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放送機器に見るビデオフォーマット戦略の行方小寺信良(2/3 ページ)

» 2006年05月15日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 ちなみに8GバイトのP2カードはオープン価格ではあるが、現在1枚17万円程度である。Panasonic製SDカードの2Gバイト High Speed版は、市価2万2〜3千円といったところだろう。これが4枚入って、多少P2カード内の回路などがあるとしても、SDカードの市場価格がP2カードにも反映するのである、というPanasonic側のシナリオからすれば、P2カードは現在1枚10万ちょっとぐらいになっていないとおかしい。

 それはやはり流通である専門店がメディアで利ざやを確保したいという思惑があり、メーカーのシナリオどおりに世の中は動かないという事でもある。このまま16GバイトのP2カードが出たら、おそらく1枚で25万円を超えるのではないか。それがカメラには5枚入りますということで、スロット全部埋めたら125万。いくらカメラ本体が安いとはいっても、メモリまで含めたらそう安い買い物でもなくなってしまう。

 そこでP2カードの容量は据え置きで、さらに高圧縮可能なH.264へシフトするオプションが用意された、ということだろう。だがこれはいたずらに古いコーデックに拘泥するよりも、現実的な解である。そしてこれと同時進行でコンシューマーへの応用が考えられていた、ということになる。

 Panasonicの商品戦略が面白いのは、プロとコンシューマーの技術開発が常にミクスチャーされていることである。大量消費のコンシューマー市場で利益確保、プロ市場では低価格路線でソニーの牙城崩し、という両輪を回しながら、前に進んでいる感じがする。

 この延長線上には、基幹技術は共通で、プロとコンシューマーの違いはビルドアップの方向性だけ、という形が見えてくる。

SD高画質へ突っ走るEU

 ただ一口にH.264とは言っても、実際には実装されるコーデックとしては、プロとコンシューマーでは違ったものになるのではないかという気がする。現在P2で実装が発表されたH.264は、フレーム間圧縮を行なわず、全部がイントラフレームの「AVC-Intra」である。

 一方でAVCHDのほうは、特にイントラフレームに関しては言及されていない。だがビットレートが上限で18Mbps程度であることを考え合わせると、フレーム間圧縮はあるものと考えていいだろう。

 なぜプロ用はフルイントラ、すなわちGOP的に言うならばIフレームオンリーであるかというと、これは編集による画質劣化を避けるためである。MPEG-2のGOP編集は、いったん編集点付近のGOPを非圧縮まで戻して編集したのち、再圧縮する。従って編集点付近で画質劣化が見られる。

 コンシューマーではあまり問題にならない程度の劣化であるが、プロの編集作業では、同じ編集点付近で編集のやり直しを頻繁に行なう。従って何度も同じポイントで解凍再圧縮を繰り返すことになる。このためP2では、IフレームオンリーのH.264が必須と考えたのである。

 このMPEG系の圧縮アルゴリズムを使いながらIフレームオンリーという考え方は、今に始まったことではない。2000年に発表されたものの、日本ではほとんど黙殺に近い扱いを受けたソニーのMPEG IMXも、SD解像度で50Mbps、Iフレームオンリーのフォーマットである。これ以前にはBetacam SXという25Mbpsの記録フォーマットがあったが、これは2フレームのGOPであった。

 このソニーのMPEGフォーマット戦略を見ていると、日米でなくヨーロッパの放送事情が見えてくる。SDのままで高画質化を図ったMPEG IMXは、元々ヨーロッパ市場の要求を受けて作られたものだ。

 もちろんヨーロッパでもすでにデジタル放送がスタートしているが、日本のようにデジタル=HDという図式ではない。SDのままでさらなる高画質化が求められているのが、ヨーロッパ市場の特徴である。有料の衛星放送ではHD放送も始まっているが、地上波などのHD化が始まるのは、あと3〜4年はかかるというのが、大筋の見方だ。

 MPEG IMXは8chのオーディオトラックを持っているが、これもヨーロッパ特有の事情がある。というのも、国の境目と言語の境目が、必ずしも一致しないからである。国内に複数の言語を話す国民がいる場合、放送としては複数言語でコンテンツを制作しなければならない。

 さらにEU加盟国間で番組交換などを行なおうとすれば、さらに多言語に対応する必要がある。だが8chトラックあれば、1本のテープにステレオ音声で4カ国語が収録できる。

 2003年には、初期のBlu-ray技術から枝分かれしたXDCAMを発表したが、この時点ではまだSDにしか対応していない。だがこれも欧米では受けた。アメリカで人気のDVと、ヨーロッパで人気のIMXフォーマットで記録できたからである。もちろんディスクメディアならではの利便性も評価されただろう。

photo DV/MPEG IMX対応XDCAMスタジオデッキ「PDW-3000」

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