ITmedia NEWS >

れこめんどDVD「無能の人」DVDレビュー(1/2 ページ)

» 2005年12月02日 17時57分 公開
[サトウツヨシ,ITmedia]

「無能の人」

(C)SHOCHIKU/Softgarage
発売日:2005年10月14日
価格:3990円
発売元:ソフトガレージ
上映時間:107分(本編)
製作年度:1991年
画面サイズ:ビスタサイズ・スクイーズ
音声(1):ドルビーデジタル/2.0chステレオ/日本語
音声(2):コメンタリー

 ついに発売ですね「スター・ウォーズ コンプリート・セット」。でも僕らは俺ら私めどもは「無能の人」を見てこの冬を乗り切っていきたいなーと思うのです。だって世知辛いじゃないですか。屈託して引きこもってニートじゃないですか。だから、自分をダメなほうへもっていきながらも、あがき転がり続ける、無能の人が小さな元気を与えてくれるのです。

 つげ義春の私小説的マンガを、「サヨナラCOLOR」の竹中直人が初監督・主演、独特なカンジで映画化した1991年作品。映像が目に浮かぶ印象的なセリフを引用しながらレビューしていきます。

「高度資本主義に機能しない無用の存在ってわけだ」by 竹中直人

 

 マンガ家として行き詰まってしまった妻子ある男が、選んだ仕事は多摩川河川敷の掘っ建て小屋で営む「石屋」。川原で拾った石にそれらしい名前を付けて売り物にするという、ふざけた所業に打って出ます。

 ここで注目したいのは、商品の原価がタダということ。無能といいつつも、どこかズルくて、ひとやま当ててやろうという男気が感じられます。でもそれは間違ったベクトルで大いにヤル気を出しちゃってることはいうまでもありません。

 石屋のほかにも多角経営に乗り出そうとします。ボートの代わりにオンブで渡し屋をやる、1人100円。散発で捨てられてしまう髪の毛を何とか商売に利用できないか。中古カメラ屋、古物屋などなどフツーにマンガを描いたほうがラクなんじゃないかっつーくらいに、自分から逃げていきます。

 「やりたいこと探し」や「自分探し」のために転職する人がいるようですが、人にとって大切なのは「自分なくし (c)みうらじゅん」なんだなーとつくづく思うのです。ちなみに見出しのセリフは、探石に出かけた宿のおフロでのひと言。とても切羽詰っている妻子ある男の言葉とは思えないお気楽さです。

「孤独、後悔、涙……まるで俺みてえだな」by 三浦友和

 とここまで書いて、原作マンガのレビューでも、映画のレビューでも通りそうなカンジになってます。なぜなら、竹中直人監督が、原作の世界をほぼ完コピしているからなのですが、それほどまでにつげ義春作品が好きというか大ファンなんですね。

 で、つげワールドを忠実に再現しているかというと、つげファンからはきっと異論があるでしょう。根底にあるドロっとしたカンジや、エロいカンジがない、とお嘆きの貴兄もいらっしゃることでしょう。

 でも、そうしたらVシネみたいになっちゃうじゃないですか。「ガロ 1991年11月号」(青林堂)のインタビューで竹中監督は「(次回作はエロチックな)“隣の女”を膨らませてやりたいんですよ」と語っていますが、やっぱり実現していません。アラーキーこと荒木経惟&陽子夫妻が原作だった「東京日和」もそうでしたが、竹中監督はつげ義春やアラーキーが好きなくせに、エロ描写がイヤなんだろうなーと勝手に思うのです。

 一方だからこそ、ストーリーは原作そのままに、映像の色彩とキャラを与えた竹中作品ならではの魅力もたくさんあります。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.