リビング+:レビュー 2003/07/03 23:59:00 更新

レビュー:「フレームバースト」&「ジェットモード」
正式勧告+独自機能でさらに“加速”するIEEE 802.11g(前編)

6月に正式勧告が出て、安心して購入できる段階に入ったIEEE 802.11g製品。見切り発車となった初期の802.11g製品では多くの問題も抱えていたが、正式勧告ではそのほとんどが改善されている。また無線LANベンダーは自社製品の差別化を図るため、独自の高速化機能の実装も始めた。

 見切り発車の製品登場から遅れること数カ月、ようやく正式勧告がなされた802.11g。異ベンダー製品間の互換性保証をする「Wi-Fi」の802.11gでの取得はまだまだこれからという段階だが、正式勧告とこれに対応した製品、ファームウェアの登場で安心して購入できる段階になったことに間違いはない。

 もっとも周知の通り、802.11gは多くの問題を抱えながらここまで販売されてきた。一体に何が問題だったのか、ここでさっと振り返ってみよう。

 初期の802.11g製品が抱えていた問題は非常に大きい。これらの製品はドラフト5.0の仕様に基づいた製品だが、この段階では802.11b/gの混在モードでは802.11bとgのパケットがまず等価に扱われており、これが混在モードで802.11gのスループットが低下する大きな原因になっていたからだ。

 例えば、802.11gが802.11bより4倍速いとする。802.11gと802.11bのクライアントが1台ずつアクセスポイントに同時連続アクセスすると、概ねパケット単位で802.11gと802.11bが交互にデータ転送を行うことになる。扱いが等価だからだ。

 ところが、このとき802.11gのスループットは大幅に低下する。802.11bと同じパケットサイズで交互にデータ転送するのだから、802.11bと同程度のデータ転送速度しかでない。ものすごく簡単な理屈だ。

 また802.11gと802.11bのコリジョンの問題もあった。802.11g/bは同じ2.4GHz帯を利用するが、802.11bのクライアントは変調方式の違う802.11gの通信を感知できない。アクセスポイントと802.11gのクライアントが通信中に、本来なら待機していなければならない802.11bのクライアントが割り込んでしまうのだ。

 この2つの問題は、ドラフト6.1で概ね改善されることになる(記事参照)。802.11gのパケットを優先して転送することができるようになり、アクセスポイントは802.11gクライアントとデータ伝送を開始する前に、802.11bでCTSパケットを送信して802.11bクライアントに「待った」を掛けるようになったからだ。ドラフト5と6.1では互換性がないといわれたのは、こういった大幅な改良があったからだ。

 このドラフト6.1がIEEEに2月に802.11gのドラフト版として承認され、3月にスポンサー組織の意見を取り入れたドラフト7となり、ほぼ予定通り、6月にドラフト8が標準仕様として承認された。

正式勧告と、製品差別化のための独自高速化

 既に述べたとおり、802.11gは初期の製品に見られた問題を概ね解決し、無線LANの正式規格となった。現時点では異なるベンダー製品間の互換性まで完全に保証されているわけではないが、安心して購入できる状況になった。

 反面、ここへきて独自モードによる高速化の動きもある。無線LANベンダーでは大手となるメルコが「フレームバースト」、コレガが「ジェットモード」といった802.11gの高速化機能を最新ファームウェアで追加した(記事参照)。またアイ・オー・データ機器も「PRSIM Nitro」技術に対応した高速データ転送モードのサポートを追加している。なお、コレガとアイ・オー・データ機器はIntersil製の無線LANチップを採用しており、「ジェットモード」と「PRISM Nitro」は同一の技術だ。

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ジェットモードに対応するコレガの「WLBAR-54GT」と「WLCB-54GT」

 これらの高速化機能は、もちろん互換性を損ねるものではない。基本的にはアクセスポイント、クライアントの両方がサポートしている場合にのみ機能し、既存の802.11b、802.11gクライアントとの同時アクセスも問題なく行える。

 802.11gの正式規格化で、カタログスペックはどのベンダーの製品でも横並びに近くなる。そこで、自社製品同士の組み合わせ“ならでは”の優位性を打ち出し、シェアを確保したいという無線LANベンダーの目論見があるわけだ。

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フレームバーストに対応したメルコの「WHR-G54」と「WLI-PCI-G54」

 これらの高速化の基本的なアプローチは、802.11gのパケットを連続(バースト)転送することでオーバーヘッドを減らし、スループットを向上させようというもの。決まったクライアントに対してパケットを連続転送すれば、通常パケット転送の度に必要なネットワーク制御のための待ち時間を大幅に省略できる。この待ち時間はデータ伝送速度に比例しないので、連続転送はデータ伝送速度が速ければ速いほど意味が大きくなる。

 メルコではフレームバーストで4〜5個のパケットを連続転送するとしており、これで20%程度の高速化を果たしたという。(記事参照)それだけパケット間の待ち時間が802.11gでは大きなオーバーヘッドになっているわけだ。

 一方、メルコのフレームバーストと、コレガのジェットモードでは少々異なる部分もある。フレームバーストでは連続転送は802.11b/gの混在モード、802.11g専用モードでも機能するが、「ジェットモード」の連続転送は802.11g専用モードでのみ機能する。802.11b/g混在モードでも、とにかく802.11gの速度優先という向きにはフレームバーストの方が意味は大きそうだ。

 もっとも、メルコではフレームバーストを利用すると非対応クライアントのスループットがわずかだが低下するとしており、一方のコレガはジェットモードを利用しても影響ないとしている。ただ、ジェットモードの連続転送は802.11g専用モードでしか機能しないのだから、非対応クライアントへの影響が小さいのは当然といえば当然。このあたりは、高速化に対するポリシーの違いと捉えるべきだ。

 なお、ジェットモードには802.11b/g混在モードでのコリジョンの低減、802.11gパケットの優先といった機能も定義されている。これは802.11gの正式勧告にも含まれている機能であり、それをさらに拡張した機能なのかどうかは現時点では正確には判断できない。802.11g正式勧告の仕様はまだ公開されていないからだ。

 現状では次世代無線LANの本命に躍り出た802.11g。もちろん将来性の高さで802.11g対応製品を購入する人も多いだろうが、現時点ではその高速性に期待して購入する人の方が多いはず。フレームバースト、ジェットモードといった独自機能にも懸かる期待は大きそうだ。

 後編では、実際に対応ファームウェアを導入した製品を用い、両者のスループットを測定してみよう(7月4日掲載予定)。

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関連リンク
▼メルコのニュースリリース
▼コレガのニュースリリース
▼intersilの「PRISM NITRO」技術情報(PDF)

[坪山博貴,ITmedia]



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