リビング+:レビュー 2003/07/09 04:25:00 更新

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“セレクタブルバンド”だが、機能と性能は折り紙付き〜白い「AtermWR7600H」を試す

白いきょう体となった「AtermWR7600H」は、IEEE 802.11a/b/gのトリプルスタンダードをサポートする無線ルータ。802.11aと802.11b/gは同時に扱うことができないため、デュアルバンドというより“セレクタブルバンド”だが、その弱点を補い、とりあえずの運用をサポートする機能が仕込まれている。

 NECアクセステクニカの無線ルータAterm WARPSTARシグマシリーズがモデルチェンジ。白いきょう体となったトリプルスタンダード対応の「AtermWR7600H」が発表された。安定性やアフターサポート、使いやすさなどで定評のあるAterm系の製品だけに、802.11g正式承認後の本命機種として注目している人も多いだろう。

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白いきょう体になった「AtermWR7600H」

 しかも、新製品はSmartBitsによる計測で98.1Mbps、ローカルルータモードのFTPによる実測値で90Mbps、PPPoE接続時でも80Mbpsという高速性を備えている(メーカー公称値)。光アクセスラインの実効レートを上回る性能だけに、パケットフィルタリングや各種セキュリティ機能をオンにした状態でも、最新のブロードバンド環境に対応できる速度を発揮してくれるはずだ。

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背面には4つの有線LANポートを備える(クリックで拡大)

デュアルバンドというより“セレクタブルバンド”だが……

 AtermWR7600Hのウリのひとつに、5GHz帯のIEEE 802.11a、2.4GHz帯の802.11b/gに対応する無線アクセスポイント部がある。無線部はPCカードスロットに装着した無線LANカードが担当しており、無線LANカードセットモデルに同梱される「PA-WL54AG」と同じものが挿入された状態で出荷されている。

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本体上面にPCカードスロットがあり、ここに無線LANカード「PA-WL54AG」が装着されている

 デュアルバンドはいいが、それでは“接続可能な範囲”がどの程度なのか? という疑問が生じる。PCカード内にはデュアルバンドのダイバーシティアンテナが内蔵されているが、さすがにサイズ的な制約からは逃れられない。外部アンテナを装備する機種と比べ、どの程度の性能があるのかは気になるところだ。特に802.11aは“飛ばない”というイメージが定着している。これについては、後ほどわが家での調査結果を紹介しよう。

 またクライアント用の無線LANカードは、デュアルバンド対応といっても、異なる周波数の電波を同時に扱う必要がないため、無線LANチップセット内部の5GHz部と2.4GHz部で共用している部分がある。このため、802.11aと802.11b/gは同時に扱うことができない。

 したがってデュアルバンドではなく、「セレクタブルバンド」と言った方が正しいかもしれない。実際、NECアクセステクニカは本機を“デュアルバンド”とは表記していない。また、802.11a/b/gを同時サポートした無線LANチップセットの多くは同時にひとつの周波数帯しか利用できない構成となっているため、本機以外のほとんどの製品も、こうした選択方式のトリプルスタンダードサポートだ。もちろん、AtermWR7600H自身の問題というわけではないが、まずはこのあたりから考えてみることにしたい。現在トリプルスタンダードワイヤレスルータ購入を検討しているユーザーにとって、買い時をはかる上で重要な問題だと思うからだ。

家庭でもデュアルバンド同時アクセスは欲しい

 前提として、コスト的に見合うならば、家庭では極力802.11aを使うのが良いだろう。2.4GHz帯にはBluetoothや電子レンジとの干渉があるからだ。普及度を考えるとBluetoothが干渉する確率は低いものの、電子レンジとの干渉は問題になる場合が多い。日本製の電子レンジは、たとえば米国製などと比べると漏れ電波が少ないのだが、それでも通信経路近くで電子レンジが動くと通信が停止してしまう。

 また、経路上に電子レンジがなくても、近くで動いているだけで強い干渉を受けて転送速度が落ちる。僕の自宅では問題はないが、集合住宅によっては隣や下階の住人が電子レンジを動かしただけで干渉を受ける場合もあるそうだ。

 実効速度の面でも、電波状況さえクリアなら802.11aの方が高速な場合が多い。さらに同じチャネルで802.11bとgが混在していると、802.11bのトラフィックが802.11gの帯域を食い潰し、実効レートが大きく下がるという問題もある(別チャネルにすればOKだが、本機のように802.11b/g両対応の機種は無線部を共用するため別チャネルに振り分けられない)。

 しかし、クライアント側を見ると802.11a内蔵の機種はまだ少数派。たとえ802.11a内蔵PCを持っているととしても、併用している機器が802.11b内蔵の場合に802.11a対応カードを別に用意するのか? と考えると、あまり現実的ではないように思う。

 すでに802.11bのユーザーならば、既存の802.11bアクセスポイントを活かし、AtermWR7600Hを802.11aで動かせばいい。この場合、802.11gの存在は無視してもいいだろう。互換性を802.11bで取り、速度を802.11aでフォローすればいいわけだ。

 いずれにしろ、無線LANを最大限に活用するならば、アクセスポイントは複数ある方が便利だ。前述したように802.11bが802.11gの帯域を食い潰す問題も、アクセスポイントを分ければ問題ない。無論、その分コストはかかるが、無線LAN機器の価格が下がっていることを考えると、そのときの状況に合わせてアクセスポイントは別途用意する方が得策だと思う。

 また、将来アクセスポイントを増やすことを前提に考えるならば、AtermWR7600Hにはデュアルバンドではないという弱点を回避する「とりあえず」の運用をサポートする機能が仕込まれている。

 本機に付属する無線LANカードPA-WL54AGには、無線LANの設定を行う「サテライトマネージャ」というユーティリティが付属するが、このユーティリティは無線LANカードの設定を行うと同時に、アクセスポイント側のバンドを切り替える機能があるのだ。

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サテライトマネージャの画面。一番上に「親機の設定も同時に切り替える」という項目がある

 したがって、普段は802.11aで使っておいて、他に802.11b/g機器を利用したい場合、あるいは普段は802.11b/gで利用しておき、必要に応じて802.11aに切り替えたい場合などは、ユーティリティでバンドを選択し、アクセスポイントと無線LANカードの設定の同時切り替えを指示するだけ。切り替え自体は短時間で済むため、使用感は悪くない。このあたりは、アイデア溢れるAtermシリーズならでは、というところだろうか。

 このユーティリティは、ほかにも省電力モードや送出信号の強度、ストリーミングモードの切り替えなどがわかりやすく配置されており、なかなか使いやすい。プロファイルの管理や電波強度の測定グラフなども便利だ。なお、ストリーミングモードとは、アクセスポイントの自動スキャンを停止するモード。アクセスポイントスキャンが始まると、そのときだけ通信が遅くなることを防ぐ(昨年11月の記事を参照)。ネットワーク経由でMPEG-2ビデオを再生する場合などにも便利な機能だ。

セキュリティ設定を変更しても十分なパフォーマンスを維持

 さて、では実際のパフォーマンスはどうだろう。無線LANアクセスポイントとしての実力とローカルルータとしての性能。両面を検証してみた。なおPPPoE動作時のスループットは計測していない。本機の速度はすでに十分高速で、インターネットが間に入ってしまうと本当の実力を測ることができないためだ。

 テスト環境はPentium 4/3GHzのWindows 2000 Server上でIISのFTPサーバを動作させ、AtermWR7600Hを間に挟んでPentium M/1.6GHzのノートPCからWindows標準のFTPクライアントで約100Mバイトのファイルをダウンロード/アップロード。FTPクライアントが算出したスループットを計測値としている。このため、計測した値が“本機の最大スループットではない”という点に注意してほしい。あくまでもFTPにおける実効スループットの平均だ。このため、メーカー公称値あるいは実際に多数の通信セッションが発生する実利用時のスループットと必ずしも一致しない。

 まず無線部の性能だが、リンクシス製802.11g機器をテストしたときと、ほぼ同様の結果が出ている。本機のファームウェアは、まだ802.11gのドラフト規格に対応したもので、あくまで参考程度だが、802.11aの方が高速な通信が行える。

 また、カバー範囲にしても、約90平方メートルの筆者宅(マンション)で使う上では、両者の決定的な違いは見られなかった。一般的には、周波数帯の特性の違いにより、802.11aの方が壁の通過や長距離の通信に弱いとされているが、実際に使ってみると信号レベルの減衰こそ802.11aの方が大きいものの、スループットでの比較になると違いが出てこない。

 さらに広い家であれば2.4GHz帯のメリットも出てくるだろうが、わが家程度の広さで、かつアクセスポイントを中央近くに置くことができれば、カバーできる範囲はさほど変わらないという印象だ。ただ、アクセスポイントを自宅の一番端に置き、対角線上にある場所からアクセスしようとすると付属の無線LANカードから802.11aでは通信が行えなくなった(802.11gはOK)。その場合でも「ThinkPad T40」内蔵の無線LANでは接続できるため、アンテナ次第といえるのだが、両者のカバー範囲が決して同等というわけではない点には注意したい。

 また、802.11aアクセスポイントのソニー「PCWA-A520」を本機と同じ場所に置いて、信号レベルを計測してみたが、信号強度レベルの数字で10%程度、PCWA-A520の方が優れていた。このあたりは無線LANカードを使っている本機と、専用アクセスポイントの違いといえるのかもしれない。

 次にローカルルータとしての実力を見てみよう。本機のルータ機能は、近年の機能競争のおかげで、十分以上に高い機能性がある。これは他社の同世代機も同じであり、一部高級モデルのようにVPNサーバ機能などを備えない限り、機能面での明確な差を示すことは難しい。本機の場合、設定のしやすさ、各設定画面への機能の振り分け方などが良いと思ったが、これも個人差がある。安定性に関しても、長期間のテストを継続しなければ推し量ることは難しいだろう。

 結局のところ、明確に違いを示せるのはスループットということになろうか。それも、多数のパケットフィルタリングを設定し、セキュリティ機能をすべて有効にした状態で十分な速度になってれば、それ以上追求する必要性はないのだが……。

 その結果だが、パケットフィルタリングを20個追加設定し(デフォルトで代表的な設定が18登録されているため、合計で38個)、5個のポートフォワードを設定した状態での計測結果は、5回の平均値で下りが53.6Mbps、上りが71.2Mbpsという、光アクセス回線にも対応できる十分なものだった(上りの方が高速だが、計測値に間違いはない)。次にデフォルトで設定されているパケットフィルタ以外を外し、ポートフォワードもすべて削除。さらにセキュリティ保護機能を無効、ログ記録を無効で計測してみた。多少は処理が軽くなるハズだが、下り54.1Mbps、上り71.1Mbpsで、誤差程度の差しか出ていない。

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パケットフィルタリングの設定画面

 つまり、セキュリティ設定によって性能がほとんど変化しないことがわかる。また、昨年あたりのモデルには、下りの性能を上げるためか、上りのルーティングが非常に遅い機種も存在したが、本機には全くその傾向もない。多数の同時セッションを張って負荷をかけたときのパフォーマンスではないものの、将来性を含め、パフォーマンス面の心配はないレベルに達しているといえるだろう。

WPA対応の次期ファームウェアにも期待

 このほかルータとしての機能部分を見ると、3セッション同時にPPPoEセッションを張れる点が目新しい。3つのPPPoEセッションを張れるサービスは、現在のところBフレッツビジネスタイプとNTT西日本がオプションサービスとして提供している「フレッツプラス」(フレッツADSLでも利用できる)しか対応していないが、ブランチオフィスでの利用を想定しているユーザーには、拠点間接続のために便利なソリューションとなりそうだ。また、筆者宅はPPPoE接続環境にないためテストしていないが、PPPoE間のルーティングが可能な点もビジネスユースで利用しているユーザーには便利だろう。

 近日中には802.11g正式版に対応するファームウェアも提供されるが、個人的にはWPA対応のファームウェアが予定通りに出荷されることを祈っている。本機の無線LANセキュリティは、WEPキーが152ビットに対応しているものの、それ以外はMACアドレスによる制限やESS-ID非公開のモード設定しかない。個人的にはANYローミングの拒否機能が欲しかったところだが、暗号化の方は次期ファームウェアで、TKIP、AESに対応する予定だ。

 WPA(Wi-Fi Protected Access)は「ホームモード」に準拠し、ユーザー認証を行い、キーを動的に変化させる高いセキュリティの無線LAN環境を構築できる(ホームモードはユーザー認証をアクセスポイントが行うもので、専用のユーザー認証サーバを必要としないため小規模オフィスや家庭で導入しやすい)。WPAに対応するモード設定画面はまだ実装されていないため、具体的にどのような設定が行えるのかは不明だが、検索すると数個の無線LANアクセスポイントが見えるわが家の環境を考えると、期待せずにはいられない。

 Atremシリーズは、出荷当初は若干高めの価格設定から始まるものが多いが、本機は他社製品と比べても大きな価格差はない。完成度の高さやルータ部分のスループット、それにWPA対応といった要素を考えれば、価格以上の機能と性能を提供してくれるといえるだろう。

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関連リンク
▼NECアクセステクニカ
▼ニュースリリース
▼AtermStation

[本田雅一,ITmedia]



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