力強さと繊細さをピュアに表現――音の本質がわかるAVアンプ「DSP-AX4600」レビュー(3/4 ページ)

» 2005年07月01日 00時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

エネルギー感溢れる躍動的なアンプに変身

 DSP-AX4600がベースにしているDSP-AX2500に限らず、これまでのヤマハ製AVアンプは実に“上品でおとなしい音”の製品が多かった。突然変異種(!)として、DSP-AZ1/AZ2のように、やや荒々しさも感じさせる元気の良いアンプもあったが、基本的には上品系。意図的に悪い言いかたをすれば、女性的で力感が不足し、音の立ち上がりはスロー、低域は控えめで緩い、となる。耳当たりは良いものの、何か物足りなさを感じるのだ。

 しかしDSP-AX4600の印象はガラリと変化した。まず感じるのが鋭いアタックの音に素早く追従するスピード感。意図的にオーバーシュートさせている印象もない。また低域はキリリと締まり、ボリュームも十分で力感を感じる質の良いものだ。緩く膨らんだだけで量感を演出するようなチューニングではなく、ガチンコで実力勝負を挑んでいる事がわかる。

 解像度も非常に高く、CDとSACDを聴き比べてみるとソースの違いによる粒度の変化を確実に体感できる。アンプの駆動力に関しても、視聴に使ったB&W Nautilus 804クラスを、キレイに鳴らし切って見せた。DSP-AX4600の価格帯を考えれば、組み合わせるほとんどのスピーカーに関して、力不足を感じることはないだろう。

 また、ピュアダイレクト時のS/N感も特筆できるものだ。このクラスのAVアンプの場合、ノイズ対策にかけるコストは限られる。いきおいS/N感が落ち、ややざわついた印象の音になるものだが、ピュアダイレクトモードに切り替えると、静寂の中から一気に沸き上がる。そのダイナミックレンジの広さが印象的だ。

 特にS/PDIFからのデジタル入力の音が良い。アナログ時の音も基本的には同傾向だが、やや低域が甘くなり、音の輪郭もさほど際だった印象はない。対してS/PDIFの同軸ケーブル接続で聴いた時の音は、低域がよく調教され、音の輪郭がハッキリと浮かび上がるような鋭さがある。

 なおデジタル入力時の音質は、CDに限った場合、同軸S/PDIFがもっとも良い印象。次いでiLINK、HDMIといった順。特にHDMI時は映像信号とともに送られるためか、フロー制御が行われていない状態のiLINKの方が明らかに良い。他社ハイエンド機(具体的にはデノンAVC-A1XVとDVD-A1XVの組み合わせ)ではHDMIでもかなり高い音質を実現していたが、現状、このクラスでは上記のような順番になる事が多いと思われる。また、SACDマルチチャンネルのソースをiLINK経由でテストしてみたが、DSP-AX4600はフロー制御を行っていないにも関わらず、さほど悪い印象は持たなかった。

 音質を重視する場合、CDあるいはDVDビデオなどは同軸S/PDIF、DVDオーディオやSACDはiLINKで伝送するように設定するといいだろう。

photo 豊富な入出力端子を備えたリアパネル部。写真左端にHDMIやiLINKなどデジタルインタフェースが集まっている

ライバルに対する“音の本質”を賭けた挑戦状

 こうした基本的な素性の良さは、もちろん映画などのサラウンド音声でもきちんと発揮される。従来のヤマハ製AVアンプは、ややDSPによる処理に頼りすぎていた印象がある。しかしDSP-AX4600の場合、DSP処理を行わない方がずっと自然かつ迫力があり、しかも小音量のパートでは繊細な表現力を見せてくれる。

 音楽を聴くときはもちろんだが、映画を見るときにもシネマDSPは用いず(できればYPAOの補正もオフにして)、ストレートデコードで楽しみたい。その方がずっと新鮮で瑞々しい音を感じることができるはずだ。DSPの優秀性に頼らず、本質的な音の質で勝負するアンプに仕上がっているともいえる。

 その点では(音質評価を行う際の切り口にもよるが)、最上位機種のDSP-Z9をも超えたアンプ部の素性の良さを感じ取れる。DSP-Z9には最上位機種なりの上質さがあるが、音の方向性からすればDSP-AX4600の方がはるかに鮮烈な印象を残す。

 やや視点を変えると、こうしたしっかりとした基礎の上にあるからこそ、シネマDSPやYPAOも活きてくるという印象だ。アンプ部の不足をデジタル処理で補うのではなく、基礎体力のあるアンプ部をベースに好みの味付けをデジタル処理で行うといったイメージだ。

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提供:ヤマハエレクトロニクスマーケティング株式会社
制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2005年7月31日