リビング+:特集 2003/02/20 17:41:00 更新

著作権保護とP2P技術のはざまに
「日本MMOの何が問題だったか」 〜JASRAC顧問、田中弁護士

先月、東京地裁において、日本MMOの提供するP2Pサービスにつき、日本MMOが著作権侵害の主体であると判断された。同サービスの何が問題だったか、そしてどのようなP2Pサービスなら存続可能だったか、JASRAC顧問の田中弁護士に聞いた

 日本レコード協会(RIAJ)加盟のレコード会社19社、および日本音楽著作権協会(JASRAC)が、日本MMOとその社長である松田道人氏を相手どって提起した訴訟で、1月29日に中間判決が下された(記事参照)。その内容は、「日本MMOが著作権侵害の主体である」というもの。P2Pサービスを楽しむ個人、および技術を保有する事業者の意識の持ち方に、今後大きな影響を与えることが予想される。

 これにより、たとえば「P2Pソフト配布者も、著作権侵害者とされるのか」という疑問や、「P2P技術の締め出しにつながるのでは」という懸念、また「日本MMOおよびこれからのP2Pサービス提供を考える事業者は、どのような面に留意する必要があるのか」など、さまざまな議論が生じてくる。今回は、原告側であるJASRACの顧問弁護士である田中豊氏に、この判決が何を示しているのか聞いた。

単なる「P2Pソフト配布」では責任を問われない

 ファイル交換により、著作権を直接に侵害したのは、もちろん、一般のユーザー。しかし、中間判決ではファイル交換の“場を提供した”立場にある日本MMO側にも、著作権侵害の責任を認めた。これが、中間判決の最大のポイントだ。

 それでは今後、P2Pソフトを開発、配布したユーザーも「ファイル交換の場を提供した」という理由から責任を問われることになるのだろうか? この問いに、田中氏はこう答える。

 「単にP2Pソフトを製造、販売しただけでは、『ファイル交換の場を提供した』ことにはならない。法律家の多くはそう考えているだろう」。

 日本MMOが責任を問われた理由は、単純にP2Pソフトを配布したから――ではないようだ。同氏は、日本MMOが著作権侵害を認められた理由として、以下のような点を挙げる。

  • 自らの管理する中央サーバを用意し、クライアント・ソフトと連携させてファイルを検索し、公衆送信させる手段を提供した
  • サービスの提供を受けうる人間を、匿名性を保証しつつ会員として組織化した
  • 交換されるファイルが著作権侵害物で占められることは事前に予測することができたし、またそれが提供者の意図に合致していた

 さらに、田中氏は、一番問題だったのは、実際に交換されているMP3ファイルが、ほぼ全て著作権侵害物で占められていたという事実、と指摘する。これは、日本レコード協会側が一定期間、日本MMOのサービスをモニタリングし、追跡調査を行って示された結果。つまり、P2P技術そのものの問題というよりも、“それを利用して何が行われているか”が重要だということだろう。

「スクリーニングできれば責任は問われない」

 中間判決に対して、「P2P型技術の発展を妨げる、不当な判断だ」とする不満の声もある。

 しかし田中氏の言葉を聞く限り、この判決が、今後あらゆるP2Pサービス提供を縛るもの、と心配する必要はないかもしれない。少なくとも、原告側は「P2Pだから」という部分にこだわっているわけではなさそうだ。

 「今回は、P2Pの技術について、一つの局面をリーガルに裁いたものに過ぎない。例えば、日本MMOのサービスでも著作権侵害物をスクリーニングして、排除できるシステムが導入されていれば、責任は問われなかっただろう」(田中氏)。

 それでは、どの場合にP2Pサービス提供が許容され、どの場合に許容されないのだろうか? 日本MMOのサービスでは、交換されたMP3ファイルの97%が著作権侵害物だったというが、それが10%だったらどうか? また、会員制をとらなかった場合や、会員だけを募ったところ、その中でユーザーが自発的にP2Pソフトの配布を始めた場合は……など、考えればキリがない。一般ユーザーの立場としては、つい「明確な線引き」が欲しくなるだろう。

 この問いに、田中氏は「法的に見て、クリアカットなスタンダートがないことは事実」とコメント。

 「法的な評価は、その時代の技術の水準や人間行動の実際との相関関係に応じても変わりうる。その時代の人間行動の実際を前提にして、あるビジネスが開始されることによって、一方に広汎な権利侵害が発生することを予測できる場合には、当該ビジネスが他方である種の消費者の利便に資するという事情があるというだけで、法的に免責されるというのでは具合が悪い。予測される権利侵害を制御するシステム(技術)を開発した上で当該ビジネスを開始するというのがあるべき姿だろう」と説明してくれた。

大阪ではカラオケリース業者に事業差し止め命令

 2月13日、JASRACがカラオケリース事業者ヒットワンに対し、JASRACの管理する楽曲を無許諾に利用しているカラオケ・スナックなど93店舗にカラオケ用楽曲ソフトの提供を行わないよう求めていた件で、大阪地裁はJASRACの訴えを認める判決を下した。

 これは、“著作権侵害をほう助する立場”にある団体に対して、権利侵害に関与する行為の差し止めを認めたもので、大きな意味を持つといえる。

 こうした動きが示すように、著作権侵害については、侵害行為を直接する者だけでなく、侵害行為を助長する道具を提供するサービスなどについてもチェックが厳しくなりつつあるというのが現状だ。ネットに限らず、あらゆるサービスを提供するあらゆる団体・個人が、著作権に注意を払うことが求められている。

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関連リンク
▼日本音楽著作権協会

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次回インタビュー予定:ソニー・ミュージックエンタテインメント 佐藤氏

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[姉歯康,ITmedia]



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