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Intelの大画面TV市場参入は“夢”に終わるか?(2/2 ページ)

» 2004年09月22日 12時36分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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 「DellやGatewayがリアプロを出したとしても、Media Center PCを接続するためのディスプレイってところだろう。彼らの製品はディスプレイであってテレビじゃない。気にする必要はない」

「うちも反射型液晶パネルは長い間開発しているが、シリコンレベルでいくら低コスト化を図れても、シリコンの上に液晶を載せた段階で歩留まりが極端に落ちる。彼らにそのノウハウがあるとは考えられない」

 特に後者の意見はもっともなものだ。LCOSの開発はソニー、ビクター、日立、Philipsなどが行っているが、どこも歩留まり向上に相当苦労している。なんとか製品化にはこぎ着けているものの、透過型液晶パネル並のコスト効率になるのはまだまだ先のことだ。

 オッテリーニ氏は「われわれは最新の半導体製造技術を保有している」と主張していたが、「ロジック回路の製造技術」と「LCOSの製造技術」を混同して説明している(おそらくそれは意図的なものだっただろう)ところに、大きな不安を抱いていた。

 そこへ来てのLCOS計画の先送りである。当然、9月7日から米国サンフランシスコで行われたIntel Developer Forum Fall 2004では、LCOSの動向に注目する者もいたが、Intelは“一切の”デモンストレーションを行わず、“LCOS鋭意開発中”という看板の欠片さえどこにも見つけることはできなかった。まるで“完全になかったこと”とでも言いたげだ。

 IDF基調講演後に行われた質疑応答でLCOS事業の現状について質問されたオッテリーニ氏は、「われわれは720P対応パネルの準備を進め、年末にはパートナーがシステムを発売する予定だった。しかし時代はフルHDへと動いている。競争力を高めるため、来年に開発が完了する1080P対応パネルまで計画を先延ばしにした」と早口に話し、質問者の反応を見る間もなく、自ら「次の質問者は?」とLCOSに関する話題をさえぎった。

ローコスト化はやはり無理?

 繰り返しになるが、IntelのLCOS技術が注目された理由は、前出の通りIntelモデルでローコスト化し、かつて夢のデバイスとうたわれたLCOSを用いたリアプロジェクションテレビが60インチクラスで2000ドル以下になるとアナウンスされたからだ。

 ところが、オッテリーニ氏の短いコメントを聞く限り、ローコストよりも高付加価値を目指す方向へとIntelは変化したようだ。

CESで展示された50インチクラスのリアプロジェクションテレビの試作機。ローコスト化はやはり難しかった?

 米国のHDTV放送は720Pが中心であり、フルHDへの移行も検討はされているものの、あくまでも将来の話である。もちろん、フルHDになったからといって直ぐに720Pのテレビが付加価値を失うわけでもない。さらにHD映像のインターネット配信や次世代光ディスクを用いた販売となると、本格普及がいつになるのかさえまだ“推測”の域を出ていない。

 そんな中で、Intel製LCOSという高性能デバイスを旗印に業界構造に変化をもたらそうと気勢を上げていたIntelが、やっぱりフルHDからじゃなければ参入できないと言う理由は、おそらう全く歩留まりを上げるメドが立たず、ローコスト化できなかったからだろう。

 もう一つ、良いパートナーが見つからなかったという可能性もある。しかし、大メーカーの陰に隠れている優秀な技術を持つ企業はたくさんある。日本のある光学機器ベンダーが、Intel製LCOSを用いた小型・高効率の光学ユニットを開発していたという情報、その光学ユニットを用いて“ある日本の家電ベンダー”がリアプロを開発していたという情報など、噂レベルでは多くの話がIntelの周囲にはあった。

 少なくともパートナーをも巻き込んだ製品開発が、すでに行われていたことだけは間違いなさそうだ。パートナーを巻き込んでいるにもかかわらず、まるで何も存在しなかったように振る舞うIntelの幹部たちには頭が下がる思いだが、言い換えれば、そこまでIntelのLCOS事業は、厳しい選択を迫られていたのかもしれない。

 ではこの先はどうなのだろうか? Intelの選択肢に「歩留まりが低くともある程度の採算が取れる高付加価値市場に限り参入」というシナリオがあるならば、来年のフルHDで参入もあるかもしれない。しかしIntelは、一度見失ったLCOS事業の方向性を、今一度見つけることができるだろうか?

 今年のCEATECでは、LCOS事業を担当するデスクトッププラットフォーム事業部の副社長兼ゼネラルマネージャー、ルイス・バーンズ氏が基調講演を行う。おそらくLCOSに関する具体的なコメントはないだろうが、質問に答える機会はあるだろう。今年秋の段階で何も言えないようならば、来年の計画もかなり怪しくなってくる。

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