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ナナオの考える“ナチュラルな絵作り”を追求〜開発者インタビューインタビュー(2/2 ページ)

» 2004年03月01日 13時58分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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「使い勝手やコンセプトの話が先行しましたが、やはり我々の基本は画質、絵作りです。わざとらしい絵ではなく、無理な誇張を行わず、映像ソースの持つ豊かな階調をストレートに表現できるナチュラルな表現。これが我々の製品、FORIS.TVの基本になります」

 誇張しない、自然な絵作りというのは、具体的にはどのようなことなのか? 液晶パネルの色再現力はブラウン管には劣り、NTSCで表現できる色の範囲よりずっと狭い。その中で忠実な色再現と階調を出すのは難しい。

「デフォルトのカラーモードは、通常のテレビよりも色温度を下げており、地味な色だと言われるかも知れません。量販店でぱっと見の見栄えを優先させた他社製品と並べれば、うちの製品は売れないでしょう。本当に良い絵作りとは何だろう? と問いかけながら、少しづつ認知を広げていきたいと思います」

「たとえばご指摘の色再現域の違いですが、可能な限り忠実な色を割り当てつつも、色飽和が起きないギリギリのポイントで、かつ豊かな階調を失わないよう色空間の変換を行うようにしました。また、ハイライト周辺を持ち上げると、コントラストが良好で美しく見えるようになりますが、眩しすぎて柔らかさのない絵作りになります。そこで、シアターライクなソフトな色調に仕上げています」

 シアターライクな絵作りはDVDで映画を見たり、ハイビジョン放送を見るにはいいが、地上波などのビデオソースを日常的に視聴する場合には合わない。そのあたりの落としどころはどうチューニングしたのか?

「テレビを美しく見てもらうための“ダイナミック”モードは、多少色温度と明るさと色飽和度は上げ気味にしています。とはいえ、通常のテレビのように1万度以上といった極端に高い色温度ではなく9300度程度に抑えました。また映画を見て頂くための“ソフト”モードでは、基準値となる6500度に近い色温度で、なおかつ10ビットガンマ処理によって映画に最適なガンマ値となるようチューニングを行いました。また3種類ある固定ガンマ値からの選択も可能です」

 固定画素のデジタルテレビでは、ガンマや色作り以外にも、様々な部分で画質を決定付ける要素がある。インターレスソースのプログレッシブ変換や、低解像度ソースの拡大表示処理は代表的な例と言える。

「SC23XA1には2-2/2-3プルダウンに対応したI-P変換回路を内蔵しています。しかも23〜30インチ程度のテレビでは、HD映像向けのI-P変換回路を搭載しているものはありませんが、たとえば1080iの映像もきちんとI-P変換処理を行ないます。さらに入力ソースの解像度に応じて、最適な入力信号に対するフィルタを自動切り替えするため、地上波、DVD、ハイビジョンなどソースの解像度を問わずクリアな映像を楽しんでもらえると思います」

「イメージスケーリングや液晶ドライバは自社製ではありませんが、調達した部品をそのまま使うのではなく、自分たちで納得がいくまでチューニングを繰り返しました。たとえばDVDなどのSDソースをパネル解像度に拡大する場合、パネル解像度の整数倍でオーバーサンプリングをまずは行い、高密度にサンプリングされたデータを基に映像処理を行ってからパネル解像度にまで落とし込みます。整数倍のオーバーサンプルなので、縮小時のディザなども発生しません」

「さらに液晶の応答速を高めるオーバードライブ回路は、完全に自社で起こしています。スペックとしての応答速度を高めるには、多少オーバーシュート気味にドライブする方が数値は上がります。しかし、そうすると画質が落ちてしまいます。我々のオーバードライブ回路は、スペック値としての速さを追いながら、画質を落とさないギリギリのチューニングを行うことを狙って開発しています」

サウンドクオリティは画質の一部

 SC23XA1は、大容量エンクロージャーを採用したフルレンジスピーカーユニットも自慢のひとつだという。内蔵DVDプレーヤーを用いたCD再生の音質も自慢というサウンドコンセプトについて聞いてみた。

「今までナナオのモニターには、音という要素はありませんでした。しかし今回はテレビです。画質にこだわった分、映像に見合うだけのサウンドクオリティを引き出したい。平面でしかない映像にハイクオリティなサウンドが加わることで、映像に立体感をもたらすことが可能だと思ったからです。サウンドは映像クオリティの一部と言っても過言ではないでしょう」

大容量エンクロージャー

 フルレンジのスピーカーユニット構成は、再生周波数帯域に関しては不利だが、定位や音の鮮度を向上させるために、もっともシンプルで効果的な構成でもある。不足する低域を補うため、縦に長い大容量のスピーカーエンクロージャが与えられたバスレフ方式を採用する。

「液晶テレビを設計する際、徹底して薄型を目指す考え方もあります。しかし、我々はカタログ値での奥行きにこだわらず音質を重視しました。10センチのフルレンジスピーカーですが、音域バランスも良い優れたスピーカーに仕上がりました。5バンドパラメトリックグラフィックイコライザ、スピーカーや回路系での過渡特性劣化による歪みを補正するBBE回路、入力ソースごとに調整できる音声レベル調整機能など、映像部分と同様にナナオらしいコダワリを詰め込みました」

今後はあらゆるソースに対応できるユニバーサルなモニターを

 FORIS.TVは、たとえば光沢感がある映像面のコーティングなどは施されておらず、コンピュータモニターと同じような表面処理を行っている。見た目のきれいさよりも、実利用環境での快適さを狙ったナナオならではの配慮だ。狭額縁のデザインも、最近の家電ベンダーにはないもの。深いブルーをイメージカラーとした、シンプルでスマートなデザインは、どこか欧州の匂いも醸し出している。

 FORIS.TVは高いデザイン性とシンプルな使い勝手、それに高品質を求めるユーザーにフォーカスし、ナナオのショールーム他、一部のショップでも展示される予定だという。販売は、当初はWeb(EIZOダイレクト)からの直販および一部のショップのみ。ジェネラルユーザー向けの製品が多い従来の日本製テレビとは一線を画す、異例のマーケティングだ。

 今回の製品でテレビへの挑戦を終えるつもりはないようだ。DVD一体型というユニークな製品となったFORIS.TV第一弾モデルSC23XA1だが、今後のモデルでは新しい分野にも積極的に挑戦してみたいという。

「まず地上デジタル放送をはじめとするデジタル放送を、どのように製品に取り込むのが良いかを考えたいと思っています。デジタル放送の双方向通信を、どのように活かすかがポイントでしょう。また、大型画面の製品やフルHDに対応した製品への取り組みも行いたいと考えています。理想は放送やコンピュータ、デジタルカメラなど、あらゆるデバイス、フォーマットに対して最適なユニバーサルモニターです。我々だけにしかできない、理想のモニターを探していきたいですね」

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