業界は、過去の反省から接続性をはじめとする最低限のテクノロジを水平方向に統合し、その上で各ベンダーが競い合う構造へと進んでいるようだ。相互運用はユーザーベネフィットに直結する。その部分は協力しあい、手元に届く製品開発の部分では徹底的に競争する。すべてを水平に統合すると、製品やサービスを開発するベンダーとしての独自性を主張できないからである。

 ユーザーの手元にもっとも近いデバイスとサービスを提供するためには、ベンダーごとの独自性を活かした物作りが必要という家電業界の主張の是非は、これからの数年間を見なければわからないが、今のところ一歩前へと出ていることは間違いない。

 そうした動きを加速しているのは、コンテンツ業界のPC嫌悪である。ハリウッドはもちろん、放送業界、音楽業界など、あらゆるデジタルコンテンツ業界は、PCを「違法コピー増長ツール」と見なしている。ブロードバンド時代が幕を開けようとしている今、コンテンツ業界の“PC外し”はいよいよ本格化してくることだろう。PC業界も厳密なコンテンツ保護を行えるようにするべく、セキュリティ機能の強化に向けて開発を進めているが、実用化には数年を要すると考えられており、時すでに遅しの感は拭えない。

 かつてビル・ゲイツ氏は「指先に情報を届ける」と話したことがある。そして指先に情報を届けるためのインフラも、技術的な要素も整ってきた。しかし、実際にユーザーの手元にあるのはPCベースの製品ではなく、ネット家電になってしまうのか。

 より良い製品とサービスをエンドユーザーが享受するために、画一的なパラダイムで固まることは決して是とは言えない。競争を促す意味でも、PC業界の巻き返しにも期待したい。

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▼2003 International CES(公式サイト)

[本田雅一,ITmedia]



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