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CS放送業界の法整備が急務だ西正(2/2 ページ)

» 2005年12月09日 11時49分 公開
[ITmedia]
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シンプルな構図の構築を目指すべき

 法制度を見直すことは大変な作業になるかもしれないが、それが行政の仕事である以上、大変だということは言い訳にならない。そして、大作業を行うことによって実現すべき改正後の姿とは、実は誰の目から見ても分かり易いシンプルな構図の構築なのである。

 米国の多チャンネル衛星放送大手のディレクTVの構図は非常にシンプルである。ディレクTVは、多チャンネル放送局として、放送事業者でありプラットフォーム機能も兼ね備えている。また衛星も自社の所有するものとなっている。

 多チャンネルを提供する事業者はすべて番供という位置付けである。そのため視聴者が有料視聴契約をする相手は放送事業者たるディレクTVだけである。視聴者は自分の視聴する番組についての料金をディレクTVに支払うという構図となるため、同じチャンネルを見ているのに、途中で契約相手の変更が必要になるといったことは起こり得ない。個人情報もプラットフォームたるディレクTVが持っている。

 ディレクTVに限らず、受信機は汎用機でなく、多チャンネル放送局の専用受信機を使い、著作権管理のためのCASもそれぞれの多チャンネル放送局が自社独自のものを使うことになっている。米国では地上波に限らず、CS放送局についても外資規制が適用されている。一方、個別の番供についての外資規制はないため、100%外資であっても構わないという形になっている。

 この米国の制度は非常にシンプルであり、それでいて視聴者にとても分かりやすい。

 英国の多チャンネル衛星放送大手のBSkyBも仕組みはシンプルだが、こちらはハード・ソフト分離の体制が採られているため、衛星は自社保有とはなっていない。それ以外の点は米国の仕組みと全く同じである。もっとも、英国のケースでも、衛星を自社保有こそしていないものの、BSkyBの全額出資となっているため、単純に別会社形式となっているだけで、事実上は米国の仕組みと変わらない。

 英米の仕組みと比べると、わが国の衛星多チャンネル放送事業の制度が、いかに視聴契約者から分かりにくく、かつ不親切なものであるかは一目瞭然である。

 衛星の直接受信とCATV経由の受信を合わせれば、わが国のペイテレビ視聴世帯は1000万件の大台を迎えようとしている時期である。今後のさらなる発展を目指す上では、英米のような制度を参考にシンプルな形に変えていくことは急務だろう。

 単純にプラットフォーム事業を総務省の許認可事業の1つとして加えるだけでは意味がない。むしろ、放送事業者としての位置づけを行い、チャンネル側の事業者を委託放送事業者であるとか、役務利用放送事業者であるという位置づけにしておくことの正否が検討されるべきだろう。

 前段で述べたようなケースのように、視聴者が契約手続き等も含めて、意味不明な混乱を起こさないようにすることが最優先されるべきだ。視聴者側で混乱が起これば、クレームはプラットフォーム事業者に寄せられる。そうした事情からも、視聴者側の意識としては事実上、プラットフォームが多チャンネル放送事業者であると考えられているのではないかと思われる。

 現状はCS放送のプラットフォームはスカパー!が1社だけという状況である。スカパーを多チャンネル放送事業者として位置づけてしまうと1社独占になってしまい、独禁法の問題が出てくるのではないかという意見もある。

 しかし、それを言うならば、ディレクTVが日本から撤退することとなり、スカパーに統合されることになった時点で問題視されるべきことであったはずであり、今になって1社独占に異議を唱えることはお門違いである。放送事業は許認可事業であることが当然なように、許認可事業の場合には、ある程度の寡占、独占があっても、その弊害は起こりにくいというのがこれまでの共通認識である。電力会社の地域独占を非難しても無意味なのと同じ理屈だ。

 ちなみに、米国のディレクTVがわが国の市場に参入してきた際にも、こうした不可思議な制度が採られていることには面食らったと聞いている。そのため、委託放送事業者の数を極力減らして、その下に多くの番供を付けるというスタイルを採った。当時は、新規参入を容易にする委託放送事業者制度の良い面ばかりが注目されていたために、ディレクTVのモデルはプラットフォーム主導になり過ぎているという見方が強かった。

 しかし、こうして多チャンネル放送の制度矛盾が目立ち始めてみると、むしろディレクTVの採った方法の方が合理的であったことが分かる。ディレクTVが早々に日本市場からの撤退を決めたのも、加入者が伸び悩んだとか、スカパーとの競争に勝ち目がないと判断したためではなく、こうした不可思議な制度の中での競争を断念したと捉える方が正しいように思われる。

 日本独自の放送規格が存在することにも十分な意義はあると思う。だが、それが制度上の不備によるものは是正されるべきである。

 ペイテレビ市場の健全な発展を期待するのであれば、視聴者にとって分かりやすくシンプルな構図を構築することが、最大のプライオリティーなのではないだろうか。

西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「IT vs 放送 次世代メディアビジネスの攻防」(日経BP社)、「視聴スタイルとビジネスモデル」(日刊工業新聞社)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。

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