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オーディオと音楽の本質麻倉怜士のデジタル閻魔帳(2/4 ページ)

» 2005年05月31日 23時59分 公開
[西坂真人,ITmedia]

“音楽”とは?

――では“音楽”を重視したオーディオとは?

麻倉氏: 曲自身が、どういうところにポイントがあって、どういう展開があり、どういうメロディを持ち、どんな和声があって、などということが分かってくると、さらに演奏の解釈が深まり、音楽の魅力をディープに感じることができるのです。それが生演奏でなくオーディオの再生音楽であっても、作曲家の魂、ハートは感じられると思っています。

 作曲家の意図性をいかに表現できるかがオーディオの魅力の1つです。例えばチャイコフスキー交響曲第6番「悲愴」の第4楽章では、普通ではすべて第1バイオリンのみで弾く旋律を、第1バイオリンと第2バイオリンが交互に旋律を1音ずつ弾いていきます。

 現在のオーケストラの配置(米国の指揮者レオポルド・ストコフスキーが考えたもの)では、左が高音で右が低音という楽器の配置なのでバイオリンは第1/第2ともに同じ位置となり、オーディオで聴くと片方のスピーカーからだけ旋律が聴こえて、1音ずつ別のバイオリンで弾くという面白みが薄れてしまっています。ですが、ストコフスキー以前のオーケストラだと左が第1、右が第2となり、1音ずつ左右のスピーカーから出てくるというステレオ効果のダイナミックなサウンドになるのです。

 つまりチャイコフスキーの発想はオーディオ的というか、ステレオ音響を見据えた曲作りをしているのです。音場的な発想でスコア(楽譜)を書いているのがよく分かりますね。そうなるとそれを再生するオーディオも、キチンとセパレーションが取れているかが重要になってきます。この場合のセパレーションも「ステレオ音響だからセパレーションが重要だ」という技術論ではなく、悲愴・第4楽章のような楽曲の音楽性を理解した上で「作曲家が意図するものを最大限に伝えるためにセパレーションが必要なのだ」という考えをしなくてはいけないのです。

photo 今回のインタビュー&撮影場所はヤマハの協力を得た。室内設置可能な同社の防音室「アビテックス」の中に置かれたグランドピアノを弾く麻倉氏。なんでもこなす同氏は、ピアノの腕前もかなりなもの

――音楽理論から学ぶことは?

麻倉氏: 「学ぶ」というより、音楽理論は一見硬そうに思えますが、音楽を聴くうえで、知っておくと絶対に役に立つ、より音楽が深く楽しめることが多いのです。大学で教えている内容から、二三挙げましょう。

 例えば、ドレミファソラシドという音階も、自然界から発生しているから我々の感覚ととても親和性が高いのです。“ドレミ論”には諸説ありますが、有名な「ピタゴラス音律」は、純正5度を積み重ねていくことで12個の音(C/C#/D/Eb/E/F/F#/G/G#/A/Bb/B)を得て、その中から全音階を抜き出してドレミファソラシド(C-D-E-F-G-A-B-C1)を定めたとされています。

 もう1つの音の基本である「自然倍音」現象は最低音の基音にCを取ると、その上の倍音がC-C-G-C-E-Gと自動的に鳴ります。つまり「ドミソ」なんです。例えば、洞窟の中での風の音が「ド」だとしたら、同時に「ミ」と「ソ」が出ています。我々が耳にする音楽も、ドミソを使っているケースが実に多いですね。モーツァルト、ベートーヴェンにはその例が多く、ヨハン・シュトラウスの美しき青きドナウも出だしはドミソですね。

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