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れこめんどDVD「無能の人」DVDレビュー(2/2 ページ)

» 2005年12月02日 17時57分 公開
[サトウツヨシ,ITmedia]
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 たとえば川原で営む石屋の小屋に背中を丸めて収まる主の姿は何ともいいカンジです。セットが残っていたらぜひ、コックピット感覚の店の中に座ってみたい、と思うはず。

 その店頭にちょくちょく現れるチンピラ風のおじさんに三浦友和。このキャスティンがいい。竹中作品の特徴ですが、いろんな人たちが意外な役で出てきます。

 のっけから川原をランニングする団体はワハハ本舗の面々だし、川原に所在なげにいる人々の中から「バカヤロウ」と泉谷しげるの声がします。出入りの編集者はいとうせいこうだし、仲のいい古本屋の店主は大杉漣、原田芳雄、井上陽水、本木雅弘の登場もお楽しみ。そして心の暗闇を投影したナゾの人物、鳥男はなんと今は亡き神代辰巳監督なんでーございやす。って急にショスタコビッチ三郎太になるこたあないのですが。(「恋のバカンス DVD-BOX」も発売中ですね)

「この広い宇宙に3人だけみたい」by 風吹ジュン

 このセリフが本作のキモだったと、竹中監督はいいます(前出の「ガロ」より)。キーアートにもなっている自分が真ん中で手をつないで、夕日の中をとぼとぼと歩く3人の姿は、絶望的ながら幸せそうにも見えます。BGMはゴンチチによる「峠の我が家」でジーンときます(サントラCDも発売中)。

 ちなみに「無能の人」に続く監督・主演第2作目「119」は、海沿いをゆっくり走る地元消防団の消防車をみてインスパイアされたといいます。竹中映画における初期衝動は、この絵を撮りたい、というところから始まっているんですね。「わが子の運動会を撮りたい」という気持ちとは大きく異なります。

 何を言ってるんだお前はというカンジですが、下手するとフツーの絵になりそうなところが、妙に印象的なシーンになっている場合が、この作品には多いということがいいたいのです。

 大したことは何も起こらないのに、見ていて気持ちいい。団地暮らしの室内の調度、ガラス戸、石油ストーブに乗っかった黄色いケトル。カミさんのふくらはぎをマッサージしてやるそのそばに小さな息子が座っている。ダイニングに立つカミさんの後姿(とにかく本作、背中のシーンがやたらと多い)。などなど、思い込み激しく列記してみましたが、琴線に触れない人にとっては退屈なシーンでしかないのかもしれません。

 こういうノリで家族を描いたほかの作品は、小津安二郎「東京物語」、最近では石井克人「茶の味」ってところでしょうか。「無能の人」にも「茶の味」にも確実に小津テイストが入っています。

「Yo! 会長の石山石雲です」by マルセ太郎

 といってインパクトのある顔で登場するのは、愛石界の重鎮を演じた故マルセ太郎さんです。その弟子を演じるカンベちゃんこと神戸浩のピンボケした表情と合わせて楽しむDVD画質は感無量です。ってそんなヤツはいねえよって話ですが、画面サイズはビスタサイズ16:9レターボックスで収録。筆者は4:3のフツーのフラットブラウン管で見ているのですが、フィルムのプチプチノイズはそのままに、それはそれとして味ということでしょうか。音声はドルビーステレオのみ、以上。かと思いきや、Amazonから納品されてびっくり。コメンタリーが竹中直人&田中要次(当時は照明助手)っつうオマケが心憎い。かなり面白いです。

 本作とともに、ビシバシステムと繰り広げるシュールなコントを収録した「普通の人々」、周防正行監督が舞台の模様を収録した「異常の人々」も同時発売。さらに伝説の深夜バラエティ「恋のバカンス」もDVD-BOXで登場。ナンの男、流しな2人、とっくりブラザーズとまた会えるなんてステキです。てなわけてナゼが続々登場の竹中作品に大注目といえるでしょう。


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