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北米版HD DVDソフトに見る「VC-1の画質」コラム(2/2 ページ)

» 2006年05月02日 12時52分 公開
[本田雅一,ITmedia]
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まだ実力を引き出せていないVC-1

 今回、北米で発売されたディスクは、すべてVC-1がコーデックとして採用されている。”8MbpsでもHDクオリティ”と喧伝されたVC-1だが、映画の上映時間や音声トラック、特典映像などから類推するに、12M〜16Mbpsで制作されているようだ。

 グレインをフィルタで落とした映像に対しては、このビットレートで十分な解像感と階調性を引き出しているようだが、同じくVC-1を用いたアポロ13を見る限り、映像圧縮にはかなり苦労しているようだ。

 VC-1のエンコーダはマイクロソフトが開発し、それを東芝が仲介してワーナー系のグローバルデジタルメディアエクスチェンジ(GDMX)やユニバーサルからの発注が多いデラックスといったDVDプロダクション会社に導入されているという。

 今後、VC-1のアクセラレータが登場すれば、リアルタイム圧縮のエンコーダサーバも使われるだろうが、現時点ではリアルタイムでの圧縮は不可能とのこと。加えてコマンドラインベースのエンコーダや分析ツールしかなく、これらに簡単なフロントエンドツールを付け加えることで作業を行っているという。

 これらの問題はいずれ解決するだろうが、現時点では圧縮結果を分析し、それを圧縮パラメータに反映させ、シーンごとに細かな調整を加えるといった細かなチューニングが行えない。アポロ13で歪みやノイズが出るのも、現時点では最適化を進められるほど圧縮作業に余裕がないからだろう。

 言い換えればVC-1は、まだその実力を完全には引き出せていない可能性が高いということだ。

 たとえばハリウッド取材でベースバンド映像との比較試聴をさせてもらった松下製のH.264エンコーダは「圧縮パラメータの最適化はしていない」という映像クリップでも、16Mbpsならばグレインが多めに残る状況でも、ほとんど歪みやノイズが見えない(なにしろ縦10フィートの巨大スクリーンを間近で見ても歪みがほとんど発見できないほど)。最適化を行ったものであれば、12Mbpsでもかなり良い結果が得られていた。

 松下製エンコーダを用いたソフトの登場は初秋あるいは晩夏と見られる。ソニーピクチャーが自信を持っているという、熟成を重ねたVBR18MbpsのMPEG-2にも期待したいところだ。

 これらの材料が揃い、比較する頃には、VC-1の画質ももっと追い込まれていることだろう。ただ、ひとつ言えるのは、北米版タイトルはどれを購入しても、十分にDVDあるいはハイビジョン放送との違いを感じられるだけのパフォーマンスを備えていること。そして、さらに今後は伸びる可能性があるということだ。

悩ましい音声出力の問題解決を

 HD-XA1のアナログ音声出力は、中低域の厚みが不足気味ではあるが、なかなかキレのよいちゃんとした音が出てくる。HD DVDで採用されているDolby Digital Plus音声は、通常のDolby Digital(AC3)に比べ、音の分離やダイナミックレンジ、周波数レンジに優れ、特に高域の分解能がよく感じた。セリフの滑舌も良く聴きやすい。音質の面でも、新コーデックによる進化の恩恵はハッキリ体感できる。

 ただし残念なことに「オペラ座の怪人」に収められているDolby TrueHDの5.1chトラックは、本機では2chでしか再生することができない。今のところ発売されているHD DVDプレーヤーは、本機と同じ東芝のHD-A1のみだから、せっかくロスレス圧縮の高音質トラックがあるというのに、それを100%生かせない。

 またiHDを用いたアドバンストコンテンツは、効果音やサブ音声ストリームをデジタルレベルでミキシングするため、すべての音声ストリームを解凍し、ミキシングしてから出力しなければならない。このとき、S/PDIF端子からはDTS(フルレート)のストリームが出てくる。ミキシング後の音声をリアルタイムのDTSエンコーダで再圧縮しているのである。

 リアルタイム圧縮のためか、このときのS/PDIFからのDTS音声は、低域の量感や中域の厚みはあるものの、高域のヌケがやや悪い。総じてアナログで接続した方が良い結果が得られるのだ。このほかリニアPCMあるいはDolby Digital Plusで収録された音声トラックは、HDMI 1.1を通じてマルチchリニアPCMとして出力することもできるが、このときの品質はわからない(筆者がHDMI 1.1対応のAVアンプを所有していないため)。

 このように現時点ではアナログで5.1ch接続を行うのが、HD-XA1の音声を最も生かせる方法ということになる。その場合もTrueHD(あるいはDTS-HD Master Sound)といったロスレス圧縮音声は使えないが、とりあえずはDolby Digital Plusのレベルでも十分に音質の改善は体感できる。

 いずれにしろ、こうした音声出力にまつわる仕様にいち早くメスが入ることを期待したい。

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