ソニー オーディオ事業本部テクニカルエキスパートの中野健司氏に、このバーチャルサラウンド技術の開発経緯についてうかがった。
「スピーカーを使った音像定位制御の研究開発は、5.1chが存在する前からやってきました。そのころは純粋に2つのスピーカーで、音をいろんなところに移動させるような段階だったんですが、だんだん5.1chという世界を2chスピーカーでも楽しめるようなフィーチャーが要求されるようになってきまして。それで97年に「SDP-EP9ES」というバーチャルサラウンドモードを搭載したAVプリアンプを出したのが、最初でしょうか」(中野氏)
それ以降この技術は、少しずつバリエーションを増やしながら、AVアンプの中に組み込まれていった。
「こうした研究と実用化の中で、2000年ぐらいだったでしょうか、弊社のPlayStation2のほうで音像定位制御をやるということになりまして。これはゲームの中でキャラクターの音などをリアルタイムで定位制御をして、自在に音を動かすというミドルウェアの開発ですね。そのほかにも音声認識やサウンドエフェクトなどいろんな音関係のミドルウェアを総称して、『S-Force』と名付けたわけです」(中野氏)
そしてS-Forceの中の音像定位制御技術を、再びAVのサラウンドのほうに応用したものが、「S-Force フロントサラウンド」というわけである。この技術は、同社BRAVIAのハイエンドモデル「Xシリーズ」にも搭載されている。
では「S-Force フロントサラウンド」と、「S-Force PRO フロントサラウンド」の違いはなんだろう。DAV-X1の商品企画を担当した、同オーディオ事業本部商品企画部シニアプロダクトマネージャーの羽賀豊氏にうかがってみた。
「S-ForceもS-Force PROも、基本的なアルゴリズムは同じですが、PROのほうはもうちょっとDSP処理のかけ方が多いという点が1つ。もう1つは、より良いサラウンド効果が得られるように、アンプやスピーカーを専用にチューニングしたモデルである、ということです」(羽賀氏)
その「S-Force PRO フロントサラウンド」を搭載したDAV-X1を実際にお借りして、筆者宅で試してみた。L/Rの小型スピーカーとやや大きめのサブウーファ、それにDVDプレーヤー兼用のAVアンプというセットである。接続は大元で1本につながった専用ケーブルで、本体の接続ほか各スピーカーもコネクタをカチッと差し込むだけ。簡単にセットアップが完了する。
そもそも5つも6つもスピーカーを置くのが面倒というところから始まる製品なので、接続がめんどくさかったらあんまり意味がないわけである。またメニュー設定のようなものもほとんどなく、できることと言えばサブウーファのレベルが変えられるぐらいだ。
さっそくいくつかのソースを試聴してみた。
んーーー。確かにスピーカーの位置よりも外側に広がっているのは感じるのだが、後ろに回り込む音というのは、条件が限られている。例えば低域を思いっきりカットした肉声や、高次倍音を多く含む鐘のような音は比較的後ろに定位するのはわかるのだが、その条件から外れると、どうも背後というよりも、頭上で鳴っているという感じがする。だがこれでも「バーチャル音痴」の筆者からしてみれば、画期的にそれらしく聞こえたほうだ。
筆者が聞こえないからと言ってDAV-X1がダメかというと、そういうことではないのだと思う。実際にこの製品のデモンストレーションでは、きちんと背後からの音と認識した人も多数いるわけである。
以前からバーチャルサラウンドは、ちゃんと聞こえる人と聞こえない人がいる、ということは知られていた。しかし最近の製品は品質が向上し、大多数の人がちゃんと聞こえるレベルになっているという。ただ筆者のように、それでもまだ取り残される人間というのも存在する、ということなのである。
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