ITmedia NEWS >

放送機器に見るビデオフォーマット戦略の行方小寺信良(1/3 ページ)

» 2006年05月15日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 先週発表されたAVCHDフォーマットは、センセーショナルな受け止められ方をしたようだ。筆者もつい先日、コンシューマーのビデオカメラ事情と技術予測を行なったばかりであるが、この件に関しては全く知らなかった。

 以前のコラムではH.264採用のビデオカメラの出現までは予測していたが、DVDメディアを使ってHD映像を記録するというのは、戦略的にタブーであろうと考えていた。その理由の一つは、そもそもDVD Videoフォーマット、あるいはDVD VRフォーマット内でハイビジョン解像度の映像を記録するのは、規格外だからである。

 一部ソニーのVAIOでは、HDVで記録した映像をデータとしてDVDメディアに記録する「HDディスク」という独自規格のものを作成することはできた。だが当然通常のDVDプレーヤーなどでかかるわけもなく、再生はPCでしかできない。

 もう一つの理由は、安価なDVDメディアでHD記録ができるようになれば、次世代DVDへの期待と普及に水を差す結果になる。SDとHDのメディアの線引きは、ここできっちりやっておかなければならないだろうと考えたからだ。

 AVCHDフォーマットの立ち上げは、いい意味で期待を裏切ってくれた感がある。だがこれは、ビデオカメラだからこそできた芸当であろう。なぜならば、自分で撮影する映像であれば、DRMを考えなくて済むからである。従ってこのフォーマットを使って、DVDレコーダーなどでハイビジョン番組を記録するといった応用は、現時点ではないと見るべきだろう。

 一方で松下電器からの発表では、このフォーマットをSDカード記録へ応用するという。この動きは、先日開催された世界最大規模の放送機器展示会「NAB2006」を取材していれば、ある程度予測されたことである。

 今回は放送機器におけるビデオフォーマットの動向と、世界のデジタル放送の潮流に付いて考えてみる。

Panasonicが描くシナリオ

 そもそもコンシューマーの方では、PanasonicはSDカードに動画を記録する製品として「D-Snap SV-AV10」を2002年からスタートさせたが、まだビデオとしては画質的にも見るべきものはなかった。本格的にMPEG-2で撮影できるようになったのは、2003年の「SV-AV100」からである。

 ちょうど同年に開催されたNAB2003では、SDカードをベースにしたメモリ記録型の放送用カムコーダを参考出展している。これがのちの「P2」となる。

photo NAB2003で参考出品されたのちのP2のモックアップ

 P2とは、Panasonicが展開するメモリーカード記録の製品群で、SDカード4枚を内蔵したPCカード大の「P2カード」を使用する。ターゲットとしては業務〜プロユーザー向けで、2004年からStandard Definitionの製品がリリースされた。

 しかし日本の放送業界では、当時からHigh Definitionの製品しか興味を持たれていなかったこともあり、P2のHigh Definitionの製品が待たれていたが、昨年の2005年にようやくP2でHD記録ができるカムコーダ「AG-HVX200」が発売された。

 ただこのカメラは小型で、Vシネマのような低予算の撮影にはリーズナブルだが、CMや番組用途としてはもの足りない。NAB2006では、もう少し上の用途で使える大型カムコーダ「AJ-HPC2000」が参考出展された。

photo P2 HDの大型カムコーダ「AJ-HPC2000」

 そして同時に発表されたのが、将来のP2 HDではH.264で記録するというオプションプランである。標準ではこれまでどおり、録画コーデックとしてDVCPRO HDを採用しているのだが、いかんせんこのコーデックはテープ記録をベースにしたフォーマットなので、HD記録をうたいながらも輝度信号の横の解像度は、1280ピクセルしかない。

 小型テープならこれでも仕方がないとしても、ファイルベースで記録するP2では、解像度を削減してまで圧縮する意味はない。だが現状のDVCPRO HDでさえ最高容量の8Gバイト P2カードには、1080/60iの映像が8分しか撮れない。いずれは倍の容量のP2カードが出るにしても、容量単価が高いメモリ記録では、これ以上のビットレート増加はコストに合うか厳しいことになる。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.